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石川県商工労働部長 内田 滋一
ISICOは設立以来、県商工労働部と密に連携し、意欲的に挑戦する中小企業を支援しています。そこで今回は、新型コロナウイルス感染症のまん延や原油・原材料価格の高騰への対応に向け、県の6月補正予算に盛り込まれた新たな施策などについて、内田滋一県商工労働部長に語ってもらいました。
県経済の状況は、全体的には持ち直しつつありますが、まん延防止等重点措置の延長などの影響により、とりわけ観光・飲食業などの業種が厳しい状況に置かれています。
加えてウクライナ情勢や円安の進行により、原油・原材料価格の高騰が深刻化し、コロナ禍からの回復の足かせとなることが懸念されます。
こうした状況を踏まえ、地域経済の再生をより確かなものとするため、6月補正予算では「新型コロナウイルスの影響の長期化への対応」と「原油・原材料価格のさらなる高騰への対応」の二つの側面から経済対策を講じました。
まず、感染症の影響の長期化に対応するため、「セーフティネットの拡充」と「需要の喚起」に取り組みます。
セーフティネットの拡充として、先の当初予算では、国の事業復活支援金に上乗せする形で、全国トップクラスの「石川県事業復活支援金」を創設し、事業者の事業継続・回復を支援しています。しかしながら、2度にわたる「まん延防止等重点措置」の延長により、特に売り上げの減少幅の大きい事業者から、苦境を訴える声を聞いています。こうした声を踏まえ、全国トップクラスの支援金をさらに手厚く充実し、法人に対しては、売上規模に応じて国制度の半額まで上乗せ給付することとしました。個人事業主に対しても同様です。
具体的には、売り上げが5割以上減少している中小企業には最大125万円、個人事業主には最大25万円を給付します。3割から5割減少している中小企業には最大75万円、個人事業主には最大15万円を給付します。
また、事業者の資金繰り支援としては、2020年度に新型コロナウイルス感染症緊急特別融資(いわゆる「ゼロゼロ融資」)を創設し、リーマンショック時の2倍を超える約2,700億円もの資金を供給してきました。今後、返済が本格化することになりますが、想定以上に長引く感染症の影響により、企業によっては返済に対する不安の声も聞いています。そのため、コロナ対策融資としては東京都と並び、全国で最長となる15年の融資期間の新たな借換融資制度を創設し、金融機関ともしっかり連携して事業者の資金繰りに万全を期します。事業継続の一助として、ぜひお役立てください。
もちろん、単に事業継続を後押しするだけでなく、落ち込んでいる地域経済を回復軌道に乗せていくことが必要です。そのためには、感染拡大の防止をしっかりと図りつつ、需要喚起策を講じていかなければなりません。
需要喚起策としては現在、プレミアム率を20%とした県独自の「石川県民飲食店応援食事券」を発行しています。厳しい状況に置かれている飲食店を、引き続き支援するため、利用期限を従来の7月24日から9月末まで延長の上、25万冊、30億円を追加発行し、総額90億円の需要喚起を図っています。
加えて、従来は郵便局で平日のみの販売でしたが、平日の購入が困難な県民にも購入いただけるよう、土日祝日についても、能登や加賀も含め、12カ所の商業施設などでも購入いただけるようにしました。
原油・原材料価格のさらなる高騰への対応も急務の課題です。
まずは、事業者からの相談にきめ細かく対応していくことが重要と考え、事業者の経営課題やニーズに応じて適切な処方箋を提供するISICOを中心とした専門家の派遣制度について、派遣枠を4,000回から5,000回に拡充しました。原油・原材料価格の高騰によって収益が悪化している事業者は、無料で何度でも利用可能です。
また、原油・原材料価格の高騰の影響を受ける事業者の資金繰りについても支援します。具体的には、これまで売上高の減少(▲3%)を融資要件としていた「経営安定支援融資」について、売上高が減少していなくても原油・原材料価格の高騰により粗利が減少(▲3%)した事業者を融資対象に加えた上で、融資枠も50億円拡大しました。
そして、原油高や製造業における人手不足など、企業経営に逆風が吹いている今こそ、省エネやデジタル化を通じてコスト削減や業務効率化、生産性の向上を図り、競争力を高めていくことが必要です。こうした取り組みを行う企業をしっかりと後押しするため、県内企業の省エネ設備の導入を当初予算でも支援しているところですが、多くの企業からの強いニーズを踏まえ、支援枠を大幅に拡充し、今般追加募集を開始しました。
また、デジタル化の設備導入支援の採択枠についても、当初予算と合わせて360件とし、2021年度の3倍の規模を確保するとともに、新たにサプライチェーンの効率化など、複数の企業が連携して行うデジタル化の取り組みに対しても支援します。
加えて、原油・原材料価格の高騰によって、厳しい経営状況にある事業者の収益力の強化を図るため、付加価値の高い商品・サービスの開発を支援することとしました。
ISICOや商工会、商工会議所などにおいては、原油価格の高騰やウクライナ情勢などにより影響を受ける中小企業・小規模事業者を支援するための特別相談窓口を設置し、資金繰りや経営に関する相談を受け付けているので、ぜひご利用ください。
県政の羅針盤とも言える現在の総合計画「石川県長期構想」の策定後、社会・経済情勢は大きく変化しています。特に、新型コロナウイルス感染症のまん延は、社会の在り方に大きな影響を与え、今後はウィズコロナの道を模索することが求められます。また、グリーン社会の構築や、官民挙げてのデジタル化を進め、民間投資やイノベーションを喚起し、県経済の成長の原動力として取り込んでいくことが重要です。
これらを踏まえ、新たな総合計画として「石川県成長戦略(仮称)」を、来年秋頃をめどに策定します。また、将来に向けた産業の成長は、新たに策定する総合計画の重要な柱となることから、新たな産業振興の指針についても、連動して策定します。
県産業を将来に向けて大きく成長させていくためには、多様な新産業の創出が大きな原動力となります。石川県は高等教育機関が集積し、大学における研究開発から新たなビジネスが生まれる大きなポテンシャルを有しています。こうした強みを生かし、県内大学の持つ研究シーズを新事業創出につなげるため、大学や地元金融機関等と連携して、専門家の知見を活用しながら、有望な研究を発掘するとともに、事業化に向け、スタートアップの段階に応じた支援を実施します。
今後、継続的にスタートアップの創出を目指し、本県経済の成長につなげていきたいと考えています。
国はカーボンニュートラルという世界的な動きに対応し、新たな成長産業の育成を目指しており、県としても、これまで培ってきた技術を活用できないか、昨年度に研究会を設置し検討を進めてきました。
その結果、水素と洋上風力の分野などに、県が次世代産業として育成してきた炭素繊維の加工技術の活用が期待できることから、今後、新たな成長分野として集中的に取り組むべきとの方向性が示されました。
このため、新たに、県の炭素繊維複合材料研究の拠点であるICC(白山市)を中心に、水素タンク等の試作など、市場参入に向けた検討・調査を進めています。
また、奥能登地域の「春蘭の里」において、次世代エネルギーとして期待される水素を活用したエネルギーの地産地消モデルを構築するとともに、能登では「のと里山空港」、金沢では県庁近くにある「産業振興ゾーン」に水素ステーションを整備する計画です。
県としては、今後とも、県内経済の状況や国の経済対策等も注視しながら、ISICOや関係機関との連携のもと、これまで以上に事業者に寄り添った支援を積極的に行うとともに、将来に向けた企業の研究開発の支援等を通して、県産業の競争力の強化に取り組んでいく考えです。
(公財)石川県産業創出支援機構
理事長 田中 新太郎
この3月に石川県副知事を退任し、4月1日付けで公益財団法人石川県産業創出支援機構(ISICO)理事長に就任した田中です。43年の行政経験を生かし、県内中小企業のさらなる振興・発展のため精一杯頑張ってまいります。
今、県内中小企業の多くは、新型コロナウイルス感染症のまん延長期化やロシアのウクライナ侵攻等により、経済活動の制限や原油・原材料価格の高騰などの影響を大きく受けるとともに、先行き不透明な状況の中で、さまざまな困難に直面しています。こうした中、ISICOでは、石川県の産業政策の実行部隊として、喫緊の課題である新たな販路開拓や省エネ設備の導入支援をはじめ、よろず相談や各種専門家派遣、事業承継・引継ぎ支援、新商品・新技術の開発支援、創業やデジタル化支援など、県内中小企業の多様なニーズにきめ細かくかつ丁寧に対応しています。
今後とも、県内中小企業の業績回復や成長に向け、ISICOが国や県とこれまで以上に連携して全力でサポートしてまいりますので、どうかお気軽にご相談・ご来構ください。お待ちしております。
企業名 | 公益財団法人 石川県産業創出支援機構 |
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創業・設立 | 設立 1999年4月1日 |
事業内容 | 新産業創出のための総合的支援、産学・産業間のコーディネート機関 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.123 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.123より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.123 |