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和洋菓子を製造販売する宝達山本舗 松月堂が新開発した「能登の極上素材プリン」の売り上げが右肩上がりに伸びている。その名の通り、能登産の厳選素材を使った濃厚な味わいが好評だ。冷凍して保存、発送できることも大きな特長で、大手百貨店のECサイト、ギフトカタログに採用されるなど、着々と販路を拡大している。
能登の極上素材プリンは、能登産のこだわり素材を使って熟練した職人が丁寧に手作りしている。植物性飼料とハーブを食べて育ったニワトリの卵、施設や品質の管理が行き届いた牧場から集められた新鮮な成分無調整乳、地元の丸大豆と能登海洋深層水を原料に杉樽で熟成した天然醸造しょうゆなど、8割近くが能登産の素材だ。
素材の風味を生かした味わいは濃厚かつクリーミーで、焦がしキャラメルにしょうゆを加えたほんのり和風のシロップとも絶妙にマッチする。
伝統的な製法で作られる蒸しプリンとしては国内で初めて、冷凍で30日間保存できることも大きなセールスポイントだ。夏は1時間、冬は3時間、常温で置いておくか、冷蔵庫で一晩かけて解凍すれば、できたてのおいしさが味わえる。
ISICOの販路開拓支援を受け、ANAの通販サイトを皮切りに、大和や大丸松坂屋、三越伊勢丹、文藝春秋、加賀屋の通販サイトやギフトカタログなどに採用され、2019年11月の発売から約3年で年間2万個あまりを売り上げるヒット商品に成長した。
開発のきっかけは、過疎化が進む宝達志水町で事業を継続していくため、全国に発送できるような新商品を作りたいという思いだった。当初は松月堂の看板商品の一つである宝達葛(くず)の活用を検討した。しかし、葛を食べる文化がない都市部では苦戦が予想されたため、ISICOのアドバイザーにも相談の上、同店の人気商品である「しょうゆプリン」をブラッシュアップする方針を固めた。
開発にあたっては、同社としては初めてマーケットインの手法を取り入れた。百貨店のバイヤーらのヒアリング調査を実施したほか、地元の商工会の協力を得て、東京で開催された物産展での試食提供、アンケート調査などに取り組んだ。
その中からつかんだニーズの一つが冷凍できる蒸しプリンだった。ゼラチンなどの凝固剤で固めるプリンと違い、伝統的な製法で作る蒸しプリンは、冷凍すると解凍時に水分と油分が分離し、食味が大きく損なわれてしまう。そのため賞味期限は冷蔵で5日間ほど。冷凍できて賞味期限が延びれば、在庫管理しやすく通信販売でも取り扱いやすくなる。
蒸しプリンを冷凍するにはどうすればよいのか、松田健太代表は約1年の試行錯誤の末、添加物を極力使わず、材料やレシピ、製造工程において小さな工夫を積み重ねることで、解凍してもほとんど食味が劣化しない蒸しプリンを実現した。製法は特許申請中だ。
味には自信があったが、自己満足ではいけないと第三者による評価にも積極的に取り組んだ。
2020年にはグッド石川ブランド製品として認定を受けたほか、農林水産省が主催する「フード・アクション・ニッポン アワード 2020」の入賞100産品にも選ばれた。
また、海外での販路開拓を見据え、2021年には国際味覚審査機構(本部:ベルギー)が主催し、世界トップクラスのシェフやソムリエが評価する「優秀味覚賞」で一つ星を獲得した。
ISICOアドバイザーの橋渡しによって採用された航空会社や百貨店の通販サイトでの注文は、最初こそ1週間に1箱ペースだったが、今では多いときには1日50箱が売れ、売り上げの柱の一つになっている。コロナ禍の中での巣ごもり需要にもマッチした。
大切な人へのプレゼント、自分へのごほうびとして好評で、松田代表は「同様の商品はこれまでなく、新たな市場を開拓できた。廃棄もゼロでSDGsの理念にも沿っている」と胸を張る。
2021年11月には、シロップにユネスコの無形文化遺産に登録されている縁付(えんつけ)金箔を入れたプレミアムセットを発売した。通常版がプリン6個に別添えのシロップが1本付いて6,000円~(税・送料込み)なのに対し、プレミアムセットは1万800円(同)とプリンとしては高価だが、思った以上に評判が良く、今ではプレミアムセットの注文が半数以上を占めるまでになった。
さらにラインアップを拡充しようと、ISICOのいしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド事業の助成金を活用し、地元産の「志宝いちご」を使った商品も開発し、昨年11月に発売した。
「今の売れ行きが今後もずっと続くわけではないので、時代のニーズに合わせて新商品を開発していきたい。世界中に売る自信はあるので、ゆくゆくは海外でも販路を開拓したい」と将来を見据える松田代表。石川発スイーツの一層の飛躍に期待したい。
企業名 | 宝達山本舗 松月堂 |
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創業・設立 | 創業 1964年 |
事業内容 | 和洋菓子の製造販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.126 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.126より抜粋 |
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掲載号 | vol.126 |