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総額400億円のファンドの運用益を活用し、中小企業の商品開発などを後押しするISICOの「いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド事業」(以下、チャレンジ支援ファンド)では、5年間で348件を採択した。採択された企業はその後、どのように助成金を活用し、成果に結び付けているのだろうか。ここでは4社をピックアップし、現在までの取り組みや今後の展望について紹介する。
「輪島塗」と聞くと、黒や朱色の漆が塗られた椀や膳を想像する人が多いのではないだろうか。岡垣漆器店は、そうしたイメージに縛られず、緑やピンクといったカラフルな漆の椀やペット向けの食器、空気清浄機など、バラエティに富んだ輪島塗製品を生み出してきた。
同社が現在、力を入れているのは輪島塗のビジネスアイテムの製造・販売である。チャレンジ支援ファンドの助成金を活用して、主に洋傘、ハンガー、コンパクトミラーについてデザインのバリエーションを増やし、一般消費者向けの販売会などで使う製品サンプルを充実させた。
例えば洋傘では、傘作り専門の小宮商店(東京都)や輪島塗職人と協力し、11種類のデザインで、製品サンプルを新たに制作した。洋傘の持ち手の部分には、蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)といった技法を用いて、漆黒に金の富士山が浮かぶ風景画や朱色の背景に可愛らしくたたずむ黒猫など、個性豊かな絵が描かれている。
また、ハンガーはフックの付け根部分の絵柄が異なる9種類の製品サンプルを作った。コンパクトミラーは10種類を用意した。
実は、同社が助成金の申請書に書いた事業プランの一つが「輪島塗製品のサブスクリプションサービス」だった。月々定額を支払うと、購入すると高額な輪島塗のビジネスグッズを、季節やシーンに合わせて借りられるというプランだ。
岡垣祐吾社長は「当時は動画の定額配信サイトが急成長しており、これからの時代はサブスクだと考えた。しかし始めてみると思いのほか登録者数は伸びなかった」と苦笑する。
当ては外れたが、発見もあった。サブスクを途中で解約して新品を購入した利用者がおり、その理由を聞くと「さまざまなデザインの製品を手に取る中で、心底から気に入った一品を持ちたいと考えるようになった」のだという。
そこで、多様なニーズに応えられるよう、デザインのバリエーションを増やして製品サンプルを充実させる事業へと軌道修正した。実物に手を触れながら比較検討してもらい、購買意欲を引き出す考えだ。狙いは当たり、販売会での反応は、以前よりも良くなってきた。
「従来の輪島塗にはない絵柄を取り入れることも意識した」と岡垣社長。輪島塗は植物や風景をモチーフとした絵が描かれる場合が多い。しかし、これまで輪島塗に興味を持っていなかった層にもアプローチするには、少しばかりの冒険が必要だと岡垣社長は考えた。
猫をあしらった製品は、まさにそうした意図が反映されている。「猫が好きという理由で製品を購入し、後から輪島塗を好きになっていただくという順序があってもいい」と岡垣社長は話す。
助成金を活用して、カタログやウェブサイトの内容も充実させた。製造工程を写真付きで紹介するなど、輪島塗の魅力そのものを発信する内容となっている。
「使うのがもったいないからと輪島塗を箱に入れて眠らせている家庭は少なくない。でも実は、輪島塗は使えば使うほど艶が出て、美しさが増す」。岡垣社長はそう話し、各種ビジネスアイテムが、そうした輪島塗ならではの良さに気づいてもらうきっかけになればと願っている。
同社は今年、海外展開を視野に入れた動きを始める。「まずは海外向けのオンラインショップに登録しながら情報発信し、外国での販売会なども検討していきたい」と岡垣社長は前を見据えている。
企業名 | 株式会社 岡垣漆器店 |
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創業・設立 | 設立 1972年6月 |
事業内容 | 輪島塗製品の製造、販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.127 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.127より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.127 |