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総額400億円のファンドの運用益を活用し、中小企業の商品開発などを後押しするISICOの「いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド事業」(以下、チャレンジ支援ファンド)では、5年間で348件を採択した。採択された企業はその後、どのように助成金を活用し、成果に結び付けているのだろうか。ここでは4社をピックアップし、現在までの取り組みや今後の展望について紹介する。
日本パーツセンターは「有孔折板」を用いた防風柵や防雪柵などで国内トップシェアを誇る。有孔折板とは、多数の穴を開けた鋼板を折り曲げ、亜鉛メッキを施したもの。同社が東京大学との共同研究で開発し、1977年に初めて施工した。
この有孔折板を建築物の内外装材や外構フェンスとして活用してもらおうと、同社ではチャレンジ支援ファンドの助成を受け、和柄を施したシリーズを開発した。和柄は古くから織物や陶磁器などで親しまれている「麻の葉」「七宝(しっぽう)」「変わり市松(大/小)」「亀甲」「菱菊」「青海波(せいがいは) 」「菱青海波」の8種類をラインアップ。色は白やグレー、ブラウンなど24種類のほか、表面にハンマーでたたいたような小さな凹凸を付け、重厚感や高級感を演出した4種類の特別仕様も用意した。
2022年5月の販売開始以降、設計士らからの評判は上々で、施工実績を伸ばしている。
開発のきっかけは近年、建築分野における有孔折板のニーズが増加していたことだった。有孔折板は強風の勢いを弱めるために薄い鋼板にさまざまな配列で穴を開け、さらに折り曲げて強度を持たせている。こうした意匠が光や風を和らげ、角度や時刻、照明によって見た目が変化する内外装材として注目を集めており、デザイン性に富んだ製品の投入によってさらに需要を喚起するのが狙いだ。
和柄を採用したのは、富山県で井波彫刻の欄間を見た同社の社員が、「麻の葉文様の有孔折板を製品化できないか」と開発課に打診したことがヒントになった。
しかし、有孔折板の開発、製造において半世紀にわたってノウハウを積み上げてきた同社とはいえ、和柄シリーズの製品化までには3年を要した。「プレス機で文様を打ち抜くだけならそれほど難しくないが、外装材として屋外に設置するので強度も担保しなければならない。既存の有孔折板と同等の性能になるよう、文様の配置やサイズを何パターンも試した」と設計部開発課の松本光徳課長代理は振り返る。
この際、大きな助けとなったのがチャレンジ支援ファンドの助成金だ。というのも、同社では設計図を作成後、コンピューター上のシミュレーションに加え、試作品による荷重試験を実施して強度を確認する。「試作品を作るにはそれぞれの文様に対応した金型が必須であり、その製作費用を助成金でまかなうことができたので開発にチャレンジできた」と古路裕子取締役設計部長は話す。
発売後は販路開拓に注力し、取引のある建材商社への売り込みのほか、一般消費者にも認知を広げようと新聞広告やテレビCMも活用し、問い合わせや受注につなげている。
チャレンジ支援ファンドの助成金を活用して展示商談会にも出展している。昨年開催された土木分野の展示商談会では和柄のフェンスを中心にPR。今年2月末から4日間、東京ビッグサイトで開かれる「建築・建材展」にも出展する計画で、設計部開発課の鷲巣勇係長は「来場者の反応を見て、改良の要望などにも応えていきたい。既存の製品は外装材として使われることが多かったが、美しい文様なので近くで見てもらえるように内装材としてもアピールしていきたい」と意欲を見せる。
現在、同社の売り上げのうち約1割を建築分野が占める。和柄シリーズの投入をトリガーとして、「今後はさらに建築分野の受注を伸ばしていきたい」と話す古路取締役設計部長。有孔折板のパイオニアの新たな挑戦は、建築の世界に新たな風を巻き起こす可能性を秘めている。
企業名 | 株式会社 日本パーツセンター |
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創業・設立 | 設立 1972年4月 |
事業内容 | 防風・防砂・防塵・防雪・防波柵、各種フェンス等防護施設の製造・販売・施工、内外装材の製造・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.127 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.127より抜粋 |
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掲載号 | vol.127 |