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総額400億円のファンドの運用益を活用し、中小企業の商品開発などを後押しするISICOの「いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド事業」(以下、チャレンジ支援ファンド)では、5年間で348件を採択した。採択された企業はその後、どのように助成金を活用し、成果に結び付けているのだろうか。ここでは4社をピックアップし、現在までの取り組みや今後の展望について紹介する。
金田繊維がチャレンジ支援ファンドの支援を受けて開発したのは、寝具や衣類などに使われる人工中綿生地「Nomi Warmer(ノミ ウォーマー)」だ。
化学繊維に特殊技術による収縮加工を施し、特別仕様のラッセル編み機でシート状の生地に仕上げたもので、1枚1枚はごく薄いが、何層にも重ねた「ミルフィーユ構造」にすることで空気層を作り、天然ダウンに匹敵する保温性を発揮する。
天然繊維にはない高いストレッチ性に加え、吸放湿性に優れた化学繊維を取り入れて着用時の蒸れを抑え、快適な使用感を実現している。
また、アレルギーの原因の一つであるほこりがほとんど発生しないのも特長だ。シート状の素材なので、ダウンや既存の中綿のように使用しているうちに偏ったり、解離したりすることがないため、キルティング加工のような縫製は不要で、デザインの自由度が高い点もメリットと言える。
2022年の秋冬シーズンから大手スポーツブランドなどの衣料品に使われているほか、大手商社が新たに立ち上げた寝具ブランドに採用が決まっており、2023年秋冬シーズンに本格展開が開始される予定となっている。
なお、製法は特許取得済みで、2022年度のプレミアム石川ブランド認定製品に選出された。
金田繊維がNomi Warmerの開発に着手したのは、鳥インフルエンザの流行によって、天然ダウンの生産量が減少し、価格が高騰した9年ほど前にさかのぼる。このタイミングで取引先の大手繊維メーカーから「長繊維で中綿を作ってみないか」と打診されたのだ。
長繊維は字面が示すように1本当たりの繊維が長いものを指す。人工的に作られる化学繊維が該当し、天然繊維では絹だけが長繊維に分類される。一方、短繊維は短い繊維を紡いで糸にしたもので、綿や麻、ウールなど天然繊維が該当する。化学繊維はどんな長さにも整形できるので、短繊維にすることも可能だ。
短い繊維を紡ぐ短繊維と違い、長繊維は毛羽立ちがなく、ほこりが発生しにくいのが特長だ。長繊維の中綿は世の中にないため、「温かくて、軽くて、かつハウスダストに敏感な人に優しい布団の中綿ができれば」との思いから、金田友彰社長は製品化に取りかかった。
その後、チャレンジ支援ファンドの助成金を活用しながら、100種類以上の長繊維の特性を試験した上で、保温性や吸放湿性、ストレッチ性に優れた糸の組み合わせや比率、製法を探った。
Nomi Warmerは2019年に完成した。幸先よく衣料品として採用され、テレビ通販で紹介される予定だったが、新型コロナの感染が拡大すると立ち消えとなってしまった。その後も先行き不透明な社会状況の中、アパレルメーカーや寝具メーカーなどの開発がストップし、販売ルートの開拓は思うように進まなかった。
経済活動の回復を受け、大手商社の寝具ブランドに採用が決まったのは2022年のことである。同社の子会社を通じてアパレル分野へも販路が確立し、秋冬シーズンにはNomi Warmerを使ったジャケットなどの販売もスタートした。寝具の試作が始まれば、来期は今期の3倍以上の受注も夢ではない。
県内4社と連携して一般消費者向けのオリジナル製品を開発するプロジェクトも進行中だ。
将来的には海外展開を視野に入れる。既に商社を通じてアメリカでの展示商談会に出展し、高い評価を得ており、手応えは十分だ。
金田社長は「輸出に有利な円安が続いており、日本より人口の多い先進国への販売に注力し、Nomi Warmerを新たな事業の柱に育てたい」と意欲を燃やしている。
企業名 | 金田繊維 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 1971年5月 |
事業内容 | 撚糸、染色などの糸加工、長繊維人工中綿の製造 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.127 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.127より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.127 |