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室内装飾などに使われる創作和紙などを製造、販売する浅倉紙業は昨年12月、和紙で作った仏花を発売した。日光による色あせを抑え、美しい状態のまま長く飾っておくことが可能で、同社では今後の受注増に期待を寄せている。
浅倉紙業が発売したのは高さ約23センチの可憐なコチョウランだ。花は白、ピンク、紫の3色を用意。高知県産の和紙「土佐楮(こうぞ)」を天然顔料で染め、花びらやつぼみ、葉、茎など、すべてを手作りしている。目を凝らして見なければ、和紙製とは気付かないほど精巧な出来だ。付属する陶製の花器に入れ、仏壇に供えるほか、仏壇のない家であれば、卓上に置いた遺影の横に飾って、故人を偲んでもらう。
和紙製の仏花は生花と違って水やり不要で、枯れることもなく、長く飾っておけるのがメリットだ。また、樹脂や布で作られたアートフラワー(造花)やプリザーブドフラワーは時間が経つと退色してしまうが、同社の商品は耐光性に優れた顔料で染めているため、色あせに強いのが特長だ。
なお、同社では光による退色に対する耐性を表す「耐光堅牢度」の評価を第三者機関に依頼。その結果、6級のお墨付きを得ている。ちなみに、最高等級は8級で、色あせに強い高耐光カーテンが7級ほどだ。
現在、自社のECサイトやYAHOO!ショッピングで販売しており、今後は6月に横浜で開催される展示会「フューネラルビジネスフェア」に出展するほか、ウェブ広告に出稿するなどしてPRし、受注拡大を目指す。
同社が和紙を使って花を作り始めたのは約20年前にさかのぼる。2007年頃からは華やかなフラワーボックスやブーケを商品化。結婚1周年を祝う紙婚式や記念日の贈り物、ブライダル用として、多い年には360件ほどの注文が入る人気を誇っている。
仏花の開発は数年前、生花店から和紙でコチョウランを作れないかと注文を受けたことがヒントとなった。生花は遠方に送るには不向きで、これ以外だとアートフラワーやプリザーブドフラワーくらいしか選択肢がない。その後、生花店からの注文は途絶えたが、「日本人になじみ深く、温かみが感じられる和紙の仏花はニーズがあるのでは」と浅倉敏之社長は考え、オリジナル商品の開発に舵を切った。
折しも、棺(ひつぎ)やミニ仏壇の装飾用など、葬祭市場向けに和紙の注文が増えていたことも浅倉社長の背中を押した。
ISICOの中小企業チャレンジ支援ファンド事業に採択され、試作開発には助成金を活用した。
苦労したのは染色工程だ。和紙を染める際は通常、直接染料が用いられる。これは水や溶剤に溶けた染料が紙の繊維のすき間に入り込むことで色が付く。しかし、同社が使っている直接染料は耐光堅牢度が3級から4級で、長く飾った場合の色あせが懸念された。そこで染色に用いたのが、染料に比べて耐光性に優れた顔料だ。しかし、普段は扱わない材料だけに、浅倉社長は「思った色が表現できなかったり、むらになったりしてしまい、最適な染め方にたどり着くまでに時間がかかった」と振り返る。
また、使用する和紙によって、色の深みや光沢感が変わってくるため、本物のコチョウランの発色を再現しようと、全国から取り寄せた和紙を染め比べ、最良の組み合わせを見いだした。
同社ではコチョウランに続く第2弾として、ダリア、コチョウラン、小菊、トルコキキョウの4種を組み合わせた仏花も開発中だ。第1弾がモダンなデザインで小型の現代仏壇を持つ家庭、あるいは仏壇を所持せず遺影だけを飾っている人をターゲットとしているのに対し、こちらは伝統的な仏壇でも飾ってもらえるよう、高さも約40センチと大きめのサイズだ。6月の展示会までの発売を目指している。
また、和紙に珪藻土を含ませ、アロマオイルなどを染み込ませて香りを楽しめるタイプの開発にも取り組んでいる。
そもそも同社では、金箔や墨、漆、柿渋などで加飾した創作和紙やこれをインテリア用に加工したアートパネルの製造、販売を主力としている。一方で、和紙製の名刺入れやIDカードケースといったビジネス小物、防水加工を施した和紙で作る食器や花器などのオリジナル商品を開発するなど、新たな用途開発にも積極果敢にトライしてきた。もちろん、今回の仏花の開発もその延長線上にある。
「従来の用途にとらわれず、時代のニーズをくみ取って、必要とされるものを作り、和紙のある暮らしを提案していきたい」と話す浅倉社長。和紙の可能性を広げる同社のチャレンジを、これからも注視したい。
企業名 | 浅倉紙業 株式会社 |
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創業・設立 | 創業 1897年9月 |
事業内容 | 創作和紙・和紙アートパネル・和紙小物の製造、販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.128 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.128より抜粋 |
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掲載号 | vol.128 |