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インテリアやアパレル用のテキスタイルを主力とするサンコロナ小田は、次世代ファンドからの助成を受け、複雑な形も容易に成形できる炭素繊維複合材料(CFRP)を開発し、量産化に成功した。自社の高い技術力を生かしてCFRPに技術革命を起こし、新分野に参入することで、さらなる飛躍を期す。
「プシュー」。蒸気が立ち上るプレス加工機が、炭素繊維の黒々としたシートをやすやすと成形していく。
このシートは、サンコロナ小田が新規事業として量産に成功した「フレックスカーボン」(CFRP)だ。従来のCFRPでは難しかった複雑な形状の加工と、軽量ながらも高い強度を同時に実現した。
フレックスカーボンの製造に欠かせない技術として「開繊(かいせん)」技術がある。1万5,000本がより集まった炭素繊維を1本1本分けて平らに重ねていく技術で、小田宗一郎取締役は「開繊という他社には真似できない高度な技術を有していたことが、新規事業を成功させる鍵となった」と話す。
フレックスカーボンは、開繊した炭素繊維を12.5ミリ角と25ミリ角の繊維片に切り分けた上で、厚さが均等になるようランダムに配置し、特殊樹脂で固めて20層以上の積層構造にする。プレス加工の際、金型にぴったり密着するよう、熱で溶けた特殊樹脂内で繊維片が動くため、形状の自由度が高く、全方位からかかる力に強い。熱をかけると元のシート状に戻るため、リサイクルも可能だ。
同社は、繊維業界では世界的にその名を知られる存在だ。例えば、東京五輪の開会式で、国歌を独唱した歌手のMISIAさんのレインボーのドレスには、同社が手がける薄くて透ける生地「オーガンザ」が使用された。また、イタリアの高級ブランド・プラダにも生地が採用されている。
そんな同社が新規ビジネスを模索し始めたのは、約20年前にさかのぼる。当時の事業比率は、カーテンなどのインテリア・資材と衣料・ファッションで売上高の90%を占め、事業の偏りは経営体質の弱点になりかねないと構造改革を急いでいた。しかし、挑戦したいくつかの事業は、量産化に至らず、苦戦が続いた。
そんな折、2012年に次世代ファンドの採択を受けてスタートしたのがフレックスカーボンの開発だった。同社は分繊をはじめとした糸を分ける技術を得意としている。その技術が応用できると踏んだ小田外喜夫社長は「炭素繊維分野で素材革命を起こす気概で取り組んだ」と振り返る。
このフレックスカーボンに目をつけたのが、大手スポーツメーカーのアシックス(神戸市)だ。同社は新しいコンセプトの陸上競技用シューズのソール(靴底)開発に取り組んでおり、(1)複雑な形状に加工可能(2)高い強度(3)圧倒的な軽さ―という3つの条件を満たす材料を必要としていた。
まさにこれらの条件を兼ね備えているのがフレックスカーボンである。そこで同社はサンコロナ小田と共同で、フレックスカーボンを使い、ピンの代わりとなる突起のあるソールを開発。このソールを採用した陸上競技用シューズは、東京五輪でトップアスリートが着用したほか、一般アスリート向けにも市販され、好評を得ている。
また、この陸上競技用シューズは、世界最大の複合材料展示会「JEC Composites Innovation Awards 2020」のスポーツ&ヘルスケア部門で、最も革新的だった企業に贈られる最高賞をアシックスと共同受賞した。
20年には、大和ハウス工業(大阪市)、アルケリス(横浜市)と共同でアシストスーツ「アルケリスFX」を開発した。
そもそもこのアシストスーツは18年に、アルケリスが長時間立ったまま手術を行う外科医などのために作った。すねとももの2点を支え、中腰姿勢になった際、一定の角度で膝を固定することで体は椅子に座ったような状態を保ち、腰や筋肉への負荷を軽減する。
これを大和ハウス工業のニーズに合わせ、移動を伴う製造現場でも活用できるように改良したのがアルケリスFXだ。開発に当たってサンコロナ小田は、主に軽量化と強度の向上を担当。フレックスカーボンを使うことで従来は片足3.2キロあった重量を2.1キロに軽量化し、強度もアップした。
大和ハウス工業が全9工場に計37台を導入するなど、各種製造現場に展開しており、小田社長は「女性や高齢者、腰痛がある就業者を全力でサポートしたい」と力を込める。
世界的なプロダクトデザイナーの喜多俊之さんとコラボレーションしたフレックスカーボン製の椅子「CALLU(カル)」も話題を呼んでいる。高いデザイン性と端材を出さないエコな製法を採用した。
徐々に用途が拡大していることから、21年5月には、小松本店の敷地内に新工場を建て、稼働を開始。フル稼働させると年間生産量は従来の10倍の50トンになる。
今後は構造解析を進め、より早く、より強く、より正確な材料へとブラッシュアップする予定で、フレックスカーボン関連の売り上げは3年後に5億円を見込む。小田社長は「炭素繊維の活躍の場は広がっており、移動体、EVなどへの事業展開を急ぎたい」と語り、手塩にかけた素材の成長に期待している。
企業名 | サンコロナ小田 株式会社 |
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創業・設立 | 設立 1975年8月 |
事業内容 | インテリアおよびアパレル用テキスタイル、仮撚、分繊、撚糸などの化学繊維の加工製造・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.130 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.130より抜粋 |
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掲載号 | vol.130 |