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新事業創出や創業、研究開発、販路開拓、人材採用などを総合的に支援するISICOでは、県内中小企業が直面する課題の解決に向け、伴走支援に取り組んでいる。さまざまな経験とノウハウを持った専門家が、まさにマラソンランナーのそばで走る伴走者のように経営者らに寄り添い、継続的にサポートしており、今回の巻頭特集では、そんな伴走支援を通じて経営改善や新たな事業展開につなげた2社の取り組みを紹介する。
石川県に本社を構える人材派遣会社としてはトップクラスの売り上げを誇るエー・オー・シー。単に人材を派遣するだけにとどまらず、付加価値向上を目指して、派遣する人材の育成に力を入れている点に特徴がある。
例えば、今年10月に金沢市駅西本町に完成した社屋の1階に整備した研修室では、来年2月から企業に最適のシステムを企画・立案する人材「ITアーキテクト」を養成する講座をスタートさせる計画だ。
同社の本多温史社長は「2030年に最大で約80万人ものIT人材が不足するとの試算がある。時代に応じた社会課題の解決に貢献することが当社の使命だ」と力を込める。
こうした人材育成システムの構築などを視野に、同社では今年4月からISICOの専門家派遣を活用し、2カ月に一度のペースで継続的にアドバイスを受けている。
本多社長は「ITアーキテクトの養成に向けては、ISICOの専門家が東京のIT企業とつないでくれたおかげで、カリキュラムを構築することができ、本当に助かった。これからは研修用のハード整備、上場準備などについても相談したい。経営を取り巻く環境は、一寸先は闇といっても過言ではないが、専門家が寄り添ってくれることで不安の解消につながっており、思い切りチャレンジできる支えになっている」と話す。
同社が初めての本格的な研修施設「エー・オー・シー テクニカルセンター」を金沢市横川に設置したのは2020年10月のことである。
同センターでは真空装置やメカトロ装置を使って機械の構造や原理、メンテナンスなどを学ぶほか、製造現場で使う機械の自動化に必須となる有接点シーケンス制御についても習得する。大手電器メーカーでエンジニアを務めたOBが講師を務め、スキルを確実に身に付けてもらうため、マンツーマンで丁寧に指導する。1カ月半から2カ月半のカリキュラム修了後は、国家資格である機械保全技能士2級に相当する技術が習得可能だ。研修費は無料。研修中は時給が支払われ、安心して学べる環境が整っている。
開設以降、約100人が卒業し、派遣先の企業からは「機械と電気、両方の基礎を学んでいるので、非常に助かっている」など、高く評価する声がある一方、本多社長は「さらにレベルの高いスキルをご要望いただくこともある」と話し、そうしたニーズに応えていくため、今後はカリキュラムをブラッシュアップしていく考えだ。
エー・オー・シーが人材育成に力を入れるきっかけは、2008年のリーマンショック時の経験にある。派遣切りや雇い止めが社会問題となる中、同社の売り上げも前年の半分以下にまで落ち込んだ。
とはいえ、すべての派遣社員が軒並みそうした憂き目に遭ったかと言えばそうではなく、技術系の人材は契約を更新するケースが多く見られた。「技術の有無で人生ががらりと変わる。このまま同じやり方をしていては将来がない」。そう危機感を募らせた同社が力を入れ始めたのが人材教育だった。
「お客様から必要とされる人材像をテーマにした研修など、まずは働く人の意識改革を目的とした座学からスタートした。根気よく取り組んだ結果、他社と比べて定着率がアップした」と本多社長は振り返る。
人を右から左に派遣するサービスには価値がない。人材を成長させることこそが重要だ。その信念はますます強固になり、その後、テクニカルセンターの設立やIT人材養成講座の開講などへとつながっていった。
これまで述べてきたほか、同社では企業と連携したオーダーメード型の人材育成にも着手する。
例えば、富山県では医薬品メーカーと共同でテクニカルセンターを開設し、品質管理や製品の試験・分析に関する専門的な知識と技術を持った人材を育てようと準備を進めている。愛知県では自動車メーカーとともに、車体に部品を取り付ける技能を養成するためのトレーニングセンターを立ち上げる構想もある。
また、北陸、東海エリアはもちろん、来年3月までにシリコンアイランドとして半導体産業の集積が進む九州にも支店を設置する予定で、「将来的にはこうした拠点一つ一つに研修センターを設け、地域や社会のニーズに応える人材を輩出してく考えだ。そのためにもISICOには引き続き支援をお願いしたい」と話す本多社長。これからの同社の成長に注目してほしい。
企業名 | 株式会社 エー・オー・シー |
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創業・設立 | 設立 1991年5月 |
事業内容 | 労働者派遣事業・アウトソーシング事業・技術サービス受託事業など |
関連URL | 情報誌ISICO vol.131 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.131より抜粋 |
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掲載号 | vol.131 |