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能登の米を用いた餅や菓子を扱う「むらのもちや」(能登町)では、農家で食べられてきた米菓「生かきもち」を、子育て世代の女性をターゲットにリメイクし、好評を得ている。開発した若女将の福池凡恵さんの言葉の端々には、「大好きなお米の魅力を伝えたい」という情熱が宿っていた。
寒い時期についた餅を薄くスライスし、乾燥させて作る生かきもちは、主に農家で長く親しまれてきた米菓だ。熱を加えると膨らんでサクサクになるのが特徴で、かつては能登でも、大人がいろりで焼き、子どもが目を輝かせて完成を待つ光景が見られた。
そんな家族の姿を現代によみがえらせようと、福池さんが2015年に開発したのが「ぽちかきもち」である。愛らしいパッケージの中に、味の異なる正三角形の生かきもちが6つ入っている。調理は電子レンジで1分間。加熱される様子をレンジのガラス窓からのぞくと、モコモコと膨んでいくのが見えて面白い。油や砂糖を使っておらず、軽やかな食感と米の優しい甘さが感じられ、特に子育て世代の女性に支持されている。同店の主力商品の一つだ。
むらのもちやは、福池さんの義母・みち子さんが「能登の米で作った食品を通して、地域を活性化したい」との思いで2000年に設立した。主な商品は餅、和菓子、米菓。子どもの頃から炊きたての白いご飯が大好きだった福池さんは、同店の赤飯を食べて感激し、米の加工食品の魅力を知った。「このおいしさを多くの人に届けたい」と、結婚翌年の11年に入店した。
製造現場から経理まで一通りの業務を経験後、特に力を入れたのが新商品の開発だ。というのも、それまで同店の売り上げの中心は年末年始に需要が増える餅で、能登の過疎化と少子高齢化が進む中、売り上げが減っていくのは目に見えていた。「全国の市場をターゲットに、通年で売れる商品を」と考え、狙いを定めたのが生かきもちだった。
「生かきもちは店で売られていても、食べ方が分からず敬遠されている。販売チャンスを逃しているもったいない商品だと思った」と福池さん。電子レンジの前で、かきもちの完成を待つ親子の姿を想像しながら、新商品開発に着手した。
福池さんがターゲットに据えたのが、子育て中の女性だ。「私自身に幼い子どもがいたので、安心して与えられるおやつが欲しかった」とその理由を話す。まずは食品添加物や食物アレルギーの症例が多い材料を使わないことにした。さらに、生かきもちのイメージを刷新するような見た目や風味を目指した。
従来の長方形に縛られず、スタイリッシュな形を求めてたどり着いたのが、一辺が約4センチの正三角形だった。電子レンジ調理で長方形よりも硬い部分が残りにくく、丸形や楕円(だえん)形よりも製造途中で割れにくい利点もあった。
風味は、餅米にさまざまな素材を混ぜて試作した。「中島菜」「えごま能登しいたけ」など、地元食材を生かしたものに加え、「ココア」や「トマトバジル」といった洋風の味もラインアップに加えた。
商品開発時の参考になったのは、ISICOの活性化ファンドを活用したマーケティング調査だ。試作品を食べて感想を言い合ってもらう座談会やアンケートなどを実施した。フードコーディネーターとデザイナーの協力も仰ぎ、実に4年半の期間をかけて完成にこぎつけた。
次に力を注いだのが販路拡大だ。ISICOのアドバイザーの支援のもと、金沢の百貨店で年2回、催事に出店するようになったほか、北陸自動車道小矢部川サービスエリア(下り)にはむらのもちや専用の販売スペースが設置された。さらに、京都で小売りや卸売りを行う企業とも提携し、北陸以外の市場も広げている。
生かきもちそのものの知名度が低い課題をクリアするため、加熱前後の形の違いを示した店頭ポップを制作した。子育て世代からの反応はよく、「かわいくて気に入った」「おみやげにもぴったり」といった声が寄せられるという。
変化は数字にしっかりと表れている。全国展開するスーパーのプライベートブランドとしてポン菓子製造を請け負うようになったことも後押しとなり、売り上げに占める米菓の割合は、ISICOの支援を受ける前後で7%から16%に上がった。年末年始の餅の売り上げに依存しない経営体質になりつつあることを意味している。
課題もある。在籍している従業員は平均70歳で、業務負担の軽減と効率化を早急に進めなければならない。より単価の高い新商品も開発したいところだ。現在、赤飯を簡単に作れるような商品を検討しており、「子どものために赤飯を炊きたいけれど、煩雑な調理に時間が割けないからと断念している方に届けたい」と福池さん。日本の米食文化を次世代へつなぐための挑戦は続いていく。
企業名 | むらのもちや |
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創業・設立 | 創業 2000年10月 |
事業内容 | 餅、和菓子、米菓の製造・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.131 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.131より抜粋 |
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掲載号 | vol.131 |