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県とISICOは昨年12月2日、大学の有望な研究シーズを発掘すると同時に、県内に拠点を持つ企業等とマッチングし、事業化を後押しする「第1回石川テックプラングランプリ」を県地場産業振興センターで開催した。当日はファイナリスト9チームがプレゼンテーションに臨み、高効率マイクロ波加熱装置の開発について発表した高周波加熱研究所(発表者/藤田萩乃さん)が最優秀賞に輝いた。
石川県の強みのひとつと言えるのが、大学など高等教育機関の集積である。人口10万人当たりの集積率が全国1位という地域の強みをスタートアップ創出に結び付けようと、県とISICOが企画したのが「石川テックプラングランプリ」だ。
石川テックプラングランプリは、単なるコンテストにとどまらず、大学内のシーズの発掘から事業化に向けたビジネスマッチングまで取り組む点が大きな特徴だ。開催にあたってはリバネス(本社/東京・大阪)と連携した。同社はスタッフほぼ全員が修士号や博士号を持つ研究者集団だ。また、国内12地域で大学等研究機関の成果を社会実装するプログラムを運営し、実績も豊富だ。
開会にあたってあいさつした西垣淳子副知事は、「国連の世界知的所有権機関(WIPO)が発表した人口あたりのイノベーション力ランキングで金沢地区は国内トップの世界11位だった。ただし、イノベーションが事業化に結びついているかと言えば大きな課題であり、発表者の皆さんをしっかり支援しながら県経済の成長に結び付けたい」と述べた。
また、リバネスの高橋修一郎代表取締役社長COOは「社会が抱える課題はどんどん複雑化し、もはやひとつの会社が単独で解決できる世界ではない。発表者の知識と、審査員や聴講している皆さんの知識をしっかり合わせて地球貢献を実現したい」と期待を込めた。
第1回石川テックプラングランプリには16チームのエントリーがあり、当日は書類選考を勝ち抜いた9チームがファイナリストとして登壇。1チーム7分間の持ち時間の中で、研究内容や事業化の可能性などをアピールした。
審査は県内外の企業の代表者ら9名が担当し、高橋COOが審査員長を務めた。審査のポイントは「新規性」「実現可能性」「世界を変えそうか」「パッション(情熱)」の4点だ。
厳正な審査の結果、「驚異的な効率化であり、世界で勝てる」「工業プロセスを大きく変える技術」と評価され最優秀賞に輝いたのは、高周波加熱研究所である。発表者は石川県立大学講師の藤田萩乃さんだ。藤田さんが発表したのは楕円型のチャンバ(容器)を使い、マイクロ波を効率的に集中させ、加熱する装置だ。マイクロ波を使った加熱装置の代表は電子レンジだが、加熱効率を比較すると、電子レンジが20%以下にとどまっているのに対し、現在研究中の装置は70%以上と非常に優れている。また被加熱物を狙った温度にすることもできるという。
当日はこのほか、パートナー企業9社から高周波加熱研究所を含め7チームに社名を冠した賞が贈られた。ISICOでは入賞者の今後の事業化に向け、共同研究に取り組む企業とのマッチングや事業計画の磨き上げを支援していく方針だ。
ファイナリストのプレゼンテーションの前には、2018年にISICO主催の「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ」で最優秀起業家賞に輝いたシンクランド(川崎市)の宮地邦男代表取締役CEOがロールモデル起業家として基調講演を行った。
宮地CEOは加賀市出身で、金沢大学理学部を卒業後、大手セメント企業などを経て、2014年にシンクランドを創業した。以来、チャレンジしているのが痛くない注射針の開発だ。千葉大学が特許を保有する光渦レーザー加工技術によって、直径を蚊の針に近い100ミクロン以下にまで細くすることで、注射した際、肌の痛点に当たらないようにする。
2022年からは目元のしわを改善する美容液を注入するための針などとして実用化がスタートした。医療用としてはまだいくつものハードルをクリアしなければならないが、「医療の常識を変えたい」と今後の開発に意欲を示した。
チーム名・発表者 | 発表テーマ | 受賞結果 |
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ForceFab 西村 斉寛 |
力センサを印刷可能な 次世代3Dプリンタ |
リアルテックファンド賞 |
高周波加熱研究所 藤田 萩乃 |
焦点集中!楕円チャンバによる 高効率マイクロ波加熱装置の開発 |
最優秀賞 みずほ銀行賞 |
Deep ocean water 平山 順 |
能登海洋深層水の機能を見出す 「ウロコアッセイ技術」 |
マテーレ賞 |
A.O.Industries 赤坂 剛史 |
暮らしを豊かにする ドローン配送システム |
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再生医療組織バンクチーム 松村 和明 |
再生医療実用化のための 組織バンクの設立 |
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七尾湾環境保全研究会 長尾 誠也 |
陸と海の栄養と年間のキャパシティ評価サービス | BIPROGY賞 |
NSTI ソーラーテクノロジーズ 中野 正浩 |
安価で設置自在な薄膜太陽電池の開発 | PFU賞 フォーカスシステムズ賞 |
Turtle Knee 坂本 卓弥 |
変形性膝関節症の細胞治療における 革新的検査システム |
三谷産業賞 |
Smart DC Lab. 夏梅 大輔 |
直流による地産地消エネルギーシステム | アイ・オー・データ賞 QRインベストメント賞 |
企業名 | 公益財団法人 石川県産業創出支援機構 |
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創業・設立 | 設立 1999年4月1日 |
事業内容 | 新産業創出のための総合的支援、産学・産業間のコーディネート機関 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.133 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.133より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.133 |