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谷口は、世界初の柔軟性のある木の素材と革を組み合わせたバッグのブランド「wBOIS(ワールドボイス)」で一躍、脚光を浴びた。今回、その素材を建築内装シートに転用。用途の幅広さから大手企業からも注目を集めている。
谷口が2009年に発表したワールドボイスは、「木は割れやすい」という概念を根底から覆した先進性がファッション業界を驚かせた。ワールドボイスに使われている素材は、0.12~0.15ミリの薄さの木に柔軟性をプラスする特殊な加工を施し、不織布を張り合わせたものだ。ワールドボイスの売れ行きは好調で、大手セレクトショップ「BEAMS(ビームス)」とコラボレーションしたバッグも展開している。
このワールドボイスをベースに22年、谷口は建築業界に進出した。谷口正晴社長は「私たちの主力である木工芸をはじめ、伝統工芸は非常に景気が悪い。工業製品の新分野で活路を見出したかった」とその意図を語る。
第一弾となる商品は、ISICOの「いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド」を利用し、同年にワールドボイスを改良して開発した建築内装シート「BOIS ART(ボイスアート)」だ。ワールドボイスとの大きな違いは、刃の当て方や角度を調整して、木材の厚みを0.08ミリにまで薄くスライスした点にある。さらに、不織布の代わりに和紙を使用した。
ボイスアートに使われる木材は、能登ヒバ、ヒノキ、スギなど多岐にわたり、従来の壁紙と違い、張るだけで木の香りや温かみが感じられるのが特徴だ。
また、耐震性の高さから近年、増加傾向にある鉄骨住宅でも鉄骨や壁材にボイスアートを張れば、木の質感を存分に感じられる。
ボイスアートは、建築内装シートとして、国土交通省から不燃材料、準不燃材料、防災認定取得壁紙として認定を受けている。使用する接着剤や和紙を改良したほか、世界最高の薄さが認定の決め手となった。木は薄くするほど燃える時間が短くなるため、延焼する可能性は低くなる。この点が評価されたのだ。
開発にあたっては、内装業者が簡単に張れることを念頭に置いた。どんなにいい商品であっても施工に手間がかかると採用されないからだ。そのためボイスアートには、伸び縮みしない裏紙を使用した。
発売前にはISICOの支援を受けて石川県工業試験場の引っ張り試験や摩擦試験をクリアし、耐久性についても問題ないことを証明した。
建築内装シートにとどまらず、大手製紙会社とコラボレーションし、日差しをさえぎる「能登ヒバシェード」の商品開発も行った。上げ下げによる劣化も少なく、薄い木から差す柔らかな光が魅力だ。
これらの商品を持って東京ビッグサイトなどの展示会に出展したところ、5分ごとに来場者の対応に追われるなど大きな注目を集めた。大手企業からの引き合いも少なくなく、問い合わせだけでも100社は優に超えた。
中でも、大手スポーツ用品メーカーからは、製造工程で一定数発生するバットの不良品を使って、建築内装シートとして再利用したいとの申し出があった。さらに、大手ゼネコンは現在、インテリア材としての活用試験などを行っている最中だ。能登ヒバシェードは温泉旅館といった大口の顧客からの問い合わせが多いという。
しかし、企業が導入を決める上でネックになっているのが実績だ。バッグとしての実績は十分だが、建築業界での実績はほとんどない。そんな中、2023年度の「プレミアム石川ブランド製品」に選定され、谷口社長は「石川県のお墨付きをもらうことで、企業の方に安心感を持ってほしい」と期待を込める。
もう一つの課題は、量産体制の構築である。実際に住宅や商業施設の内装に使われるようになれば、大量の建築内装シートが必要になり、現在の生産能力では不十分だ。
加えて、年初の能登半島地震で穴水町の工場が被災し、3棟のうち2棟が倒壊した。工場で勤務する6人のうち3人が仕事を続ける意志を示しており、工場は再建する予定だが、設備を増強する余力はないことから、同社では、同レベルの技術力を持った信頼できるパートナーを見つけ、協業したいと考えている。
谷口は、囲碁の碁笥(ごけ)(碁石の器)で全国シェア約60%を占め、77年にわたって木工の技術と伝統を守ってきた歴史を持つ。谷口社長は「これからも伝統工芸を守っていくには、自分たちが変わることも必要だ。そのためにも住宅の新しいかたちを目指して建材部門の販路を広げていきたい」と意気込んでいる。
企業名 | 株式会社 谷口 |
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創業・設立 | 創業 1947年4月 |
事業内容 | 木製工芸品、木製家具、wBOIS商品/MOKU商品、木製ステーショナリー、碁笥 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.133 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.133より抜粋 |
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掲載号 | vol.133 |