本文
国がISICO内に設置する「石川県よろず支援拠点」が開設10周年を迎えた。同拠点では、中小企業・小規模事業者からの多岐にわたる経営相談に対し、中小企業診断士をはじめ各分野の専門家がきめ細かく対応し、課題解決をサポートしている。今回の巻頭特集では、支援した2社の事例とチーフコーディネーターからのメッセージを紹介する。
「どこでもナース」では、看護師が時間や場所を問わず患者をサポートする自費看護サービスを展開している。例えば、孫の結婚式への出席、長時間の買い物や旅行、入院先からの一時帰宅など、さまざまなニーズに対して経験豊富な看護師が付き添い、手助けしてくれる。医療保険や介護保険では対応できない場面でも利用が可能だ。
点滴を欠かせない、あるいは呼吸の状態が不安定な患者の家族など、利用者からは「看護師が付き添ってくれるので安心」と好評を得ている。
2023年8月からは高齢者や傷病者の移動を支援するケアタクシー事業も開始した。車両には医療用酸素やたんの吸引器などを搭載するほか、リフトを完備し、車椅子やストレッチャーでの乗車も可能だ。看護師自らが運転するサービスは県内でも初めてだ。
年初の能登半島地震以降、増えているのが被災者の搬送だ。当初は被災地から金沢の基幹病院に収容された高齢者らの転院を数多くサポートした。現在は金沢から奥能登の病院や施設に戻る際の利用が増えているという。
同社を立ち上げた酒田祥子社長は福井県出身。看護師資格を取得後、福井県内の総合病院に勤め、さまざまな診療科でキャリアを積んできた。
転機となったのは、約10年前に看護師だった母をがんで亡くしたことだった。病院を辞め、母を看病した酒田社長は「人が亡くなっていくのを見るのは辛い」と復職せず別の仕事に就いた。気持ちが落ち着いてきた頃、母の親友から「娘が看護師になったことを誇りに思っていた。お母さんは祥子ちゃんが看護師に戻るのを願っていると思うよ」と声をかけられ、再び看護師として働く気持ちが湧き上がった。
再就職を前に思い浮かんだのが、母を在宅看護する際、心のよりどころになった訪問看護師の姿だった。患者はもちろん、闘病生活を支える家族にも寄り添える仕事をしたいと訪問看護の会社に就職した。
訪問看護師として働くうちに直面したのが公的保険ではまかなえないさまざまな困りごとだった。これらのニーズに応える事業を展開すれば多くの人の笑顔につながるのではと、転勤先の金沢での起業を決めた。自費看護サービスの会社は北陸初だった。
酒田社長は少しでも信用を高めたいと考え、個人事業ではなく株式会社として事業をスタートした。「何でも自分でこなすのが好きで節約にもなるから」と会社の登記や商標登録、ホームページの制作をはじめ、二種免許を取得してケアタクシーの運転までする酒田社長だが、起業してつまずいたのが会計業務だった。
「税理士に頼まず、会計ソフトを使って自分で処理していたが、仕訳の方法などは自信がなく、決算書の見方や確定申告の手続きも分からなかった」(酒田社長)。
そんなとき、ネット検索で知ったのが、ISICOが運営する石川県よろず支援拠点だった。以来、会計業務で不安があれば、必ず相談に訪れる。酒田社長は「専門家に無料で何度でも相談できるので頼りにしている」と話す。
自作のちらしを病院の地域連携室や地域包括支援センター、福祉施設などに配布し、PRするうち、徐々に認知度が高まり、年々利用者は増えている。現在は看護師資格を持つ6人と業務委託契約を結び、増加する依頼に応えている。「自分の目が届く範囲でやりたい」と事業規模の拡大は考えていないが、移動支援から付き添いまで、ワンストップで提供するサービスに磨きをかけようと今日も腕まくりする。
企業名 | 株式会社 どこでもナース |
---|---|
創業・設立 | 設立 2018年7月 |
事業内容 | 自費看護サービス事業、民間患者等搬送事業 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.135 |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.135より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.135 |