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独自の技術で特定の分野を席巻し、全国シェア1位を誇るニッチトップ企業。石川県には、そんな企業が数多く存在する。専門性や技術力に磨きをかけ、シェア拡大を目指す県内企業を後押ししようと、ISICOでは石川県の「ネクストニッチトップ企業育成事業」を通じ、成長が期待される企業を支援している。支援対象に選ばれ、奮闘を続ける2社にスポットを当てた。
アムが製造・販売・レンタルする仮設用の水洗トイレが売り上げを伸ばしている。工事現場などで主流のくみ取り式に比べ、「嫌な臭いもせず清潔に使える」と好評で、今年は前年に比べ、15%以上の売上アップを見込む。特に成長著しいのが2018年に営業所を設けた関東エリアだ。今年は人員を増やして対応しており、全体の売り上げの20%を占めるまでになった。
同社の仮設用水洗トイレの最大の特徴はその仕組みにある。
一般的な水洗トイレは「重力落下式」で、配管に勾配をつけて水や汚物を流す。この場合、水洗トイレは汚水ますなどの排水設備から近い場所にしか設置できない。とはいえ、工事現場では資材を置いたり、通路を確保したりするため、排水設備のそばにトイレを設置できないケースが多い。そのため、くみ取り式の採用率が今でも7~8割に上るという。
一方、同社の製品は「圧送式」で、電動ポンプの圧力を使って強制的に押し流す。配管を排水設備の30メートル先まで延ばせる上、壁などの障害物を乗り越えることも可能で、置ける範囲が広くて便利なのだ。
そもそも同社が圧送式水洗トイレを開発したのは、新保昭弘社長がフランス製の同様の仕組みのトイレを目にしたことがきっかけだった。2002年にレンタルを始め、既に累計設置台数は11万台を突破した。
人手不足が深刻化する建設業界において、より働きやすい職場環境を整えようとの動きに拍車が掛かり、ここに来てニーズが伸びている。建設現場で活躍する女性の増加もその後押しになっている。
常設用に設置する際は、地中を掘って配管をつなげるような大がかりな工事が必要ないため、工事費用が大幅に安く、工期が半日から1日で完了する点も喜ばれている。
こうしたメリットを生かし、同社では、工事現場だけでなく、介護施設向け、あるいは一般家庭向けの販売にも取り組んでいる。年頭に起きた能登半島地震の被災地でも、敷地内の配管が割れ、トイレが使えなくなってしまった個人宅などから問い合わせが増え、既に常設で2件、仮設で数件の施工を終えた。
「国内で圧送式の水洗トイレを作っているのはおそらく当社だけ。20年以上をかけて製品や施工技術に磨きをかけてきたので、他社が追い付くのは容易ではない」。新保社長はそう話し、認知度が上がれば、さらに成長が加速すると自信を見せる。
2022年度からは県の「ネクストニッチトップ企業育成事業」に採択され、補助金を活用して認知度アップや販路開拓に取り組んでいる。
その一環として、昨年7月にはコーポレートサイトを全面リニューアルした。圧送式水洗トイレのメリットなどをより分かりやすく打ち出した結果、事業用、一般用ともに問い合わせが増加。新保翔常務は「グランピング施設など、これまで想定してこなかった場所で使いたいとの打診もあった」と今後の販路開拓に手応えを感じている。
また、昨年12月には建築の先端技術展「JAPAN BUILD」に出展。150人と名刺交換し、具体的な商談が進み、受注に結びついたケースもあった。
このほかBtoB向けの建築建材総合検索サイトへの掲載、パンフレットの制作、名刺のデザイン変更にも取り組んだ。現在は圧送式水洗トイレの仕組みを分かりやすく説明する動画を制作中で、今年10月の完成を目指している。
レンタルだけでなく、販売も今後の強化ポイントだ。今年は福岡県の事業者に製品を販売し、未開拓だった九州地区でもアムの圧送式水洗トイレのレンタルが始まった。自社の拠点がない北海道や東北、中国、四国、九州地区では、こうした方法で普及を目指す。
ニーズの高まりに応じて生産量を増やすため、2022年にはISICOの専門家派遣制度を利用し、業務の効率化について指導を受けた。今後は作業の標準化などに取り組むほか、専門家から学んだノウハウを施工現場の仕事にも応用し、時短やミス削減につなげる考えだ。
新たな一手として、被災地や土木工事の現場のように排水設備がない場所でも水洗トイレを使えるよう、1回に使う水量を半減させ、タンクに貯められるタイプを開発しようと研究を進めている。
いずれは先進国の工事現場、途上国の一般家庭など、海外にも市場を求め、「年商を現状の7億円台から30~40億円に伸ばしたい」(新保社長)と展望を描いている。
企業名 | 株式会社アム |
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創業・設立 | 創業 1984年1月 |
事業内容 | 圧送式水洗トイレの製造・販売・レンタル、現場用仮設資材のレンタルなど |
関連URL | 情報誌ISICO vol.137 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.137より抜粋 |
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掲載号 | vol.137 |