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ISICOと連携して県内企業の皆さんをサポートする支援機関や研究機関などをご紹介します。
企業のDX(※1)やGX(※2)をサポートする「デジタル活用ものづくり支援センター」が6月26日、金沢市の石川県工業試験場に開設された。製品性能のシミュレーションやコンピューターが生成した加工プログラムを基にした試作が可能で、開発にかかる期間やコストの低減を後押しする。
(※1)デジタルトランスフォーメーションの略。企業がデジタル技術を活用し、製品やサービス、ビジネスモデル、業務などを変革すること。
(※2)グリーントランスフォーメーションの略。産業・社会を化石エネルギー中心からクリーンエネルギー中心へと転換していくための活動。
デジタル活用ものづくり支援センターは「シミュレーションエリア」「製造エリア」「監視/分析エリア」という3つのエリアで構成されている。
中でも同センターの肝と言えるのが、シミュレーションエリアである。その名の通り、ここはものづくり企業が設計や製造に関する各種シミュレーションソフトを体験できる場だ。例えば、仮想空間で製品の性能や製造時の加工条件をシミュレーションすれば、試作や試験の回数を減らして時間やコストを削減したり、スピーディーに品質改善したりすることが可能だ。
開設にあたって、設計系では構造解析や流体解析のソフト、製造系では工作機械を制御するNCプログラムやロボット動作プログラムを作成するソフト、加工時の不良を予測するソフトなど、10種類のソフトをそろえた。
こうしたシミュレーションソフトを動かすには、かつては高価なワークステーションや専門家が必要だったが、パソコンの処理能力が上がり、今では中小企業でも扱えるツールになりつつある。県工業試験場企画指導部の舟田義則部長は「センターを活用して、自社のビジネスに役立つかを見極め、導入の参考にしてほしい」と話す。
利用は1時間1,710円。個室が用意され、他社の目を気にせずにシミュレーションできる。導入のハードルが下がっているとはいえ、ソフトの使用やシミュレーション結果の解釈には基礎知識やノウハウが不可欠だ。不安な場合は同センターの職員から指導を受けることもできる(1時間1,610円)。操作に関する基礎知識やノウハウを学べる研修会も開催している。
既にシミュレーションソフトを導入済みの企業の場合、より先端的なデジタル技術を活用した製品開発、技術開発に向け、同センターと共同研究に取り組むこともできる。
シミュレーションの精度が上がっているとはいえ、仮想空間での計算結果が現実の空間でもそのまま反映されるとは限らない。そこで有用なのが「製造エリア」である。
このエリアでは、マシニングセンタやロボット加工機、CNC旋盤、サーボプレス、超複合ターニングセンタのほか、3Dプリンター、材料調整システムなどをそろえている。シミュレーションソフトによってはじき出された加工データを、これらの機械に転送して試すことができ、もしもシミュレーションの通りにならなければ、その原因を検討することで次への学びにつなげられる。仮想空間と現実空間を行き来しながら素早く検証できるのが同センターの特徴なのだ。
企業にとっては、自社の工作機械を止めずに検証できる点もメリットと言える。
「監視/分析エリア」では、IoTやAIを製造現場で活用し、生産性を向上させる取り組みをバックアップするため、デモ機を使って活用事例を展示、実演している。
例えば、工場内の設備の稼働状況を離れた場所からでもリアルタイムに把握できるシステムもその一つ。導入すれば、工場内を移動する時間や手間が省けるのはもちろん、予期せぬ設備の停止を早期に検知し、素早く対応できる。工程の無駄を洗い出し、改善につなげるため、加工データを記録、解析するシステムも展示されている。製品の自動検査や機械の故障予知に役立つAIを使った高度なデータ分析についても紹介している。
また、省エネを進めるため、工場内の消費電力を見える化するシステムも設置されている。部品1個を生産する際の二酸化炭素排出量を分析できる機能も備え、脱炭素化の推進に役立つ。
同センターの運営に向け、工業試験場では今年4月にデジタル活用ものづくり推進室を新設。3人の専任職員と、機械金属・電子情報・繊維生活・化学食品の各部と兼務する職員を合わせ、20人体制で企業を後押しする。オープン後は業界団体や企業の見学が相次ぎ、高い関心が寄せられている。
「第二弾としてロボットの導入支援に取り組む」と話すのは高野昌宏室長だ。人手不足が続く状況において、生産量の維持、向上に役立ててもらうため、さまざまな産業用ロボットを展示すると同時に、ロボットを使った自動化・省力化の事例を紹介する。今年度末までにロボットを導入、来年度から本格始動する計画だ。
高野室長と舟田部長は「従来のやり方を見直し、これからのものづくりを考えるため、まずは当センターに来てみませんか」と県内企業に呼び掛ける。自社の競争力を高め、他社と差別化するためには、シミュレーションやロボットなど、デジタル技術の活用が有効な一手に違いない。同センターを訪れることで、ぜひ新たな気づきを得てほしい。
企業名 | デジタル活用ものづくり支援センター(石川県工業試験場内) |
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創業・設立 | |
事業内容 | 企業のDXやGXをサポート。開発にかかる期間やコストの低減を後押し。 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.137 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.137より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.137 |