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令和6年能登半島地震で被災しながらも、試練を乗り越え、明日への一歩を踏み出した地元企業の奮闘ぶりを紹介します。
岡野建具工芸は兄の繁さんと弟の隆さんが二人三脚で営む、「田鶴浜建具」の工房だ。繁さんが百万石の名工、ものづくりマイスターに認定されるなど、卓越した技術を持つ。約370年の歴史を誇る田鶴浜建具の特徴は、くぎを使わず小さな木を組み合わせて文様を描く組子細工だ。組子細工で屏風に富士山や桜を描き、全国技能士会連合会の大会で過去2回、会長賞を受賞した実績もある。
令和6年能登半島地震の影響で、工場内の壁に立てかけてあった木材は入り乱れるように倒れ、玄関やトイレも損壊した。そのため1月、2月は片付けなどに追われ、休業を余儀なくされた。
3月以降は奥能登各地から建具の修理依頼が引きも切らない。多いのは「動かなくなった戸を直してほしい」「隙間風が入らないよう調整してほしい」「障子を張り替えてほしい」といった要望だ。建具そのものを修理するだけでは不十分で、木材をはさんで鴨居の位置を調整したり、建具と戸枠の間に木をあてがい隙間を埋めたりすることもしばしばだ。大工が不足している地域では、床の修繕などを請け負うこともあった。
臨機応変な対応を求められ、肉体的な疲労も大きいが、「ちゃんと動くようになり助かった」「ありがとう」といった言葉が、二人の励みになっている。
最盛期だった昭和30年代には田鶴浜地区に90軒ほどあった建具店も、今では9軒にまで減少した。「職人が減るのは寂しい限り」と話す一方、二人は活路を見いだそうと日々模索を続けている。
成果の一つが約10年前に開発した六角形のコースターを組み立てて楽しめる組子体験キットである。県立伝統産業工芸館や道の駅「あなみず」などで体験、購入が可能で、修学旅行で石川を訪れる学生や観光客から好評を得ている。
また、繁さんが田鶴浜支部長を務める県建具協同組合では県地場産業振興センターで年に一度、建具展を開催している。「実際に見て、一人でも多くの人に、建具に関心を持ってもらいたい」と繁さんは話す。
地震で半壊した自宅は、いずれ建て直し、自慢の建具を入れてショールームとしても活用する予定だ。田鶴浜建具の伝統の灯を守るため、「これからも地元にしっかりと根を張って頑張りたい」と二人は声をそろえる。
企業名 | 岡野建具工芸 |
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創業・設立 | 創業 1985年4月 |
事業内容 | 建具の製造・販売・修理 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.138 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.138より抜粋 |
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掲載号 | vol.138 |