本文
金沢市で印刷業を営むnakabiは、2020年から県内の伝統工芸作家とコラボレーションした創作文具ブランド「KASHIKO」を展開し、国内にとどまらず世界に向けて日本の美を発信している。
nakabiは今年9月、パリで開かれた世界最大級のインテリア&デザイン関連の国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展した。会場では創作文具ブランド「KASHIKO」の新商品として、九谷焼作家が描いた原画をデザインした風呂敷や扇子、ノートをバイヤーらにPRした。
中でも近年フランスで人気の風呂敷は最新のトレンドを提案する「WHAT'S NEW?」コーナーにも取り上げられ、多くの来場者の目を引いた。「作家の描いた色を大切にしたい」(今川弘敏社長)と、通常の3~4倍となる12~13色を使って彩り豊かに仕上げた風呂敷は「デザインが繊細で美しい」と高く評価され、多くの受注を獲得した。
同社がメゾン・エ・オブジェに出展するのは昨年に続き2回目だ。出展費用の一部はISICOの成長戦略ファンドの助成金を活用した。期間中は現地の営業代行会社とも連携し、74件の商談をこなし、イタリアやスウェーデン、アメリカの雑貨店等との取引が決まった。今川社長は「今後、フランスを中心にEUに販路を広げていきたい」と意欲を見せている。
印刷を主力としてきた同社が、自社商品の開発に乗り出したのは、紙離れによる需要減少が背景にあった。開発の方向性を模索する中、今川社長が相談を持ちかけたのが九谷焼作家の柴田有希佳さんだった。今川社長は以前、偶然訪れたギャラリーで柴田さんの作品に魅了され、作品を購入しただけでなく、オリジナルの陶板を制作してもらった経験があった。また、10年以上稽古を続けている茶道を通して、何百年も前に作られた茶碗や花器に接する中で、作り手に対して尊敬の念を抱いていたことも伝統工芸に目を向ける契機となった。
優れた作品を生み出す作家でも、情報発信や販路開拓では苦労が絶えない。柴田さんとの対話を通じ、そんな現状を知った今川社長は、九谷焼の原画を日常生活で気兼ねなく使えるアイテムとして展開すれば、暮らしに彩りを添え、伝統工芸への関心を高められるのではと考えた。そして「伝統工芸作家と社会をつなぐ」というコンセプトを掲げ、企画したのがKASHIKOだった。
2020年に第一弾として、印刷業のノウハウを生かし、メッセージカードやペーパークリップを商品化した。開発にあたってはISICOのチャレンジ支援ファンドの後押しを受けた。その後もマスキングテープやしおりなどをラインアップに加え、現在は4人の作家が協力している。
「作家に興味を持ち、作品を購入するきっかけになれば」(今川社長)との願いから、商品には必ず作家の情報を添えるのもこだわりの一つだ。
従来とは畑違いの分野だけに販路開拓には苦労したが、今川社長のネットワークを駆使し、現在では県内の雑貨店やギャラリー、和菓子店、県立伝統産業工芸館、県アンテナショップ「八重洲いしかわテラス」などでKASHIKOの商品が販売されている。
「いつかは海外で売りたい」。そう考えていた今川社長が「どうせチャレンジするなら、一番メジャーなところで勝負しよう」と海外での初出展の舞台として選んだのが冒頭で紹介したメゾン・エ・オブジェだった。
2年続けて出展し、8軒の文具店と継続的に取引するなど一定の成果を得たため、来年以降は出展せず、現地の営業代行会社のスタッフとともにヨーロッパの店を巡って直接の商談に切り替える。そのほか、メーカーとバイヤーを結ぶウェブ上のプラットフォームも活用しながら新たな販路を確立する計画だ。
ISICOの成長戦略ファンドの支援を受け、新たな商品開発にも取り組む予定だ。
開発にあたっては、メゾン・エ・オブジェで得た反省を生かし、これからはより戦略的にアプローチする。例えば、新商品として持ち込んだノートには5ミリ間隔の方眼を印刷した紙を使用したが、無地の方が好まれるとの意見が多く寄せられた。また、フランスでは持ち歩く習慣のないハンカチはまったく売れなかった。
「ラインアップはフランスの営業代行会社と相談し、マーケットインの考え方で増やしていきたい」。今川社長はそう話し、「アイテム数が増えれば、ポップアップショップも開設したい。OEMの受注にも力を入れてきたい」と展望を描く。金沢発の小さなブランドが、世界を舞台にどのように羽ばたいていくのか。KASHIKOの今後の展開から目が離せない。
企業名 | nakabi 株式会社 |
---|---|
創業・設立 | 創業 1980年 |
事業内容 | 印刷、グラフィックデザイン、ウェブデザイン 、文房具の企画・製造・販売、レンタルギャラリーの運営 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.138 |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.138より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.138 |