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中小企業で人手不足が深刻化する中、持続的な成長を実現するためには、生産性の向上が不可欠だ。限られた経営資源で最大限の成果を上げるには、先進技術も活用しながら従来のやり方を見直すことが必要だ。今回の巻頭特集では、クラウドサービスやロボット、AIを活用して生産性の向上や業務の効率化に取り組み、この難局を乗り越えようとしている県内2社の事例を紹介する。
丸編みニットの製造、販売を専門とするマルゲン。製造するのは染色加工する前の真っ白な生地、いわゆる生機(きばた)であり、体操服など学校衣料、ユニフォーム、介護ウェアなどに使われる。品質は高く評価され、大手のアウトドアブランドやスポーツメーカーも同社の製品を採用する。カーシートなど、産業資材としても利用される。保有する丸編み機の台数は国内トップクラスを誇り、臨機応変な対応力も強みとなっている。
そんな同社がISICOのデジタル化設備導入支援事業を活用して開発し、2023年1月に導入したのがAI自動検反機である。検反とは編み上がった生機の反物に傷や汚れなどの不良がないか、検査をすること。AI自動検反機では、3台のカメラで撮影した生機の画像をAIが解析し、不良がある箇所を自動的に検出する。
現在、同社が製造する1,000品番以上のうち主力の22品番に対応している。武田有祐社長は「丸編みニットの生機に限って言えば、おそらく世界初の自動検反機。導入後は検反数が約20%アップし、残業もほぼなくなった。熟練者でなくても検反が可能となり、社員の多能工化が進んだ」と話す。
生機の検反は従来、検査員が目視で行ってきた。しかし、近年では生機の生産量が増え、残業して対応せざるをえない状況が続いていた。
目視による検反は分速60メートルで流れる生機に、後ろからライトを当ててチェックする方法で、誰でもできる仕事ではない。検反には熟練の技が必要で、一人前になるのに5年はかかる。積極的に採用活動に取り組んでいるものの検査員の増員は難しく、こうした課題の解決に向け、AI自動検反機の開発に乗り出した。
開発にはAI活用を得意とする東京のベンチャー企業の協力を得て取り組んだ。あえて傷や汚れのある生機を作って東京に運び、試験用の小型機を作って、トライ&エラーを繰り返しながら実用化を進めた。特に難しかったのは、しわと傷を見分けることだった。そのため、検反機にかける際に特殊な治具でしわを伸ばすようにしたほか、しわのある良品の画像を大量に学習させることで精度の向上を実現した。
当初はカメラで撮影した画像のすべてをAIに読み込ませていたが、現在は明らかな不良は画像処理段階で検出し、疑わしいものだけをAIで判定するように改め、スピードアップにつなげた。
また、カメラを既存の検反機に後付けした場合、振動によって画像がぶれてしまうため、剛性の高い検反機を専用に製作した。
「すべての品番を対象とせず、当初は生産数量の多い4品番のみに限定して開発した点も成功の鍵の一つだった」と武田社長は振り返る。
その代わり、AIの専門知識がなくても、エクセル上でいくつかの指標を入力するだけで、自分たちで品番を追加できる仕組みを採用。将来的には対応する品番を500~600にまで増やす考えだ。
AI自動検反機の稼働後は県内外から大勢の見学者が訪れ、関心の高さを伺わせた。今後はAI自動検反機そのものの販売も視野に入れている。
同社では2026年12月の稼働を目指し、羽咋市内で新工場の建設も計画している。現工場の敷地では増産したくても機械を設置するスペースがなく、現状のままでは新規顧客からの依頼も断らざるを得ないため、ビジネスチャンスを逃さないよう、増産体制を整える。新工場がフル稼働すると生産量は2倍に増える見通しだ。そうなれば、検査員の増員も不可欠で、工場の建設計画と合わせ、AI自動検反機の増設も検討する予定だ。
検反業務の効率化とともに同社の課題となっているのが、経営リスクの分散に向けた、受託加工に頼らない新たな事業の柱づくりである。そのため、3年前には「新規事業開発室」を設立した。
新規事業開発室では現在、ISICOの成長戦略ファンドの支援を受け、能登ヒバを活用した糸・ニット製品の開発に取り組んでいる。能登ヒバのエッセンシャルオイルには、抗菌性や消臭性、防虫効果やリラックス効果がある。既に、これを染み込ませた糸は完成し、現在は第三者機関で機能性を確認している。
最終商品の開発に向け、ISICOが主催する新商品企画事業「Session石川」に社員が参加し、開発のステップやブランディングについても学んでいる。
「将来的には能登の旅館・ホテルと共同でシーツなどの寝具を開発したい。能登に注目してもらうきっかけになればと考えている」と話す武田社長。マルゲンは明るい未来へ向け、着実に次なるステップを歩み始めている。
企業名 | 株式会社マルゲン |
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創業・設立 | 設立 1990年9月 |
事業内容 | 丸編みニット生地の製造、販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.139 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.139より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.139 |