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排尿のタイミングを自在にコントロールする第2の膀胱(ぼうこう) ~イントロン・スペース(株)

印刷ページ表示 更新日:2025年3月27日更新

サキドリ

尿トラブルの新たな解決策となる外付け人工膀胱の開発を進めたイントロン・スペースは、ISICOが主催する「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ2023」で最優秀起業家賞を受賞。2024年11月に同製品を「TIMESHIFT(タイムシフト)」と命名し、販売を開始した。​

父親の施設入居で厳しい介護の現実知る

外付け人口膀胱「TIMESHIFT」の写真。 「TIMESHIFT」は、男性用尿もれケア製品で、尿を製品本体にいったん溜め、後でトイレに中身を捨てることができる。排尿のタイミングをコントロールし、時間差を生み出せることが、そのまま製品名になっている。
 今井茂雄社長が2019年にイントロン・スペースを設立し、TIMESHIFTの開発に着手したのは、父親が介護施設に入居したことがきっかけだった。そこで目にしたのが、排泄トラブルに悩む父と、入居者の排泄ケアに奮闘する若い介護士たちだった。
 おむつの交換は介護士や看護師の離職要因の一つとされ、特に排尿による交換は1日に何回も発生するため、交換作業が重い負担になっている。
 さらに、介護とは別の観点でおむつの利用は問題をはらんでいる。人口減少に伴って焼却ゴミが減っているのに対し、高齢化でおむつのゴミが増えているのだ。尿を吸収したおむつは燃えにくく、各自治体の悩みの種にもなっている。
 かつて途上国の衛生管理や排泄ケアシステムの研究に従事していた今井社長にとって、「人生の最期に衛生的なトイレすら使えない」ことや、介護施設で目にした現実は衝撃で、これらの問題を解決する製品を開発するため起業を決断した。

柔らかく伸縮自在で装着の違和感なし

 TIMESHIFTは本体のほかに、リング、コック、専用アンダーウェアの4点を取りそろえている。使用時は本体にコック、ずれ防止用のリングを取り付け、男性器に装着し、専用アンダーウェアのポケット部分に固定する。
 本体に尿を溜めるため、尿が皮膚に直接触れず、運動や姿勢の変化による漏れもなく、臭いもない。先端のコックを開くと、普通に用を足すようにそのまま尿を排出できる。いったん着用すれば終日取り外す必要がないので、外出先で廃棄に困ることもない。
 素材はソフトマテリアルで、熱を加えると軟化し、冷やすと硬くなる熱可塑性樹脂(ねつかそせいじゅし)を採用している。今井社長は、排尿前と臭尿後の製品の変化の様子の写真「非常に柔らかく伸びやすい素材なので装着時の違和感はほとんどない」と話す。伸長性に優れるため破れにくく、現在は衛生面から使い捨てを推奨しているが、将来は全量再生利用可能と考えている。
 構造にも大きな特徴がある。人間の静脈を模した逆流防止弁を備え、仮に本体が男性器から外れても中の尿が漏れることはない。同社では、この逆流防止弁と外れにくい本体デザイン、それぞれで国内特許を取得し、国際特許も出願中だ。
 一方、製造法についてはあえて非公開にしている。柔らかく伸びやすい素材を思い通りの形状に加工するための特殊な技術を守るためだ。

小松に石川事業所 病院で実証実験も

 TIMESHIFTの開発に当たっては県内の企業や病院とも協力関係を構築した。その筆頭が、排泄ケアの専門家を育成する合同会社プラスぽぽぽ(小松市)だ。
今井茂雄社長とプラスぽぽぽの榊原千秋代表の写真 起業する直前、プラスぽぽぽの榊原千秋代表が東京で開催した講演会に今井社長が参加したことで意見交換するようになり、現在、同社の石川事業所はプラスぽぽぽの3階を間借りしている。「スタートアップビジネスプランコンテストいしかわ」への参加も、榊原代表から の紹介で、2025年2月には小松で排泄ケアの専門家を対象にTIMESHIFT認定指導員養成講習会を開催した。
 同じく榊原代表の仲介で、2023年には、金沢大学附属病院で前立腺手術を受けた患者がTIMESHIFTの使用により、QOLがどう変化するのか測定する実証実験を行った。現在も、二ツ屋病院(かほく市)で石川県立看護大学が、TIMESHIFTとおむつを使った際のQOLの変化を実証実験中だ。

利用シーンを広げ女性用製品の開発に着手

東京ビッグサイトのCare Tex展での出展ブースの写真。販路開拓に取り組む。 昨年11月にネット販売を開始して以降、ユーザーからは好評の声が多数寄せられている。
 今後の課題は二つある。一つは販路の拡大だ。介護や看護の現場のほか、同社ではアウトドアスポーツや長時間イベント、渋滞時、災害時、宇宙空間での活動時など多彩な利用シーンをにらんでおり、「販路開拓についてはISICOからもアドバイスをもらっている」(今井社長)と話す。
 もう一つは女性用TIMESHIFTの開発だ。介護を受ける約8割が女性で、妊娠出産を経て尿漏れの悩みを抱えるケースが多いことから、ニーズが高いことは当初から分かっていた。しかし、今井社長にとって「自分を実験台にするのが一番スムーズ」だったこともあり、男性用から開発した。男性用の技術を生かし、「女性用も必ず完成させる」と今井社長は意気込む。
 その昔、近視は日常生活に大きな支障をきたす問題だったが、眼鏡の普及で容易に克服できるようになった。人類の高齢化が進む中、「TIMESHIFTを普及させて、排尿トラブルをささいな問題にしたい」と話す今井社長の未来予想図は、世界を変える可能性を秘めている。

企業情報

企業名 イントロン・スペース 株式会社
創業・設立 設立 2019年10月
事業内容 ヘルスケア製品の研究開発、企画・設計、販売、関連するサービスの提供

関連情報

関連URL 情報誌ISICO vol.140
備考 情報誌「ISICO」vol.140より抜粋
添付ファイル
掲載号 vol.140


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