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令和6年能登半島地震で被災しながらも、試練を乗り越え、明日への一歩を踏み出した地元企業の奮闘ぶりを紹介します。
「珪藻土(けいそうど)」の採掘量日本一を誇る珠洲市。この珪藻土を使い、同市の特産品である七輪やコンロのほか、レンガなどを製造するのが鍵主工業だ。珪藻土は植物プランクトンが堆積してできた素材で、耐火性や断熱性に優れ、遠赤外線効果も持つ。同社の製品は、通常800℃の焼成温度を950℃に高めることで、高い耐久性を実現しているのが特徴だ。
近年は海外からの需要も増え、売れ行きも好調だった。そのような中で起きたのが能登半島地震だった。
「私が無傷だったのは奇跡です」と語るのは鍵主哲社長だ。倒壊した事務所の中でも、倒れてくるものがなかった1坪の空間に身をかがめていたことが幸いした。しかし、製品の生産に欠かせない長さ50メートルの大窯が全壊し、事業の屋台骨を失ってしまった。
鍵主社長が再起を決意できたのは、新商品開発のため、一昨年に導入した窯が無事だったからだ。「幅は約4メートルと小さく、大窯に比べれば生産能力は20%程度だが、私には希望の光に見えた」と振り返る。
同社は、一昨年に中古で購入したばかりで、損傷のなかった車庫を事務所とし、2月には被害を免れた珪藻土七輪200個の発送を開始。さらに、残ったレンガをより需要の高い七輪に成形し直す作業を進めた。6月には、4メートルの窯を稼働させることができた。
それでも供給が追いつかないことから、鍵主社長は設備投資の計画を立てるため、ISICOの専門家派遣事業を活用した。「相談する中で何度も励ましの言葉をもらった。本当に心の支えになった」と話す。現在、補助金を活用して4メートルの窯と同等のものを3基建設中で、今春の完成を目指している。
最大の課題は人手不足だ。地震後、避難先から戻れないなどの理由で、従業員35人のうち12人が退職した。中には、事務所や工場の惨状を見て退職を決断した従業員もいた。
「発災直後、まずは従業員を安心させようと給与計算から始めたが、真っ先に『事業は続ける』と力強く伝えるべきだった」と吐露する。
その後、雇用を進めて27人まで回復したものの、不足した状態が続いていることから、鍵主社長は耐震性が高く、建築年数の浅い空き家を購入して社宅とし、遠方の就業希望者を受け入れる体制を整えた。「当社の製品を待ってくれているお客様が国内外に多くいる。期待に応えるため、一日も早く生産を軌道に乗せたい」と力強く語った。
企業名 | 株式会社 鍵主工業 |
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創業・設立 | 創業 1932年4月 |
事業内容 | 珪藻土製品、耐火断熱レンガ等の製造販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.140 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.140より抜粋 |
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掲載号 | vol.140 |