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ISICOが2021年度から開催する「求人票作成講座」が好評だ。多くの中小企業が人材確保に苦戦する中、受講者からは講師が伝授するノウハウを実践してハローワークの求人票を見直し、採用に成功したとの声が続々と寄せられている。果たしてどのようにすれば、ハローワークによる採用を強化できるのか。2社の取り組みからヒントを探った。
出口織ネームは、衣類などに付ける織ネーム(ブランドタグ)をジャガード織で製造している。設計図を自社で作成し、小さな文字や細い線もイメージ通りに織り上げる技術力に強みがあり、有名ブランドを含め、全国から依頼が寄せられている。
同社もISICOに相談に訪れ、人材アドバイザーから助言を受けたり、セミナーに参加してノウハウを学んだりしながら採用活動を見直し、成果を挙げた企業の一つだ。以前はハローワークに求人票を出しても、まったく応募がなかったが、相談後は募集するたびに3~10人の応募が来るようになり、2022年以降、男性社員1人と女性社員2人の採用に成功している。
では、同社は採用活動をどのように見直したのだろうか。最大のポイントはハローワークに出す求人票の見直しである。
「以前は具体的な情報が不足していて、内容がスカスカだった」と話すのは狭間則宏社長だ。改善後は「作業は先輩社員と一緒に行う」「運ぶ荷物の重さは1~4キロ」「パソコンはマウス操作と数字の入力が中心」など、求職者の疑問が解消するよう、なるべく詳しく情報を記載するようにした。特にパソコンやスマートフォンで検索結果として表示される「職種」欄と「仕事内容」の冒頭3行は、求職者が検索時に使うキーワードを意識し、凝縮した情報を記載した。
昨年4月にハローワークから応募し、企画営業として入社した伊藤さんは「他社の求人票と違って、ぎっしりと情報が書いてあり、仕事の内容や求めている人材像がよく分かった。家から近く、未経験でも入社してから学べるという点に引かれた」と話す。
今年4月から製造部門で働く東さんも「仕事内容がすごく詳しく書かれていたので、自分でもできるかなと思った」と応募の決め手を話す。
ハローワークとの関係強化に力を入れたこともポイントの一つだ。
具体的には、狭間社長がハローワークに出向き、求職者の支援をしている部門の職員に会って、求人票に書き切れない会社や仕事の情報を伝えた。ハローワークでは、求職者の希望を踏まえ、職員が仕事を紹介する場合がある。そのため、職員に会社や仕事について理解してもらえれば、企業にとって最適な人材を紹介してくれる可能性が高まる。より深く知ってもらうため、今後はハローワークの職員向けの会社見学会も計画する。
就職活動の最前線に立つ職員から得られるさまざまな情報も有益だ。例えば、同社の場合、職員のアドバイスを受け、応募前の職場見学を受け入れるようにした。また、事前に見学しなかった応募者の面接当日にもまず各職場を案内し、その上で面接に進むかどうかを確認するようにしている。
60代以上はパートの希望者が多いとの情報をヒントに、今後は短時間勤務で機械の修理やメンテナンスを手伝ってくれる高齢者を募集したいと考えている。
狭間社長は「採用活動はホームページを使った集客に似ている」と話し、求職者が知りたい情報を的確に伝えることの重要性を強調する。そのため、面接した応募者には求人票の内容と職場の印象に大きな違いがなかったかを尋ね、ギャップを感じているようであれば、求人票の記載内容を見直すよう心がけている。
また、ミスマッチや短期での離職を減らすため、会社や仕事について説明する際は、「急ぎの仕事があれば、昼の休憩時間が少しずれることもある」など、“不都合情報’も包み隠さず話すようにしている。
「人が伸びないと、会社が伸びない」。狭間社長がこう話すように、入社2年目を迎えた伊藤さんは企画営業の業務の傍ら、前職の経験を生かし、顕微鏡を使って織物の不具合の原因を分析し、改善提案をするなど、業界未経験ながら会社に新しい風を吹かせている。
多くの企業で人材確保が経営の最重要課題となる中、同社の取り組みは、大企業に比べて知名度や待遇面で不利な中小企業でも、工夫次第で効果的な採用活動が可能であることを示す好事例であり、採用活動を見直す手がかりとなるに違いない。
企業名 | 株式会社出口織ネーム |
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創業・設立 | 創業 1950年5月 |
事業内容 | ジャガード織物製品の製造・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.141 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.141より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.141 |