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ISICOが2021年度から開催する「求人票作成講座」が好評だ。多くの中小企業が人材確保に苦戦する中、受講者からは講師が伝授するノウハウを実践してハローワークの求人票を見直し、採用に成功したとの声が続々と寄せられている。果たしてどのようにすれば、ハローワークによる採用を強化できるのか。2社の取り組みからヒントを探った。
かつて採用に苦戦した兼六もISICOのセミナーで学んだ内容を実践し、成果につなげている。
同社は兼六園の敷地内にある料理屋「兼六亭」などを経営している。かつては団体客をメインターゲットとしていたが、コロナ禍によって加速した旅行二ーズの変化に合わせ、2022年に個人客がゆったりと食事を楽しめるよう店舗をリニューアル。気軽にドリンクを楽しめるカフェも併設し、個人客の取り込みに成功している。本格的な茶室も設け、昨年春には茶道の体験プログラムをスタートさせ、外国人客から人気を集めている。
事業を大きく見直す中で課題となったのが人材の採用だった。「既存のメンバーだけでは戦えない。しかし、ハローワークに求人票を出しても応募がない状態が慢性化していた。何とかてこ入れしなければと考えていた」(宇田直人社長)。
そんなとき、宇田社長の目に留まったのが、ISICOが主催する「求人票作成講座」の案内だった。
受講後は講師の指導を参考にハローワークに出す求人票の内容を見直した。その結果、正社員2人、アルバイト2人の採用に成功した。
ではどのように見直したのか。例えば、最も求職者の目に付く職種欄には勤務地として「兼六園」と明記した。店舗のリニューアルに伴い「店づくりを一緒に考えてほしい」と呼びかける文章も入れた。需要予測システムを導入し、デジタル化に注力する企業姿勢もPRした。
大学生のアルバイト採用を狙った求人票では、エ芸品や和菓子、茶道など金沢の文化に触れられることに加え、経営陣とともに新規事業にチャレンジした経験が「ガクチカ(※)」にもってこいだと求職者にとってのメリットをアピールした。
こうした内容が求職者を引きつけ、茶道経験のある大学生、カフェやフロアの責任者を任せられる人材などの採用に結びついた。
「セミナーで心に響いたのは、たくさんの求職者が応募してくれることがゴールではなく、本当に採用したい人材を一人採用できればいいと教わったことでした。求人票に情報を書けば書くほど、応募のハードルが上がり、敬遠されると思っていましたが、ターゲットを絞り、その人に向けて詳しく情報を書き込んだところ、本当に採用できたので驚きました」と宇田社長は話す。
(※)就職活動時に学生が企業の面接官からよく尋ねられる「学生時代、力を入れたことは?」という質問の略。
意外だったのは、この求人票がきっかけで外国人からも応募があったことだ。金沢大学に留学していたフランス人女性、デュブック・オセアンさんである。
日本の歴史や文化に興味を持ち、来日前から日本語を勉強していたオセアンさん。ハローワークで兼六の情報を見つけ、「日本文化を外国人に伝える仕事がしたかった。金沢ではインバウンド需要が拡大しているが、働く外国人は少なく、新たな店づくりのカになれると思った」と話す。
オセアンさんは2023年9月から正社員として勤務。母国語であるフランス語はもちろん、英語も堪能で、現在は茶道体験の説明役、社内の英語資料作成などを主に担当している。
外国人スタッフの視点が加わることで、茶道体験プログラムにも磨きがかかっている。例えば、当初、外国人客は椅子に座ってもらおうと考えていたが、畳に正座し、足がしびれて立てなくなることも体験になるとの意見を取り入れ、どちらも選べるようにしたこともその一つだ。
このほか、ハローワーク用の求人票をベースに、専門学校に求人を出したところ、調理補助スタッフ1人を採用することができた。
学生アルバイトの確保に向けては、大学の就職課にも足を運んだ。この際、企業と留学生をマッチングするイベントの紹介を受け、金沢大学に留学するポルトガル人男性のインターンシップを受け入れ、その後、アルバイトとして採用した。
「この2年間、思ったように人材が採用できているのは、セミナーで教えてもらったことに地道に取り組んできた成果だ。同じ目標を見据えて戦うメンバーが増え、心強く感じている」と話す宇田社長。「次のステップでは経営計画に沿って採用・育成計画を立て、“人財”の強化に取り組んでいきたい」と意欲を見せている。
企業名 | 株式会社兼六 |
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創業・設立 | 創業 1918年5月 |
事業内容 | 料理屋、写真撮影業、宿泊施設の運営 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.141 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.141より抜粋 |
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掲載号 | vol.141 |