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令和6年能登半島地震で被災しながらも、試練を乗り越え、明日への一歩を踏み出した地元企業の奮闘ぶりを紹介します。
「かみばこや田村」は創業以来、輪島塗製品を納める紙箱を生産している。主な取引先は、輪島塗のぬしや企画から販売までを担う「塗師屋」と呼ばれる事業者だ。要望に合わせて紙の素材、装飾用の和紙の色柄などを吟味し、オーダーメードで製造している。
輪島市に2つの工場を構え、紙の断裁から和紙の貼り付け、折り目加工、組み立てまで一貫して手掛け、地域で唯一の紙箱製造業者として伝統工芸を支えてきた。
その営みは昨年の能登半島地震によってー変した。両工場が全壊したのだ。同市河井町の工場に駆けつけた田村一人代表は目の前の惨状に言葉を失ったが、がれきの隙間から無傷の機械を発見し、かすかな希望を感じたという。「無事だったのは12台のうち3台だけだったが、気持ちが少し救われた」と当時を振り返る。
救出した3台は輪島市内の知人宅に預け、田村代表自身は、金沢市の二次避難所を拠点に事業再開への道を模索した。「輪島塗を買って能登を応援したい」との声が全国から寄せられ、紙箱の需要も高まる中、金沢市の同業者に製造を委託するとともに、小ロットの注文にはカッターとのりを使って手作業で対応し、供給を絶やさなかった。
ところが昨年9月、またしても試練が襲った。奥能登豪雨によって、保管していた3台の機械が泥水に浸かってしまったのだ。「内部の洗浄とモーターの交換をしたが、異音もしており、いつ故障するか分からない状態。なんとか稼働してくれたのが不幸中の幸いだった」と話す。
逆境の中、再起の糸口となったのが、輪島市役所内に設置されたISICOの相談窓口だった。「『一緒に頑張っていきましょう』という言葉に随分と励まされた」と田村代表。ISICO職員のアドバイスを受けながら石川県の営業再開支援補助金を利用し、12月にプレハブの作業場を河井町の工場跡に整備した。そこに2度の災害を乗り越えた3台の機械を搬入した。
今年1月には輪島商工復興センター内の仮設事業所への入居が決まり、金融機関からの融資で購入した新たな機械を設置した。現在、2拠点で製造を行っている。
目標は仮設事業所の利用期間である3年間のうちに工場再建を果たすこと。市場を開拓するため震災前に着手していた一般向け商品の開発も、状況が落ち着き次第、再開を目指す。「困難な道のりは続くが地域の産業を盛り立てる力になりたい」と田村代表は力強く前を見据える。
企業名 | かみばこや田村 |
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創業・設立 | 創業 1959年 |
事業内容 | 輪島塗の紙箱製造業 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.141 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.141より抜粋 |
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掲載号 | vol.141 |