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令和6年能登半島地震で被災しながらも、試練を乗り越え、明日への一歩を踏み出した地元企業の奮闘ぶりを紹介します。
2009年にオープンした居酒屋ダイニングくさなぎは、店主の鳥毛信子さんが切り盛りしてきた店だ。常連客がふらりと立ち寄り、家庭料理と酒を楽しむ憩いの場として愛されてきた。
その日常は能登半島地震によって一変した。建物は無事だったものの、酒や食品を保管していた倉庫は全壊し、上水道も止まったため長期休業を余儀なくされた。
「この店もこれで終わりかな」。そう考えていた信子さんを支えたのが、震災の少し前から経営に携わっていた長女の美知世さんだった。復旧後を見据え、若い世代を狙ったリニューアルを目指すとともに、宿泊事業にも挑戦することにしたのだ。「実は震災前から、居酒屋が入るビルの空きフロアを活用する計画を進めてきた。復旧工事に携わる方の宿泊場所が少ないという地域課題も念頭にあった」と美知世さんは語る。
実現に向けて、美知世さんはISICOに相談しながら準備をしてきた。「実現へのハードルが高そうな私の希望にも丁寧に耳を傾け、具体的な道筋を示してくれた。ありがたく、とても安心した」と振り返る。
そして今年5月、いよいよ再出発の日を迎えた。居酒屋は年配の常連客に配慮して小上がりの座敷を廃止し、全席を椅子席に。初めての人にも気軽に入ってもらうため、道路に面した窓の目隠しを撤去し、外から店内の雰囲気が分かるようにもした。金沢の飲食店で経験を積んだ長男の良治さんが厨房に加わったのも大きな変化だ。「観光客には地酒の、地元客には海外の珍しい酒の魅力を伝えたい」と、ドリンクメニューには良治さんによる酒の解説文やポップなイラストを添えた。これらの取り組みにより、以前は少なかった20代の若者も訪れるようになっている。
2・3階の宿泊施設は「HOTEL KUSANAGI」と名付けた。7室あり、最大14人が宿泊可能だ。
無垢(むく)材を積極的に用いて、温かみとモダンさを兼ね備えた空間に仕上げた。外国人観光客の利用も多く、宿泊客が居酒屋を利用することで収益の相乗効果も生まれている。
「店内では、地元の方が観光客に地域の名産品や観光地を紹介しているのをよく見る」と美知世さん。生まれ変わったくさなぎは、地域に新たなつながりと活気をもたらしている。
企業名 | 居酒屋ダイニングくさなぎ |
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創業・設立 | 創業 2009年 |
事業内容 | 飲食店、宿泊業 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.143 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.143より抜粋 |
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掲載号 | vol.143 |