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(株)求人 代表取締役
石塚 毅氏
ISICOは8月26日、採用面接成功セミナーをオンライン開催し、県内企業の経営者や人事担当者ら29人が参加しました。当日は「中小企業採用支援のカリスマ」と呼ばれる、(株)求人代表取締役の石塚毅氏が採用面接のポイントについて解説しました。セミナーの内容をダイジェストで紹介します。
採用の目的は、成果で会社に貢献できる人を採ることです。その役割を果たせるかをチェックするのが採用面接です。
重要なプロセスなのに軽視されがちな採用面接ですが、うまくいかないと、後に労務トラブルという分かりやすい形で会社にデメリットが降りかかってきます。
労務トラブルがこじれると、紛争に行き着きます。こうなると経営者は疲弊してイライラし、さらにそれが社内にも飛び火して、優秀な社員がそんな経営者を見限って去って行きます。これは最悪のパターンであると同時に、よくあるパターンでもあります。
そして、この労務トラブルの種になっているのが、採用面接です。採用面接では、会社は都合の悪いことを口にしませんし、逆にいい話しかしません。特に、ほしい人材に対しては、入社してほしいばかりに、採用面接でどんどん期待値を上げがちです。しかし、これが間違いです。中小企業こそ、最初の期待値を適正な位置に置く「期待値調整(※1)」、つまり言いづらいことを最初に話すことが重要です。
さて、採用面接を成功させるには3つのポイントがあります。
1つ目は、事前リサーチです。事前リサーチは非常に重要で、もし準備なしで採用面接に臨む予定なら、リスケジュールするべきです。
私の場合、事前準備で履歴書と職務経歴書を読むのに30分、ネットで軽く関連の調べ物をするので、最低でもトータル40分はかけています。
履歴書で押さえるべきは(1)生年月日(2)学校歴(3)最初に入社した会社(4)現住所(5)扶養の有無-の5点です。
まず、生年月日では世代の特徴がつかめます。社内に年の近い社員がいれば、世代イメージをよりつかみやすいでしょう。
現住所は、通勤距離と時間を知るためです。通勤距離と離職率には相関があると分かっていて、特に石川県は冬に渋滞しますし、事故も起きやすくなります。そのため、会社まで何分ぐらいかは、押さえておくべきです。
学校歴は、私は卒業した高校に注目します。出身高校は基本的な計数能力と読み書きのレベルを判断する材料にしやすいからです。
最初に入社した会社については、まっさらな人間が新卒1年目の会社で経験した社風やスキルは、一生影響し続ける場合が多いからです。
扶養は近年、親や兄弟の面倒を見ているケースも少なくありません。誰が扶養でも問題ありませんが、当人が言い出しづらいことをあらかじめ会社として共有し、了解しておく必要があります。
職務経歴書については、どんな仕事ができるのか次の2点をチェックします。1つは、最初に入社した会社でどんな仕事をしたか。もう1つは、直近5年間の具体的な職務の内容です。30歳未満なら直近3年で構いません。
職務経歴書を読んでもよく分からない場合は、その箇所をマークして、面接時に質問するとよいでしょう。求職者の説明能力を測ることにもなります。
2つ目のポイントは、「マニュアル候補者(※2)」への対応です。採用面接を前に、候補者はしっかり事前準備をしてきます。最近では、YouTubeに採用面接系コンテンツがたくさんありますし、特に新卒採用では、候補者全員がマニュアル候補者と言っても過言ではありません。
こうしたマニュアル候補者には、想定外の質問でその反応を見ます。ただし、いきなり質問しても効果はありません。まず、心理的安全性を醸成すること、言い換えると、気を緩ませることがコツです。
そのためには、「メラビアンの法則」を踏まえることが重要です。これは、人が他者のメッセージを受け取る際の印象は、ボディランゲージが55%、声の抑揚やイントネーションが38%、言葉の内容が7%という法則です。
これを念頭に、私が採用面接で実践しているのが、冒頭の5~10分ほどは聞き役に徹して笑顔で大きくうなずき、「あなたを受け入れている」というサインを送ることです。「頑張ってますね」などの候補者を認める言葉掛け、お茶やお菓子を出して一緒に食べるのも効果的です。
こうして質疑しやすい状態が整ったら、「一番の自慢の仕事は何ですか?」というような抽象度の高い質問をします。正解はありません。候補者の答え方や言葉を選ぶプロセスを見るのです。
3つ目のポイントは、採用面接は「選び、選ばれる場」だということです。採用に至らなかった場合、候補者は未来のユーザーや取引先になりえます。
従って、面接は広報・PRでもあり、候補者にとっての企業のイメージは、面接官の与えるイメージとイコールなのです。面接官だけでなく、電話の応答なども企業イメージの構成要素です。
私は知名度のない中小企業こそ、採用面接を頑張るべきだと考えます。企業側の対応が期待を超えていれば、たとえ採用されなくも、それはやがてプラスの口コミになります。
そのため、面接官は真剣に、温かく候補者と向き合わなければなりません。たとえ、採用基準に達していない候補者であっても、最後まで「あなたを受け入れている」という態度を崩してはいけないのです。
とりわけNGなのが、自慢や説教をすることです。高齢の面接官ほど、こうした傾向があるので注意してください。
また、採用面接には家庭環境や思想・宗教など法的リスクをはらむNG質問があります。しかし、入社後に滞りなく働いてもらうために、踏み込んで質問しなければいけないケースもあります。
そうした場合、候補者の心理的安全性を確保した上で、質問の趣旨を明確にし、候補者のことを100%考えているからこそ確認させてほしいと伝えた上で、尋ねなくてはなりません。
クレームは、期待をはるかに下回る対応をされたときに発生します。逆に、期待を上回る対応ができていれば、NG質問へのクレームを恐れる必要はありません。
※1 期待値調整
求職者の価値観や労働条件と、企業側のそれとの間にズレがないかを確認し、互いの理解を深めること。
※2 マニュアル候補者
採用面接で想定される質問を熟知して、事前に定型的な回答を用意している求職者のこと。
企業名 | 公益財団法人 石川県産業創出支援機構 |
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創業・設立 | 設立 1999年4月1日 |
事業内容 | 新産業創出のための総合的支援、産学・産業間のコーディネート機関 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.143 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.143より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.143 |