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人手不足やコスト高騰など、中小企業を取り巻く環境は厳しさを増している。この難局を乗り越えていくには、DXによる生産性向上が不可欠だ。とはいえ、巨額の投資は必ずしも必要ない。重要なのは、現場の困りごとに寄り添い、自らの手で課題解決を図る姿勢である。デジタル技術で組織を変革し、競争力を高めている県内2社の事例を紹介する。

岡田研磨は、建設機械のアームの関節部分などに使われるブッシュをはじめ、丸物部品の製造を得意とする。旋盤と研削盤を200台近く保有すると同時に自動化ロボットも駆使し、高い内製率と生産能力を強みとしている。
とはいえ、数年前までの製造現場は極めてアナログな状態にあった。図面は紙のファイルで棚に保管され、日々の作業実績書を入れた段ボールが山積みされていた。過去のデータを参照するには、こうした書類をひっくり返し、1時間以上かけて探し出すことも珍しくなかったという。
転機が訪れたのは2020年、岡田雄太専務が入社したタイミングだった。富士通で営業経験を積んだ岡田専務は、図面の管理が不十分で古いバージョンの図面が使用されるリスクや、情報の属人化といった課題を目の当たりにし、デジタル化による業務改革を決意した。

一般的に、製造現場へのIT導入は既存のやり方になれている社員などから反発を招きやすい。そこで岡田専務が重視したのは、経営者目線の管理強化ではなく、「現場がいかに楽になるか」という視点だった。
最初のステップとして、膨大な紙図面をPDFファイル化し、タブレット端末で即座に検索、閲覧できる環境を整備した。これにより、図面探しに費やしていた無駄な時間はゼロになり、現場の利便性が格段に向上した。
また、社内の連絡手段としてチャットツール「Slack」を導入したことも大きな変化を生んだ。以前は内線電話による呼び出しが頻繁にあり、作業の手が止まることがストレスとなっていたが、チャットによるコミュニケーションへの移行で業務効率が向上した。このように「デジタルを使うと仕事が楽になる」という実感を現場に持ってもらう積み重ねにより、DXに対する心理的なハードルを下げることに成功したのである。
その後、加工を終えた製品の検査結果を記録として残す検査成績書を作成するシステム、工作機械の稼働状況を把握するためのシステムなど、現在までに30種類以上の業務アプリを稼働させている。
さまざまな情報を一元管理する「OKADA Board」では、生産管理や在庫管理、クレーム管理など、あらゆる情報が集約され、全社員がパソコンやタブレット端末から確認できるようになっている。
デジタル化を進めた結果、紙の使用量は月5,600枚削減され、労働時間も月420時間の削減を実現した。

特筆すべきは、コストをなるべく抑えるため、こうしたシステム開発を岡田専務が一人で担っている点にある。この1年間で約8,000万円分相当のシステムの内製化を行なった。といっても岡田専務にプログラミングの知識があるわけではない。そのため当初はGoogleの「スプレッドシート」(表計算ソフト)やノーコード開発ツール「AppSheet」を活用してきた。約1年前からはクラウドIDEを活用し、日本語でAIと対話を重ねながら自社に合った完全オリジナルのシステム開発を行っている。
また、コスト以上に岡田専務が強調するのが、データベースを自社の管理下に置き、自由に活用できる環境の重要性である。外部のサービスを利用した場合、データベースがベンダーの管理下に置かれ、将来的にAIによる自由な解析や活用が制限される懸念がある。
その点、自社でデータベースを構築、管理しておけば、今後ますます発展するであろうAIをフル活用する環境が整っていることになる。

AIとの連携は既に始まっている。
例えば、社員が作成した手順書をAIが自動採点する仕組みもその一つだ。採点と同時にAIが改善点を示してくれるようになっており、これに合わせて修正することで、質の良い手順書を完成させることができる。社員には品質に応じて報奨金を出している。導入からわずか4カ月で230件もの手順書が提出され、これまで属人化されていた知識やノウハウを会社のナレッジとして集積することに成功している。
また、社内のデータベースを活用したAIチャットボットも開発しており、社内のさまざまなノウハウをAIから聞き出せるようになれば、新人教育コストの削減ができると考えている。
今後は社員のエンゲージメント向上を目指し、デジタル化によって可視化した個人の生産実績やスキル、貢献度を、AIを用いて評価することで、人の感情や先入観に左右されず、公平で納得感のある評価制度を構築しようと開発を進めている。
「デジタルネイティブ世代にとって、企業がAIを使いこなしているかどうかは就職先選びの重要な基準になりつつある」と話す岡田専務。同社の取り組みは、中小企業でもITやAIを駆使することで、生産性の向上と魅力的な職場づくりが実現できることを証明していると言えそうだ。
| 企業名 | 岡田研磨 株式会社 |
|---|---|
| 創業・設立 | 設立 1974年4月 |
| 事業内容 | 建設機械・シリンダー・一般産業機械等の部品および完品の加工・組み立て |
| 関連URL | 情報誌ISICO vol.145 |
|---|---|
| 備考 | 情報誌「ISICO」vol.145より抜粋 |
| 添付ファイル | |
| 掲載号 | vol.145 |