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空飛ぶ鉄の塊である航空機は100万点を超えるパーツからなり、安全性を担保するためその特殊工程に「Nadcap(ナドキャップ)」という極めて厳しい品質認証制度が適用される。
航空機部品の製造に参入して15年以上たつ浅下鍍金(めっき)は、ISICOの専門家派遣制度を利用して、Nadcapが求める品質の維持に努めている。
浅下鍍金が製造に携わる航空機部品は現在、数百種類に及び、その代表的なものがランディングギア用のアクチュエーターだ。これは離着陸時に使用する車輪を出し入れする駆動装置で、メッキ処理を施すことで耐摩耗性や防錆(ぼうせい)性を高めている。
同社が航空機部品に参入したのは2010年だが、起点はさらに遡る。2000年代初頭、ISICOが開催していた受注懇談会で、ボンバルディア(カナダ)の航空機部品を手掛けていた住友精密工業(兵庫県尼崎市)の工場を見学したことだ。
当時はそれ以上、商談は進まなかったが、09年に同社と協力関係にある高林製作所(金沢市)が住友精密工業の航空機部品加工に挑戦した際、「再びご縁がつながった」と浅下秀昭社長は振り返る。
当時、住友精密工業はアクチュエーターの部品を輸入していたが質が低く、表面処理を剥がして再処理するほどだった。そのため国産化を探っており、高林製作所を通して同社に声がかかった。
住友精密工業は品質管理のため、加工から表面処理、検査までの一貫生産を求めていたが、一社では難しい。そこで、同社は全国でもあまり例のない製造体制を構築する。具体的には、(1)高林製作所が材料を購入(2)協力会社で熱処理の専門技術を持つ深田熱処理工業(小松市)で焼き入れして強度を高める(3)高林製作所が加工して非破壊検査(4)浅下鍍金で表面処理(5)高林製作所の最終検査―という工程を経て、納入するという実質的な一貫生産体制である。
現在も、航空機部品が求める品質で加工から検査までを1社で担える企業はほぼなく、遠方の企業間で部品をやりとりするのが一般的だ。その点、浅下鍍金をはじめとする3社は、県内で共同生産することで、リードタイムや輸送コストの大幅削減を実現したわけだ。
とはいえ、それまで繊維機械部品など一般産業向けの表面処理を得意とし、高い技術力を誇っていた同社であっても、航空機部品はハードルが高かった。特に壁となったのが、国際認証制度Nadcapの取得だ。
Nadcapは航空宇宙・防衛産業界の特殊工程を手掛けるのに必要な規格であり、要求水準は一般的なものづくりに比べてとてつもなく高い。
トラブルが人命リスクに直結する航空機では、そのトラブルが万が一にも起きないよう、Nadcapは特殊工程の一作業にも細かな手順を定めている。例えば、メッキ加工の場合、使用する薬品のメーカーと種類だけでなく、薬品を管理する温度と湿度も指定がある。メッキの厚みもマイクロ単位で指定範囲に収めなければならず、次の工程に移る際の時間や温度、湿度にもまた指定がある。完成品は個別包装でなければコンタミネーション(汚染)と見なされ、梱包材にも指定があるといった具合だ。
さらに厄介なのは、Nadcapの仕様書が全て英語であることに加え、アメリカの航空機製造文化が下地にあり、翻訳家にも難解な専門用語が入り乱れていることだ。
このため、同社は参入に合わせて英語のできる人材を採用し、浅下社長も英会話教室に通うほか、ISICOに支援を仰いだ。浅下社長は「住友精密工業さんのサポートに加え、ISICO派遣の専門家の助けも大きかった」とNadcapの取得を振り返る。
特に、「製造技術のフォローだけでなく、Nadcapの仕様書にある記述の意図や細かなニュアンスについてもアドバイスをもらっている」(浅下社長)という。
Nadcapの取得によって参入した航空機部品製造は、当初の1種類から現在は数百種類まで大幅に増え、それに伴って同社の売り上げの25%を占めるまでに成長した。参入時に構想したとおり、新たな事業の柱となったわけだ。
さらに、Nadcapという翼を得たことによって、同社の視界はますます広がった。2020年に半導体製造装置の部品製造に参入し、24年からは防衛装備品向け航空機部品の製造も手掛けるようになった。
いずれの部品製造と取引にも、Nadcapの取得と維持で培ったノウハウが支えになった。とりわけ、防衛装備品には独自の認証制度があり、「本来ならおいそれと手を出せないが、Nadcapで磨き上げた管理技術が生きた」と浅下社長は話し、「将来的に航空機部品は売り上げの40%まで育てたい」と、さらに上空を見ている。
そして、浅下社長が航空機部品に続いて期待をかけているのが、現在、世界的に需要が沸騰している半導体製造装置の部品だ。
現在、同社の半導体製造装置向け売り上げは5%以下だが、近い将来30%への急伸も視野に入るほど引き合いが多い。
しかし、課題もある。現行型の部品製造には問題ないのだが、新型を製造するにはまだ技術が確立できていないことだ。ただ、浅下社長は「道筋は見えている」と話し、技術面でめどが立ち次第、同社は工場の拡張も進めていく方針だ。

| 企業名 | 浅下鍍金 株式会社 |
|---|---|
| 創業・設立 | 創業 1934年10月 |
| 事業内容 | 一般機械部品や航空機部品などの表面処理 |
| 関連URL | 情報誌ISICO vol.145 |
|---|---|
| 備考 | 情報誌「ISICO」vol.145より抜粋 |
| 添付ファイル | |
| 掲載号 | vol.145 |