本文
本藍染めのストールに、漆塗りのリングを添えた金澤の藍
<平成29年度活性化ファンド採択事業>
◇事業名
藍染板締めストールと金沢漆器のストールリングを組み合わせた新商品開発・販路開拓
◇商品名
本藍染めのストールと漆塗りのリング
日本に古くから伝わる自然の藍で生地を染める藍染め、その世界で独創的なモノづくりで独自の境地を切り開いている染め職人が石田貴博さんである。従来の藍染めストールに金沢漆器の漆塗りを施したオリジナルのストールリングを組み合わせた新たな商品を提案し、平成29年度いしかわ産業化資源活用推進ファンドの認定を受ける。
◇染工房石田のおいたち
旧高松町で藍染工房を営む石田家の長男として生を受けた石田貴博さん。親の背中を見て育ち、子供の頃から染め作業を手伝い、染めの技法である板締めや絞りなども父親から教えられ、自然の成り行きで親しんでいた。後を継ぐことを考えていた時期もあったようだが、大学を出ると全く違う世界も経験したいと、さまざまな仕事に就いたが、やはり子供の頃から日々の生活の中にあった藍染めの仕事こそが自分の進む道だと思い至る瞬間があり、実家に戻り親と一緒に仕事を始める。その後、38歳のころに金沢市内に自らの工房を構えて独立。染工房石田の看板を掲げ、藍染め職人として新たなスタートを切る。
◇ストールリング開発の経緯
年間に国内25カ所あまりで開催される百貨店での物産展や展示会の中で、ストールの胸元部分を留めるアクセサリーとして天然石のリングを使っていたが、すべりやすいこともあり、地面に落とすと衝撃で割れてしまう光景を何度か目にする。また、ストールの結び方はいろいろあるものの、覚えるのが大変なことから、天然木のリングにすれば、落ちても割れることなく、通すだけでストールが留められると閃いたのが、ストールリングを作ろうと考えたきっかけ。せっかく作るのであれば、ただの白木よりも地元の伝統工芸である金沢漆器の漆を施したもの、さらに螺鈿を施すことで、個性的で華やかなものになると考える。
◇商品化に向け試行錯誤
何でも自分でやってみる石田さんは、製材所で能登ヒバの端材を分けてもらい、自ら刃を改良したボール盤を使ってリングの形に削りだし、それを漆器店に持って行き漆を塗ってもらうことに。ところが、専門業者に漆塗りを外注すると、一つの小さなリングでもそれなりのコストがかかった。これではストールとセットにし、1万円以内に収まるギフト商品にしたいとの思いが実現できない。
そこで、ジュエリー作家として漆も学んでいる妻の長谷川真希さんに協力してもらい、自前で漆を塗り、螺鈿も施し、全て自分たちで仕上げられるめどが立つ。「お客様にできるだけリーズナブルな価格で自分の商品を提供したいとの一心で、いろいろやってみたら自分たちでできるようになった。」と照れ笑いする。全てはお客様のためにとの石田さんのポリシーを体現した格好だ。
◇リーズナブルな価格、息の長いモノづくりがモットー
ストールリングの製作、漆塗り、螺鈿、これらの工程を全て外注すると、とても現在のようなリーズナブルな価格にはならず、いいものなのは分かるけど高いからいらないという商品になっていたに違いない。そうならないために、いかに安く、お客様にとって手頃な価格の商品に仕上げるか、そのために全て内製化する方向で努力したことが、このモノづくりのポイントである。と同時に、「活性化ファンドを使わせていただくからには、1回きりで終わってしまうモノづくりではなく、自分の技術に磨きをかけながら、これから長く続けていけるモノづくりをしないと意味がないですから。」と真面目な石田さんの人柄を垣間見る。
◇顧客とのキャッチボールの中にヒントが
「物産展に行くたびにお客様からいろんな要望をいただけるのが、とても勉強になります。例えば、このリングも秋冬物の厚手のストールの時は問題ないですが、夏物の薄手のストールでは滑って落ちてしまうため、もう少し小さいリングが欲しい。」といった次の商品開発につながるアドバイス。
「ウエストを締まった感じにしたいとのお客様に、薄手のストールをベルト替わりに締めてもらい、それをストールリングで留めてもらったところベルトにはないオリジナリティーがとても喜ばれました。」とも。ちなみに、石田さんの商品はほとんどが婦人物。もちろんオーダーがあれば紳士物も作っている。
◇自社製造・販売
全国各地の百貨店でイベントをしていることから、会場でオーダーを受けた商品、修繕や染め直しの依頼のあった商品を預かり、次回また同じ会場でイベントがある時に、出来上がったものを顧客に渡すという対応をしている。先述のとおり年に25カ所程度、あちこちの百貨店でイベントをするため、その合間を縫って染め作業を行う忙しい日々を送っている。1年に2回、3回と行く百貨店については、毎回新しい商品を出さなければならず、新作づくりに追われる。最近では藍染の特性を理解して販売してくれる販売店も増えてきたとのこと。
◇手づくりの魅力・個性を発信
更なる差別化商品として、手織りにも取り組んでいる。糸から自分で染め、イベントの会場に織機を設置し、実演を兼ねながら手織り作業をしている。そうした手織りの商品は手間暇がかかるが、その商品は1点物で人気がある。
全国各地の百貨店を巡り各地の得意客が、新作など楽しみに待ってくれている。藍染めは、いわゆる伝統的工芸品のような縛りがないため、染め方、デザイン、色合い等々、すべて自由であることから、石田さんの発想と顧客の多様なニーズがコラボすることで、他にはない個性的な手づくりの魅力を世に発信し、金沢に染工房石田ありと全国津々浦々に知れ渡る日もそう遠くなさそうだ。
石田貴博 代表
◇会社概要
・商 号 染工房石田
・代 表 石田貴博
・〒920-0102 金沢市岸川町チ43番地
・TEL (076))255-3552
・URL http://www.aizomeishida.com