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加賀友禅の伝統技法を現代の生活空間に フィットさせる久恒マジック!
<平成27年度活性化ファンド採択事業>
◇事業名
新しい染料を使った加賀友禅商品の開発・販売
◇商品名
天女の羽衣 手描き加賀友禅染めショール
◇キャッチコピー
軽さ・美しさ・感動を あなたに
◇友禅空間 工房久恒のあゆみ
絵が上手だった母親の影響を受け、子供の頃から絵を描くことが好きだった久恒俊治氏。大学は工学部に在籍するも、当時はオイルショック直後の就職難の時代であったことから、サラリーマンよりも手に職をつけようと考えていた大学4年の冬、たまたま加賀友禅作家・鶴見保二氏の工房を訪問した際、この仕事でやって行こうと決意。大学を中退し、頭を丸めて弟子入りする。
13年あまりの修業を経て、昭和63年に独立し「友禅空間 工房久恒」を開く。独立当時はバブル景気の時代で、着物の仕事だけで十分やっていけたが、バブル崩壊と共に、誂え品の注文が激減し始める。
そんな時に、久恒氏は、友禅の技法をインテリア分野に応用できないかと考え、木の衝立に友禅の絵柄を描くことを思いつく。その後もガラスの食器に、内装材としての壁面装飾にと次々と新分野を積極的に開拓し、現代の生活空間の様々なところに加賀友禅をフィットさせる伝道師としてその地位を確立する。そこには、季節ごとに工房の庭に咲く草花をスケッチする友禅作家としての原点を忘れず、日々研鑽を積む久恒氏の地道な努力があることは言うまでもない。
◇開発の経緯
そうした創作活動を続けてきていた中で、地元七尾の合繊メーカーである天池合繊(株)が開発した世界一軽い織物「天女の羽衣」が目に止まる。早速、石川県立伝統産業工芸館の柳井館長(当時)に天池合繊(株)の天池源受社長を紹介してもらい、コラボレーションを申し入れたところ快く天女の羽衣の提供を受け、天女の羽衣に手描き加賀友禅の技法を施した「天女の羽衣 手描き加賀友禅染めショール」が誕生する。
とはいえ、制作過程においては、天女の羽衣の生地があまりに薄く、普通の描き方では色がムラになって上手く描けなかった。そこで、久恒氏は試行錯誤を繰り返す中で、従来の染料にひと工夫したオリジナルの染料を作ることで、色むらや滲みなく友禅の絵柄を描ける手法を確立する。
こうした背景には、木の衝立やガラス食器など、着物以外のさまざまな素材に友禅の技法を用いた加飾を施すモノづくりに、20年以上前から先駆的に取り組んできた経験とノウハウが活かされており、久恒氏だから商品化できたと言っても過言ではない。
◇こだわり
当初は、天女の羽衣に手描き友禅の絵付けを施したものだったが、現在では草木染めのラインナップが加わっている。と言っても、野山にある草花で染めるのではなく、歴史的な由緒のある花を素材に使うことにこだわっている。
最初に取り組んだのは、尾山神社の境内で5月に咲く菊桜。これは、前田家由来の初代兼六園菊桜が枯れた際、その枝を接ぎ木して生き残った子孫の菊桜であり、その花びらを用いて草木染めで先染めした生地に、友禅の技法で桜を描いてある。
次に取り組んだのは、県の伝統産業海外展開支援事業でウィーンを訪れた際、音楽家ハイドンのパトロンとしても知られるハンガリーのエステルハージ侯爵家の関係者と親しくなり、エステルハージ城で手描き友禅のワークショップを開催。たまたまそこは、昔からワインを一貫生産しているシャトーでもあったことから、ブドウの搾りかすでも染めることができるのではと提案され、それを持ち帰り由緒あるブドウの搾りかすで染めた生地ができあがる。
さらには、シンガポールと日本の国交50周年記念にあたって開催された「SJ50まつり」に参加した際、現地の世界遺産であるボタニックガーデンの園長を紹介され、草木染めした天女の羽衣に手描き友禅を施していることを説明したところ、ボタニックガーデンの蘭の花びらの提供を受け、新たな草木染めが加わる。こうした歴史や由緒ある花にこだわりを持って取り組んでいる。
ウィーンでのワークショップ風景
◇課題と今後の方向性
国内での販路開拓が最大の課題であり、百貨店での物産展や各種展示会に積極的に参加し、手描き友禅の実演をしながら販促活動を行ってきているが、簡単な絵柄のものでも、最低1週間を要する手間暇のかかる手仕事を経て完成した商品であるという目に見えない部分のストーリーを、初めて見た人にその場で理解してもらうのは容易ではなく、伝統工芸の世界に共通した悩みでもある伝統工芸=高価格の商品であるため、なかなか売れないのが現実である。
今後もさまざまな機会を活用して自らのモノづくりを発信していくと共に、行政の支援制度を活用して国内外の展示会へ出展し、少しでも多くの人に加賀友禅の魅力を知ってもらうことに地道に取り組んでいく考えだ。
と同時に、これからも世界の由緒あるところとコラボレーションしながら、加賀友禅の美しさ繊細さと、天女の羽衣の軽さ・薄さの相乗効果で、世界の人たちに石川県の繊維の高い技術力、加賀友禅の魅力を発信し、石川県が誇る地場産業の総合力で世界に感動を与え、ファンを増やしていくことを思い描く久恒氏である。
個展会場風景 久恒 俊治氏
◇販売価格
30,000円~150,000円(税別)
手描き友禅の絵柄によって価格幅がある。
◇販売事業者
・商 号 友禅空間 工房久恒
・〒920-0813 石川県金沢市御所町1-75
・TEL 076-251-7184