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奥能登漁師の懐刀 魚醤いしりらーめん
<平成30年度いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド採択事業>
◇事業名
「いしり」と「能登海洋深層水」を活用した新製品開発・販路開拓事業
◇商品名
魚醤いしりらーめん
海・山・祭、いいところいっぱいの能登町。なかでも小木には、日本人が大好きなイカの水揚げランキングで、常にベスト5にランクインする日本を代表する水揚げ拠点・小木港がある。その小木港まで徒歩数秒、港の目の前に店を構えるのが、イカを始めとした水産物加工業を営む(有)カネイシ。
いしかわ中小企業チャレンジファンドを活用し、イカのいしりと海洋深層水塩を使った「魚醤いしりらーめん」を商品化。小木をこよなく愛す新谷伸一社長にお話を伺った。
◇開発の経緯
小木港で水揚げされる船凍イカの内蔵を発酵させて作る魚醤「いしり」が、同社の人気ナンバー1商品。次いで「イカの塩辛」「いしりぽん酢」、海産物の干物類が年間を通して人気が高い。2001年からネット通販に取り組み、2~3年経過した頃から「いしり」が珍しい商品であることに着眼したテレビや雑誌の取材が来るようになり、それを見た消費者から注文が入り始める。
やがて業務用の注文も入るようになり、中でもラーメン店からの注文が増えてきたことから、情報収集してみると、海鮮系のスープの味付けに「いしり」を使うと、コクが出て美味しく仕上がるとの評価を得る。そうした声が背中を押し、自社ブランドのラーメンを商品化すれば、能登・小木港のお土産として売れるのではと閃く。
そこで、2020年に「イカの駅つくモール」がオープンするタイミングに合わせ、地域産品のお土産、ご当地名物の一つとして「魚醤いしりらーめん」を発売すべく商品開発に着手する。
◇開発段階での苦労
ラーメン製造はこれまで縁のない世界のため、業務用ラーメンのOEMで有名な北海道の業者に「いしり」を送ってスープの試作を依頼する。ところが、北海道の人は、いしりに馴染みがないこともあり、できあがってきたスープの調合比率や、麺との絡み具合など、新谷社長のイメージしていたものとはほど遠かった。顔を見ながら打ち合わせをしたくても、能登と北海道では物理的に距離がありすぎ、頻繁に出掛けることもままならないため、石川県内の業者を探すべく方向変換することに。
そこで、石川県でラーメンと言えば、誰もが思い浮かべる「8番ラーメン」を展開する「(株)ハチバン」に共同開発を依頼する。こうして、(株)ハチバンの監修のもとに、いしりと海洋深層水塩を使ったスープの調合、そのスープに絡みやすい麺の開発がスタートした。そして構想から約2年、幾多の試食を繰り返した結果、ようやく「魚醤いしりらーめん」が完成する。
◇現状における課題
令和元年のゴールデンウィークに発売を開始し、これまでに6千食あまりを販売。中でも道の駅「桜峠」では、店頭販売はもとより、イートインコーナーのメニューに加わったことで、相乗効果で売れ行きは好調。こうした販売と飲食の両方でアピールできるビジネスモデルをあちこちで展開する目論みだったが、コロナ禍の緊急事態宣言や自粛ムードで足踏み状態になっている。
1箱3袋入りで販売価格が千円と、お土産品としてはリーズナブルだが、スーパー等に並ぶ即席麺に比べると割高感は否めず、商品を置ける場所が限られてしまうことも悩みの種。また、パッケージデザインが上品過ぎたため、売り場に並べると、他の商品の派手さに負け、目立たないことを売り場の担当者から指摘され、目立つパッケージに変更することも検討中。コロナ禍で、観光地の土産物店での売上が落ち込む中、「イカの駅つくモール」が2020年6月にオープンし、しばらくは売れたものの、昨年末からの首都圏の緊急事態宣言で再び観光客が来なくなり、足踏み状況を余儀なくされている。
◇ユニークなホームページに刷新!
同社ホームページの「魚醤いしりらーめん」のバナーをクリックすると、突然マンガタッチのキャラクターが登場するインパクト抜群のページが出現する。斬新なページづくりについて伺うと、「まずは存在を知ってもらうことが重要なため、ツィッターを活用してサイトに誘導する仕組みを作り、なおかつインパクトを与えるため、マンガで開発ストーリーを面白おかしく紹介すれば、若い人たちが興味を持ってくれるのではと思い、マンガを描く才能のある人を探したところ、偶然にも取引先の印刷会社に趣味でマンガを描いている方が見つかり、その人にキャラクターデザインをお願いしました。」と顔をほころばす。
同時並行で、ツイッターを活用して自社ホームページに誘導する仕掛けとして、ツイッターはフォロワー数を集めないと効果がないことから、リツイートして「魚醤いしりらーめん」と呟いてくれれば、商品をプレゼントするキャンペーンを実施したところ、フォロワー数が4000人近くまで伸びたという。そうした地道な作業の甲斐もあり、じわじわとホームページへのアクセス数も右肩上がりに。
◇コロナ禍でも認知度アップにあの手、この手
店頭販売が落ち込んでいる中で、手頃な価格とパッケージが評価され、生命保険会社が顧客へのお土産として何社か採用してくれ、それを食べたお客さんからのリピートも増え始めている。
また、期間限定で「魚醤いしりらーめん」を使ったオリジナルレシピコンテストを開催し、応募があったレシピの中から優秀なアイデアをホームページに掲載し、最優秀賞に採用された応募者には、魚醤いしりらーめんならびに同社の干物詰め合わせをプレゼントする企画も実施。考えられる様々な工夫を凝らし、少しでも認知度をアップさせるべく日々奮闘中。こうした取り組みを通じて、「魚醤いしりらーめん」だけでなく、同社の海産物の干物など他の商品にも興味を持ってもらうことにつながればとの思いで邁進中。
◇いしりの魅力を全国に発信
能登では昔から日常の調味料として使われている「いしり」だが、全国的には稀少な商品。お土産としてだけでなく、県のアンテナショップなどで、1食分の麺とスープを個包装し、300円前後で買えるような個食パックにして販売することも検討している。
コロナ禍になったことで、ネット通販の売上は伸びているが、居酒屋などへの業務用卸や店頭販売が落ち込み、全体としては厳しい状況にあることは否めない。「いしり」の旨味を活かし、派生商品をいろいろ展開中だが、さらに知恵を絞り消費者の購買意欲をくすぐるようなユニークな商品開発、PR手法を模索する。「やらなくて後悔するより、何でもやってみないと気が済まないし、それがチャンスにつながる。」と意欲満々の新谷社長である。
新谷社長
◇会社概要
・商 号 有限会社カネイシ
・住 所 鳳珠郡能登町字小木18-6
・代表者 代表取締役 新谷伸一
・TEL (0768)74-0410
・URL https://kaneishi.com