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和と洋のコラボレーションで金沢和菓子に新たな切り口を!
<平成29年度活性化ファンド採択事業>
◇事業名
和菓子の現代化計画
◇商品名
加賀宝珠
明治21年の創業以来、金沢市武蔵町に店を構え、焼まん頭本舗として長年金沢市民に愛されている越山甘清堂。6代目として、平成元年に社業入りした徳山康彦社長は、平成の時代と共に菓子づくりに精励し、時代の変化に対応した和菓子づくりに邁進。金沢和菓子の伝統は堅持しつつ、若い人たちが手に取ってくれる話題性のある新商品「加賀宝珠」を発売。和と洋を融合させた新たな切り口の商品開発についてお話を伺った。
◇平成の30年は不易流行を実践
「平成の30年は私の菓子づくりの歴史ですよ」と開口一番。結婚後しばらくして畑違いの世界に飛び込んだ徳山社長は、看板商品の焼まん頭に固執することなく、時代の変化や消費者ニーズの多様化に対応し、店も商品も変化していかないと顧客が逃げてしまうとの危機感を常に持ち、この30年で自社商品の9割は変えてきたという。
創業から130年の長い年月、顧客が評価する越山甘清堂の歴史と味のベースを大事に守り受け継ぎながら、そこに少しずつ少しずつ時代の変化を織り込み、しかも素材も吟味し、なおかつ見た目はでかいよりも小さい、商品そのものもパッケージもかわいらしいことを意識したモノづくりに邁進してきた。と同時に、『不易流行』(いつの時代も変わらない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと)の精神を併せ持ち、絶妙なバランスを取りながら、平成の時代を生き抜いてきたことが、言葉の端々に感じられる。
◇新しい発想、切り口での商品開発
変化の激しい時代にあって、消費者の嗜好もどんどん変わっているにもかかわらず、和菓子の饅頭は、皮こそ餅や最中、きな粉といった変化はあるものの、メインは小豆の餡菓子である。これしかないことが、若い人たちが和菓子に興味を持たなくなってきている原因ではないかと考えるように。
こんな味もあり、こんな工夫もあるといった目新しい提案、広がりの必要性を痛感し、組み合わせの相手として何がいいのか、候補はいろいろある中から第一弾として、外国から入ってきた洋の素材であるチョコレートと、和の素材である餡をコラボレーションさせることを思い立ち、新しい菓子づくりがスタートする。
「大きいことはいいことだ」と言われた時代もあったが、今は大きい菓子は敬遠され、見た目がかわいいサイズ感がポイント。多少価格が上がっても、美味しくて、小振りで、見た目がかわいくて食べやすい。これが開発のキーワードとなる。チョコレートと一口に言っても、いろんな味のものがあり、チョコレートの味が強すぎると、チョコが勝って中の餡が負けてしまうことから、風味が控え目のチョコレートを探し、国内メーカーのチョコレートを選択する。
商品の形を丸く仕上げるにあたって、これを一つ一つ手作業で行うと不揃いの形になってしまうことから、定量で分割した餡を丸める専用機を導入する必要に迫られる。食品機械の展示会を見に行き、餡を丸める機械がないか探したところ、思い通りの機械が見つかる。しかしながらそれなりの投資になることから、行政の補助金を活用すべく、石川県産業創出支援機構に相談したのが、のちに活性化ファンドに採択されることにつながる。同じ新商品を作るのなら、ある程度の数を売ることを目標に掲げた決断でもあった。
◇来る日も来る日も試行錯誤の連続
それからというもの、日々餡とチョコレートのバランス、甘さ等々を何度も何度も繰り返し作り直し、ようやくこれなら商品として出せると判断できるまでに1年あまりを要する。店頭に並ぶ商品は、6個入りのパッケージに2個ずつ3種類の味が入っている。
小豆餡だけでなく、抹茶餡、五郎島金時餡の3種類を入れることで、味の変化も楽しめる。当初は全て同じ種類にする考えだったが、「手間はかかっても、2個ずつ3種類の味が楽しめるぐらいの味の変化の楽しみがあった方がいい」との社員の声に成る程となり、この詰め合わせに決まる。
容器についても、当初はヨーロッパの高級チョコが入っているような四角い箱に入れてみたが、しっくりいかない。8個入れてみたり、10個入れてみたり、それもいろいろやってみたが、どうもしっくりこない。そんなことを何ヶ月か繰り返したのち、商品が丸いから、容器も丸い方がいいかと、展示会に出掛けてサンプルを取り寄せ、仕切を入れて6個並べた形が最もバランスが良く、見た目もしっくりきたことから、現在のパッケージに決まる。そうした様々な紆余曲折を経て「加賀宝珠」が誕生する。
◇お客様の反応も上々で好調な滑り出し
店頭に商品を並べたところ、「これ何、かわいいね」「チョコレートのお菓子?」「これ越山さんのお菓子なの?」といった、商品を見てのお客さんの反応がよく、それが購買につながり、リピートにつながり、口コミで他のお客さんの来店につながり、と好循環が生まれ、徐々に右肩上がりに伸びてきているとのこと。「新しい切り口の新商品として狙いは外れていなかったかなぁと感じています。」と顔を綻ばす。
商品にとって名前は重要な要素。命名の由来を伺うと、「この新商品が自分の中で、うちの商品の一つの宝にならないかという思いと、見かけが丸く真珠の形に似ていることを掛け合わせた何かいい名前がないか、広辞苑やお茶の本を見直していた中で、そのものずばりの名前はなかったものの、「宝」と「珠」の二文字が目に止まり、宝の珠で宝珠(ほうじゅ)、それに加賀を冠して「加賀宝珠」に決めた。」と振り返る。
初年度はホワイトチョコのものを、2年目は、ギフト需要を視野にカカオチョコのものを追加発売し、2個セットの商品も開発。これまでに2万箱あまり売れ、今年のバレンタイン商戦では、東京の百貨店の企画で加賀宝珠が販売されることが決まり、徳山社長は反響に期待を寄せる。発売当初は想定していなかったが、結婚式の引き出物にも使われるようになってきている。
「加賀宝珠」を手にする徳山社長
◇次代へ受け継ぐ越山甘清堂の味
「お客様が越山甘清堂に何を求めているか、それを客観的に考え、その思いを裏切らないモノづくりをしていく。金沢の歴史、文化を大切にした金沢らしいモノづくり、お客様が抱いている思いを大切にしながら、少しだけオシャレ、少し洋風だけど美味しいといった、プラスαの評価をお客様に付け足していただけるように歩んでいきたい。」と力を込める。
その言葉の裏には、長男が4年前に東京の製菓学校を卒業して入社し、現在は専務として経験を積んでいるところであり、父子が力を合わせて、令和の時代をしっかりと乗り切っていける越山丸の基礎固めに余念がない。長男は職人としてモノづくりの面、作り手の目線から会社のあり方を再考し、徳山社長は営業面から会社全体を見ながら、二人で知恵を絞りながら、次代へのバトンを長男に渡すべく、6代目としての総仕上げと心する。その時代、時代を生きる人々に喜んでもらえる越山甘清堂の味を追求する父子の旅は、いま始まったばかり。
◇会社概要
・商 号 株式会社越山商店(越山甘清堂)
・代 表 徳山康彦
・〒920-0855 金沢市武蔵町13-17
・TEL (076)221-0366
・URL http://www.koshiyamakanseido.jp/