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特殊な焙煎技術で商品化した
日本の棒茶の美味しさ、魅力を海外市場へ ~ 加賀建設株式会社
<令和4年度 いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド採択事業>
◇事業名
石川県で生まれた特殊な焙煎技術による棒ほうじ茶の海外展開事業
◇商品名
金棒茶 SHUN
◇キャッチコピー
あなたの一日を整える一杯
◇開発の経緯
2008年に社長に就任した鶴山雄一氏は、少子化が進む世の中にあって、自らが育った金石地区に活気がなくなってくことに強い危機感を抱き、次代につなげていくビジネス展開が、自社に課せられた責務と捉え、事業の多角化を模索し始める。そんな折、東京で活躍する石川出身の建築家と知り合い、一緒に新しい取り組みができないか意見交換していた。偶然にもそんなタイミングで、一人の女性が人の集まる喫茶店をやりたいと、金石地区で候補地を探していた中で、同社が所有するかつての船小屋を気に入る。その船小屋をカフェにリノベ―ジョンしたことが、これまでの一連の事業展開の端緒となる。いざオープンするとそこに人が集まり、賑わいが生まれ、街に元気が戻ってきたと感じた同社は、さらに集客力のある施設を作ろうと考え、本社横の小さな丘を活用した「コッコレかないわ」を誕生させる。建築家とのやりとりの中で、金石は昔から漁師町で、海から戻ってくる漁師たちを迎える温かい味噌汁は美味しそうだと盛り上がり、漁師のお母さんが作る温かい味噌汁をコンセプトに、味噌汁食堂「そらみそ」をオープン。飲食はこれまで手掛けたことはなく、試行錯誤しながら、県内の料理研究家の協力も得て、地元にこだわったコミュニテイー作りが進展する。
◇人のご縁で、特殊な焙煎方法に辿り着く
地域の特徴や特性を活かしながら、いかにして他との差別化を図り、国内はもとより海外の人たちが求めている価値観を提供していくか、そうしたコンセプトで方向性を模索していた中から萌芽したのが、第二弾となる棒茶事業である。鶴山社長は金沢青年会議所時代に、アジアのリーダーが金沢に集まる国際会議の事務局を何度も経験する。そんな中で、海外出張の際に日本茶を飲む機会がたびたびあった。実家が130年近くお茶の商いをしていることから、日々棒ほうじ茶が食卓にあるのが当たり前の環境で育ったため、海外で飲む日本茶が美味しくないことが残念だった。苦くて美味しくないお茶よりも、甘みがあって体にいい棒ほうじ茶なら海外の人にも受け入れてもらえるのではないかと閃く。金沢青年会議所時代に、大学生とメンバー企業が海外展開事業を研究する勉強会を立ち上げた。その中にいた県立大学の学生から、棒ほうじ茶を研究している榎本俊樹教授を紹介され、早速会いに行ったところ、特殊な焙煎方法を開発した石川県工業試験場の笹木哲也氏を紹介される。誰もやっていない特殊な焙煎方法に可能性を感じ、2018年から本格的に取り組みがスタートする。
◇日本一の茶農園との出会いで商品化へ
日本には696の青年会議所があり、その中で出会った福岡青年会議所の人に、棒茶を海外展開したい旨を話したところ、実家が鹿児島に持っている山では、日本でここにしかない珍しい碾茶(抹茶の原料)を生産しているとのこと。しかも、世界的なコーヒーチェーンやアイスクリームチェーンに、抹茶を日本で最も提供している茶農園で、農薬無使用のオーガニックの茶畑、循環型の環境負荷の少ない栽培方法が評価され、レインフォレストアライアンス認証並びに有機JAS認証を日本で唯一取得している農園だと分かる。産地では、不要な部分として破棄されている碾茶の茎部分を活用し、石川県工業試験場の笹木氏が開発した独自の焙煎技術にて、商品化に向けての研究を重ねた結果、オリジナリティ溢れる新しいお茶、金棒茶「SHUN」を産み出すことに成功する。棒茶本来のみずみずしさを損なわずに香りを閉じ込めるこだわりの焙煎方法で、リラックス効果の高い成分を多く含む特別な棒茶が仕上がる。
◇マーケットインの事業展開
2019年6月に発表された政府の骨太の方針・農林水産省の項目の中に、海外の消費者のニーズに合った農林水産物を作るマーケットインの発想での市場開拓が明記されていたのが鶴山社長の目に止まる。まさに棒茶事業の海外展開にはマーケットインの発想が不可欠と考えていた。自分たちが有する武器はオーガニックであり、その市場はどこかと世界を見渡すと、フランスを中心としたEUとアメリカ西海岸にオーガニックの需要があり、なおかつ環境やSDGsにも関心が高い。そこをターゲットとした事業展開を、2020年3月にスタートした矢先にコロナ禍になる。渡航できなくなり、やむなくジェトロ主催のオンライン商談会に参加したが、全く反応がないことから、何が足りないのか問題点を洗い出してみると、取引条件のチェック項目にあてはまるものがその時点では何もなかった。食の安全・安心に不可欠な食品安全マネジメントシステムFSSC22000の取得が必須であることを知り、いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンドを活用して認証を取得する。チェックボックスにチェックが付けられる項目を少しずつ増やすことで、商談件数も増え始め、コロナ禍でも希望の兆しが見え始める。コロナ禍が明けた令和5年には、フランス、ドイツ、アメリカで開催された展示商談会に参加し、現地の人たちにお茶を飲んでもらい反応が分かるようになり、売上も徐々に伸びてきている。「想定外のコロナ禍があったため、スタート時に描いたロードマップには到達できていませんが、ようやくまとまったオーダーが入るようになり、エンジンがかかり始めたところです。令和6年にはアメリカにある日系スーパー『マルイチ』に金棒茶が採用されたのが大きかった。」と鶴山社長は顔をほころばす。
◇海外展開における課題
世界的なコーヒーチェーンが、コーヒーや紅茶が茶色なのに対し、抹茶の緑色は自然のイメージがあり、色の違いで商品を棲み分けられることから、抹茶をラテなどに使用し、抹茶という言葉が市民権を得て、海外で抹茶の人気が高まっている。その一方で、茶色の棒茶はなかなか好んで飲まれないことが課題。これまで市場になく、知られていない商品を誰も選ばないことから、いかにして金棒茶を認知してもらうか、現時点での最善の方法は試飲してもらうことに尽きる。棒茶はカフェインレスで、子供からお年寄りまで安心して飲んでもらえること、体にいい栄養素が豊富なことなど、いわゆる効能を並べてもなかなか手に取ってもらえない現実がある。アメリカのスーパーで商品棚の半分以上をハーブティーが占めていることから、いろんなハーブとブレンドした商品も検討している。国内では、ノベルティー的に一杯ずつのパッケージ商品をOEM展開し、地元はもちろん、都内の有名ホテルの客室や豪華客船の客室に置いてもらい、飲んだ人たちの口コミや購買行動が広がることで、認知度アップにつながることを期待している。
◇次なる事業展開の芽生え
日本には、海外から日本人の好むお酒や食品を輸入する大手商社はあるが、日本各地にある規模は小さいものの、他にない素晴らしい商品、日本の宝とも言える魅力ある商品を海外市場へ紹介し、輸出ビジネスをサポートする商社が全くない。そうしたことから、金棒茶の海外市場開拓を自ら経験し、課題や問題点も理解し、海外市場で自社商品を販売するために何が必要か、身を以って学んだ鶴山社長は、自社商品を海外へ輸出したくても手法が分からない中小企業に対して、新たな一歩を踏み出すチャンスを提供すべく、自社の金棒茶と同様に海外の展示商談会へ持って行き、新たな海外ビジネスにつなげていく商社的な役割を果たす事業を、次なる柱に育てていく考えだ。この事業のスタート時点では、海外の人たちが金棒茶を飲む様々なシーンを想定しながらの商品づくり、市場開拓に邁進してきていたが、気が付くと日本のいいものを海外の市場へ輸出する商社機能の確立までも視野に入る状況に昇華してきている。足元である金石地区の活性化からスタートした次代へつなぐビジネス展開は、ここへきて一気にステップアップすると共に、目に見えて成果が出てきていることに笑顔を見せつつも、改めて兜の緒を締める鶴山社長である。
◇事業者概要
・商 号 加賀建設株式会社
・代表者 代表取締役社長 鶴山 雄一 下谷内 充
・本 社 金沢市金石西1丁目2番10号
・TEL 076-267-1161
・URL https://shun-tenriverside.jp