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加賀友禅の絵柄をデジタルデータ化することで、伝統工芸の技術を次代につなぐ ~ 有限会社野ばら
<令和3年度 いしかわ中小企業チャレンジ支援ファンド採択事業>
◇事業名
加賀友禅でデザインしたオリジナルオーダードレスブランド
「NY-asanoha」 の開発・販路開拓事業
◇商品名
オリジナルオーダードレス「NY-asanoha」
◇開発の経緯
七尾市内で27年あまり婦人服のブティックを経営していた野竹夏子さん。いつか地元・七尾市庵町で商いをしたいと思い続けていたことから、新たな人生を歩もうと一念発起し、庵町の海に面した自宅をリノベーション。地元の新鮮な食材で宿泊客をもてなす「お宿つむぎ庵」を平成20年に開業する。
これまでのブティックの常連客のために、つむぎ庵の一角で洋服や着物、バッグなどの販売も継続。近年、着物を着る人が少なくなり加賀友禅の業界が厳しい状況で、若手作家を育てるのが難しくなりつつあることを耳にし、婦人服販売に長く携わり、自らデザイン画も描いていた野竹さんの血が騒ぐ。
加賀友禅の着物は高価格なため、買いづらいことから、加賀友禅の作家が描いた絵柄をドレスにプリントすることで、現代の日常生活で着る洋服でも加賀友禅の魅力を発信でき、なおかつリーズナブルな商品が作れるのではないかと思い立つ。それが軌道に乗れば、加賀友禅の活性化にもつながるとの熱い思いで新たな挑戦がスタートする。
◇商品化への道のり
・作家への原画依頼
行動派の野竹さんは、数人の加賀友禅の作家を訪ね、洋服に合う絵柄のデザインを元に加賀友禅の技法で手描きしてもらうことを依頼する。着物の古典的な柄ではあまりドレスに合わないことから、加賀友禅の作家と何度も打ち合わせをしながらデータの元になる原画を作成する。
・デジタルデータ化に四苦八苦
原画をデジタルデータ化してドレスの生地にプリントすることを考え、地元七尾市内の印刷会社に相談してみたが、手描き友禅の絵柄を鮮明にデジタルデータ化できる技術を持つ会社がなかなか見つからなかった。作家が生地に描いた絵柄を拡大すると、布に描かれているためどうしてもピントがぼやけたようになり、忠実かつ鮮明にデジタル化するのが難しく、あちこちあたって金沢市内でようやく対応できる会社が見つかり、営業担当と微妙な色味の調整を何度も繰り返してデジタルデータ化にこぎつける。
・オーダードレスができるまで
洋服のデザインを決める→絵柄のデータから好きなものを選ぶ→ドレスの生地を決める→採寸→型紙作成→絵柄データをプリント→縫製→試着→微調整→納品と、注文を受けてから商品が出来上がるまで上記の工程を要する。これを野竹さんが一人で飛び回って行っているため、オーダードレスができるまで半年近く要するケースもある。
こうした状況であるため、1点ずつ時間をかけて丁寧に対応する商いにならざるを得ないことから、今は敢えて販路は広げず、常連のお客さんの範囲内で商いを留めている。これまでの積み重ねで、ようやくシステム化の基礎が確立できたことから、今後は短納期化を図り、販路拡大につなげていきたい考えだ。
◇展示会で常連客に作品を披露
コロナ禍の間は、つむぎ庵にお得意客を招いての展示会ができなかったことから、終息が見え始めた令和4年12月に金沢茶屋を会場に、現代ガレ(※)と加賀友禅作品展を企画した。3日間で150名あまりが来場し、加賀友禅ドレスのお披露目会も同時開催して好評を得る。それから1年余り経過した令和6年1月に、つむぎ庵で加賀友禅ドレスの展示会を開催する予定だったが、能登半島地震で中止せざるを得なくなり、6月頃に改めて開催予定している。
(※)現代ガレ
フランスのガラス工芸作家、エミール・ガレの作風を受け継ぐルーマニアの職人によるガラス工芸品
◇ブランド名「NY-asanoha」
「NY-asanoha」の冒頭のNは 野竹、Yは友禅の頭文字。麻の葉「asanoha」は成長が早く丈夫で、まっすぐに伸び、魔除けや厄除けの力があるとされ、昔は子供の産着やおむつなどに使われた。「私も息子が生まれた時に、麻の葉柄の産着を着せて、健康で丈夫に育ってくれることを祈りました。」と述懐する。
人気アニメ「鬼滅の刃」のキャラクター「禰豆子」の着物の柄として広まったことで、若い世代にも知られるようになったことを喜ぶ野竹さん。麻の葉をブランド名にしたことで、自身がデザインした加賀友禅ドレスを着てくれるお客さんにも、同じく健康で、いろんな意味で成長されるようにとの思いを込めている。お宿つむぎ庵の玄関にかかる暖簾にも麻の葉柄がデザインされていて、来客に対しても同様の思いで迎えている。
◇伝統工芸加賀友禅を次代につなぐ
現代の日本において、着物はもはや日常に必要ないと思われ始め、このまま行くとそう遠くない将来、後継者がいなくなって伝統工芸の技法や技術が失われてしまうことを野竹さんは危惧している。
日本を代表する伝統工芸である加賀友禅を未来につなぐためには、新たな商品開発や加賀友禅の新しい見せ方が必要だと感じており、加賀友禅の魅力を少しでもリーズナブルな価格で提供できるモノづくりに挑戦していくことで、加賀友禅の素晴らしさ、貴重さを少しでも多くの若い世代に知ってもらいたいと考えている。
そのため、ドレスだけでなく、加賀友禅の絵柄をプリントしたテーブルセンターやエプロンなどの小物類も商品化している。「加賀友禅の活性化につなげるべく、リーズナブルな価格で販売できる加賀友禅のプリントシリーズの品揃えを充実させていくことで、若い世代に加賀友禅に親しんでもらい、使ってもらいたい。」と熱く語る野竹さんのチャレンジはこれからが本番。
野竹夏子 代表
◇事業所概要
・社 名 有限会社野ばら
・代 表 野竹 夏子
・住 所 七尾市庵町ノ部2番地
・TEL 0767-59-1615
・リンク https://oyado-tsumugian-nanao.com/