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物流倉庫や工場、商業施設等々の大型化により、社員が今どこにいるか、あの商品、あのパレットはどこにあるか、管理部門のモニターで見える化したいとの需要が高まっている。そんな時代のニーズに対応すべく、石川県工業試験場が、屋内の人やモノの位置や動きを見える化する位置検知技術を開発。その技術に着目した(株)管理工学研究所が、人やモノの位置を検知して作業効率アップに資する工場・倉庫向け屋内位置検知システム「どこいっ太 Air」を商品化し、令和3年度のプレミアム石川ブランドに認定される。同社北陸分室の村林弘之室長にお話を伺った。
遡ること4年前、村林室長が石川県工業試験場の技術発表会に出席した際、米沢裕司氏の位置検知技術についての発表を聴講する。それからしばらくして、顧客の繊維企業から工場内で社員が今どこにいるか、その位置が分かるようなシステムが開発できないかとの相談を受ける。その時にその発表を思い出し、位置検知技術の特許を使わせてもらうことに。染色工場内で、若い社員が1階と2階の作業場を走って往復しているのに対し、ベテラン社員はそうしたムダな動きがなく作業効率がいいことから、ベテランの効率のいい動きを見える化することで、作業の効率化を図りたいとのことだった。そこからこの事業がスタートするも、その他の設備投資が優先され、この件は頓挫する。
その後、小松市内にある企業から、屋内での位置検知ができないかとの相談を受け、再スタート。位置を検知するための固定タグと人やモノに付ける移動タグを自社で開発し、工場内での実験を始めると、壁や柱の金属、大型機械の金属に発信器からの電波が反射し、思わぬ方向に返っていくことで、検知位置が大きくずれることが分かる。人間のからだは約70パーセントが水分のため、胸ポケットにタグを入れると、前方向の電波は問題なくキャッチできても、後ろ方向からの電波は人体に吸収され著しく電波強度が弱くなるなど、様々な問題が発生する。それを解決するため、何度も何度も倉庫内をいろんな方向に移動し、AIに繰り返し学習させることで、検知の誤差を徐々に縮め、現在は周囲1メートル以内の精度までに進化。さらに、商品やモノの場合に、場所が分かってもパレットが何十段も山積みになっていると、どのパレットにあるのか分からないとの顧客の要望で、LEDを設置し、目的のモノがあるパレットのLEDが点滅する形に。顧客の工場や倉庫によって、中の壁面の材質や柱の金属、大型機械が設置されているかいないか、そうした要因で、直接電波と間接電波が混線し、電波の強度に大きく影響が出るため、AIの認知能力の成否に直結し、金属が多くある屋内では、AIの学習方法も複雑になるという。こうした学習を繰り返してきたことで、現在ではいくつかの学習パターンが確立され、客先に応じたアドバイスができるまでに。
これまでに、小松市と富山県の企業に導入し、別の県内外の企業との商談が進行中。この商品は、位置を検知することで作業効率を上げることに貢献するものの、このシステムを導入したからと言って、いきなり売上アップには直結しないため、企業としては判断に苦しむところ。現時点では、一部上場の大企業からの引き合いがほとんど。ロボットが必要な商品をピックアップしてくる自動倉庫であっても、ロボットが何かにぶつかって動かなくなる場合があり、ロボットがどこで止まっているかを見える化したいとの依頼も。企業によって導入する課題が千差万別のため、全てオーダーメイドと言っても過言ではない。そのため、3年7月に「どこいっ太Air ベーシック」と「どこいっ太 Air アドバンス」を発売。アドバンスの方は、基幹システムや新たなソフトウエアと連携するためのデータを取り出すAPIを公開し、顧客が自由にソリューションを構築できるという優れもの。屋内のGPSとして、企業の使い方次第で、業績にも大きく貢献する宝に大変身する可能性も。
同社は、1980年代に発売したワープロソフト「桐」や「松」をはじめ、日本語で命名した商品が多い。今回も何をする商品か、一目瞭然に伝わる名前にするべく社内で募った中から「どこいった」という案が出る。人名の「○太」のように、親しみを持ってもらえ、どうしてこの名前?と関心をもってもらうことを目的に、「た」の部分を漢字の「太」にすることで、覚えやすく、話題性と親近感を覚える「どこいっ太 Air」に決まる。
同社の位置検知システムは、同様のシステムの中でも検知精度と導入コストのバランスが一番良い製品。倉庫や工場の規模によって、固定タグ、移動タグの増設個数×単価分だけ加算される明瞭価格。初年度は、5社程度への導入を見込む。「どこいっ太 Air」は、人・モノ・フォークリフト・ロボットなど、移動タグを付ける対象は何でもOK。位置が分かったことで得られる効果が顧客によって異なるため、「その企業の一番欲しい物が手に入るシステムです。」と村林氏は力を込める。例えば、倉庫でピッキングしてくる人の動きを見て、注文の多い商品が離れた場所にあり、移動距離が長いと分かれば、その商品を近くに持ってくることで、作業効率をアップさせることができる。そうした意味で、移動距離も分かるようにして欲しいとの要望もある。
プレミアム石川ブランドに認定され、自社の技術に対する高い評価を得て、社員のモチベーション向上に寄与しただけでなく、補助金や専門家のコンサルが受けられることは大きな魅力。同社は、ソフトウエア技術者の集団であり、裏を返すと営業が不得手な面は否めない。いいものだと評価されてもそれを売る術が分からないため、全国展開するために何が必要なのか、そうしたアドバイスを得られることも、プレミアム石川ブランドに選ばれたことによる大きなメリット。と同時に、新卒採用の際、学生たちにプレミアム石川ブランドに選ばれた製品を作ることができる会社であることもアピールできる。
日本人が日本人のために作ったデータベース「桐」を世の中に送り出して以来、お客様に「これはスゴイ!」と受け止めてもらえる商品開発に邁進している同社。自分たちがスゴイ!と思うもの、お客様からスゴイ!と言っていただけるモノづくりに邁進し、「どこいっ太Air」の検知精度を、現在の半径1メートルの誤差から50cmに精度アップすることが当面の目標。世の中に「スゴイ!を届ける」をキーワードに、同社のフロンティアスピリッツは留まるところを知らない。
村林 弘之 室長
社名 | 株式会社管理工学研究所 |
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本社住所 | 東京都千代田区外神田2-2-2 |
北陸分室住所 | 石川県金沢市本町1-5-2 リファーレ6階 |
TEL | 076-265-4666 |
URL | https://www.kthree.co.jp/ |