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モノづくりの原点でもある金属パーツを加工するワークの工程において、創業以来、つかむ技(チャック)・まわす技(NC円テーブル)・支える技(テールストック・振れ止め装置等)の3つの大きな役割を担う自社商品を世に送り出してきているのが、金沢市に本社を構える松本機械工業株式会社である。この3要素の強みを最大限発揮し、自動化・生産性向上に貢献する「Smart Terrace AIOシリーズ」を開発し、令和4年度のプレミアム石川ブランドに認定される。同社の松本要代表取締役社長にお話を伺った。
同社のつかむ技の看板商品であるチャックを旋盤にセットし使用する際、1つのチャックには、3個の爪を6本(各2本)のボルトで固定して使用するが、加工するワークを変更する際、ワークに合った形の爪を使い分けする。これまで爪を交換する時、6本のボルトを人の手で緩めて外し、新たな爪を付けてボルトで締めるという手作業で行う段取り替えに手間がかかっていた。昨今の自動化・効率化のニーズに対応するためには、人の手で交換している作業時間の無駄を省くことが不可欠と考え、ボルトを緩めたり、締めたりする必要がなく、ワンタッチで交換できるチャックを段取りの自動化を睨んで既に製品化していた。コロナ禍になり、受注が減少し始めたことから、何か新しい取り組みをしなければと考え、自社が既に持っている3つの大きな技をロボットと組み合わせて自動化システムに仕上げることを思い立ち、開発がスタートする。コロナ禍の2年間をかけて、全て自社で研究開発し、試作を経て令和4年5月に完成にこぎつける。
かつては、大量生産、大量消費の時代だったが、バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍を経て、世の中は変種変量生産に大きくシフトしてきている。そうしたニーズに柔軟に対応できる作業システムの確立が不可欠。大量生産に対応した自動化はいくらでもあったが、変種変量に対応できる自動化はまだほとんどないことに着目。1日の作業時間の中で、何種類もの製品を注文数だけ生産することが求められる状況になってきていることから、自社で既に開発していた段取りを素早く交換するチャックをシステム化して世の中に送り出すことで、顧客が求めている自動化・省力化・効率化に貢献する製品ができる。自動化に対応できる人材やノウハウはある程度育ってきていたものの、自動化における制御技術に関しては弱かったことから、新たに専門人材を採用することで、足りない部分は補完して取り組んだという。
変種変量生産を行う場合、ワークが変わるたびに段取り替えをしなければならない上に、この作業を人の手でやっていると大幅な時間のロスが生まれる。この段取り替えをロボットアームで自動化したことが、このシステムの大きな特徴。これによって、人のいない夜間にも稼働させることができ、24時間稼働の工場も可能となる。人手不足、コスト高、燃料高、原材料高等々に苦しむ顧客企業の課題解決に貢献したいとの熱い思いがこのシステム開発に込められている。
このシステムの主な特徴は以下の通り。
・ワーク交換からチャック爪交換までを自動化
・後付け設置可能
・機械ソフト(ラダー)変更不要
・ロボットI/F不要
・自動運転中にワークの出し入れ可能
・ワーク1個から異種混合流しが可能
・FANUC、OSP、MAZATROL、DMG森、三菱、ブラザーの機械に対応
・69種類204個のオプションから組み合わせが可能
・顧客のワークに合ったチャッキングを提案
・設計から据え付けまで、松本機械1社で対応
Smart Terrace AIOシリーズ
プログラムされたワークに必要な部材をスタート位置にあるストッカーに人が並べて準備さえすれば、あとはロボットが自動で工程をこなし、完成した製品が順番に棚に出来上がっていくという優れもの。
将来的には、ストッカーに部材を入れる工程も、倉庫から無人搬送車(AGV)が部材を運んできてストッカーに入れると、加工する部材が自動で工場のラインを流れ、必要な加工を施され、最終的な製品になって完成品が並ぶテラスに順次置かれていくという無人かつ自動の工場に進化させていくことを目指している。Smart Terrace AIOはパッケージシステムで1300万円~と高価だがメリットも多く、既に数件の受注及び多くの引き合いがきているとのこと。大量生産は、同じものを大量に作ることでコストダウンできたが、変種変量生産では、価格を上げないと部材の原価はもとより生産に係るコストが全て上昇しているため採算が合わなくなる。その点、このシステムを導入すれば、変種変量であっても、無駄な手間を省いて高効率に生産することによって、他社ではやれない仕事を集めてくることもでき、価格を上げずに維持することも不可能ではない。これにより、ひいては顧客企業の競争力アップにも貢献できる。創業以来積み重ねてきた松本機械工業の英知とノウハウ、技術力を結集させたシステムだけに、従来までの機械メーカーだけでなく、部品加工メーカーも顧客になることから、販売先がより広がることにもつながる。
JIMTOF2022同社ブース
●常に時代の一歩先を見据えて邁進
スマートテラスと命名したのには、このテラスの中に顧客企業が求めるいろんな機能を入れ込み、オーダーメイドのニーズにきめ細かく対応したオールインワンのシステムにしていくとの思いが込められている。時代の変化が目まぐるしく、世界がつながっている時代にあって、いかに他にない強みを持った製品を開発し、世の中に送り出していくか、様々な環境要因を勘案しながら、激変する荒波を乗り越えていく経営者の熾烈な闘いを目の当たりにする思いである。2023年は創業75周年の節目を迎える。長引く円安下のため、燃料高、原材料高等々あらゆるコストが上昇し、人手不足も深刻な環境がまだまだ続くことが想定されるだけに、新時代を切り拓く切り札として、スマートテラスが同社躍進の鍵を握ると言っても過言ではない。
松本 要社長 本社外観
社名 |
松本機械工業株式会社 |
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本社住所 |
金沢市示野町ニ80番地 |
TEL | 076-267-3211 |
URL | https://mmkchuck.com |