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昭和63年の創業以来、東森木材株式会社は、建築物に使われる木材販売業者として地元に根付いた商いに邁進。平成28年に新分野開拓を目指して導入したレーザー彫刻加工機にて、試行錯誤の末に新商品「のとひばこ」を開発し、令和元年度のプレミアム石川ブランドに選ばれた。新分野開拓に腐心された同社の街道登社長ならびに西島孝主任に開発ストーリーを伺った。
東森木材株式会社は、地元の木材卸会社に勤めていた街道社長の父親が、昭和63年に独立創業。以来、地元の公共施設、神社仏閣、一般住宅用の木材を地域の建築関連業者に納入し、堅実な商いでその地位を築く。数年前から、街道社長は、何か新しい事業分野を開拓できないか思いを巡らす日々を送っていた。そんな中で、何か新しい方向性が探れるのではないかと考え、西島氏を名古屋で開かれていた木工機械展に視察に行かせる。会場をくまなく回った中から、レーザーで木材に加工を施している企業があったとの報告を受け、同社もレーザー彫刻加工機の可能性に賭け、導入を決断する。レーザー彫刻加工機で何ができるかと言えば、看板、表札、案内板、小さなものでは木製のアクセサリー、木製食器に名前を彫るなどの加工である。これにより、従来は捨てていた端材を有効利用できるという点では有意義ではあるが、装置の償却を考えると、収益性が低く、更なる活路、高付加価値商品を開発する必要性を痛感し始める。
レーザー彫刻加工機 従来の表札などの商品 レーザー切断風景
新事業のヒントを求め藁をも掴む思いで、街道社長は東京で開催されていたインターナショナル・ギフト・ショーで市場調査を行なった。その時に目に止まったのが、昔からある手仕事の一つである、色とりどりの厚紙を何枚も重ねて奥行き感をもたせた立体の切り絵だった。「それを見た時に、木材の端材を薄くスライスし、それを重ねることで、同じようなものができるのではないかと閃いた。」と街道社長は振り返る。会社に戻り、早速薄くスライスした木材を貼り合わせることを試みるが、なかなか反り返ってうまく接着できなかった。木材の間に和紙やプラスチックを入れてみるなど、とにかく数え切れないほどの試行錯誤を繰り返した。結果、厚さがわずか1.5mmで5層構造になっている非常に薄い木材の素材を開発した。ただ薄いだけではレーザーで切断した際に折れたり、焼きつけると燃えてしまうため5層構造とした。こうして何とか材料となる板が出来上がった。
次は、金沢市内の有名観光スポットに行き、写真を何枚も撮影し、それを新たに導入した画像処理ソフトを用いて階層ごとに切り分ける作業になるのだが、西島氏はハタと手が止まってしまう。なぜならこの先の作業は経験したことがなく「これは何をどうすればいいのか全く分からなかった。」とお手上げ状態に。それを見かねた街道社長が「画像処理の専門知識を持った社員を入れないとダメだなぁ。」と、新たにスタッフを一人採用する。
5層からなる板材 5階層に別れる作品 画像処理の作業風景
撮影した画像データを画像処理ソフトで5層~7層に切り分け、そのデータをレーザー加工機に送ると、各層毎にきれいに切り分けたパーツが出来上がる。そのパーツを能登ヒバの端材で組み立てた木枠の中に緩衝剤で挟みながら、順番に重ねはめ込むと、なんと立体感溢れる風景が完成する。金沢駅の鼓門を写真どおりに縮尺し、それをレーザーで切断して組み立ててみたが、圧倒的な迫力が薄れてしまったため実際よりも柱を太くしたり、上部の屋根部分の縮尺を微調整したりと、何度も何度も修正し、ようやく納得できる仕上がりになったという。金沢で人気のある東茶屋街の風景も同様で、趣を表現するために細部までこだわった。
5層の板材が重ねられている ひがし茶屋街の「のとひばこ」
どんなにいい商品でも販路がないと売ることができない。そこでまず金沢市内の観光土産品を扱う施設に「のとひばこ」を置いてもらえないか打診するも出店料が高く採算が合わず断念。そこで紹介された市内の漆器店に相談に行ったところ、「のとひばこ」の商品性が高く評価され、店の一角に置いてもらえることに。さらに市内の金箔を扱う店に行くと、ここでも気に入られ、金箔の加飾を施した形での販売につながった。現在、雑貨を扱う神戸の商社と商談中とのことで、「どのくらい引き合いがあるか、確認するのが正直どきどきものです。」と街道社長は本音を吐露する。
尾山神社神門(右) 金箔加飾された商品
百聞は一見に如かずの言葉どおり、文章ではとてもこの商品の魅力、素晴らしさを表現できないが、もし同じものを手作業で作れる人がいたら人間国宝レベルの技。それをレーザー彫刻加工機が見事に繊細かつ大胆なタッチで表現し、見る者に感動すら与える。その仕上がりと、新分野にチャレンジした努力が高く評価され、令和元年度のプレミアム石川ブランドに認定される。「県からのお墨付きをいただいた商品なので、商談でも営業しやすい。また、県外の展示会などへの出展もサポートしていただけるなど、大変ありがたく感謝しています。」と街道社長から笑顔がこぼれる。
作業風景 金沢駅鼓門の製作工程
観光土産品として手軽に買える価格帯は3千円を一つの壁として考え、修学旅行生がお小遣いでも買える2千円台の廉価版も製作。これは自分で組み立てられ、場所を取らずコンパクトであることから、観光客マインドを的確に捉えている。能登ヒバの木枠に入り、アクリルケースに納められた高額商品は、インバウンドの観光客をターゲットとしており、価格は1万1千円~。「金沢港に豪華客船が入港した際、「のとひばこ」を販売したところ、思った以上の売れ行きだった。購入したアメリカ人から帰国後に追加注文もありました。」と街道社長は嬉しそうに語る。外国人富裕層には全く問題のない価格帯のようだ。
廉価版「のとひばこ」 能登ヒバの枠材
少しずつ販路も広がってきたことから、さらにもう1台レーザー彫刻加工機を導入すべく、専用の作業スペースを増設。納期遅れを生じさせずにスムーズに対応できるよう先行投資も怠らない。ありそうでなかった商品、人の手ではとても作れない商品、写真とは全く異なる日本人の琴線に触れる見事な出来映えの商品、格子越しに見える人影にまでこだわった繊細な作り込み、是非現物を手にとっていただきたい。「看板にレーザーで文字を彫っていても売上に限界があったが、これだけの高付加価値商品を生み出したことで、これからの広がり、可能性が楽しみです。」とお二人の笑顔が取材を結ぶ。持ち前の旺盛な探求心・好奇心に磨きをかけ、世間をあっと言わせる夢のある商品を世に送り出してもらいたい。
西島主任 街道社長
社名 | 東森木材 株式会社 |
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設立 | 2018年 |
代表者 | 街道 登 |
住所 | 石川県金沢市湊1-67 |
TEL | 076-237-1213 |
URL | http://toushinm.com/ |