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見城亭(けんじょうてい)がひがし茶屋街の「懐華樓(かいかろう)」で開催している外国人旅行者向けのイベントが好評だ。芸妓の踊りを鑑賞したり、お座敷太鼓を体験したりできる上、解説もすべて英語で行われるとあって人気を集め、平成28年には春と秋に38回開催し、約2,000人が参加した。回を重ねるごとに運営方法を見直すなど、試行錯誤しながら満足度向上に努めている。
懐華樓は約200年前に建てられた、金沢で一番大きな茶屋建築である。今でも夜は華やかにお座敷が上げられるほか、昼間は観光客に内部を公開し、茶屋文化を紹介している。
この懐華樓で外国人旅行者を対象に開催されているのが「Geisha Evenings in Kanazawa」と銘打たれたイベントだ。海外からの旅行者が増える時期に合わせ、春は3月から4月にかけて、秋は10月から11月にかけて、基本的に毎週月・水・金曜の午後6時から1時間の日程で開催している。
女将の馬場華幸(はなこ)さんによる英語の解説を交えながら、芸妓による踊りのほか、太鼓や「こんぴらふねふね」などのお座敷遊びを楽しめる内容で、芸妓と一緒に写真を撮ることもできる。
料金は席に応じて4段階に分かれている。最も高いのはステージの目の前に座れる座イス席で7,500円、最も安いのは後方にある立ち見席で3,500円だ。座って鑑賞できるのは53席だが、多い時には立ち見も含め、80人以上が来場し、「日本に来て一番楽しかった」「夢の世界に来たようだ」といった喜びの声が寄せられている。
好評を受け、今年4月の前半は月曜から金曜にわたって開催する。
イベント開催のきっかけは「日本を訪れたからには、ゲイシャを見てみたい」という外国人旅行者の要望だった。金沢には三つの茶屋街があるが「一見さんお断り」の商習慣があり、実際にお座敷遊びを体験できる機会は少ない。茶屋を経営している上、英語で日常会話ができることもあって、何とか外国人旅行者にも芸妓と触れ合えるチャンスを作りたいと考えたのが馬場さんだった。平成26年秋に「金沢芸妓とお茶屋見学の夕べ」と名付けたイベントを開催し、約40人の外国人が芸妓の踊りなどを堪能した。
イベントそのものは好評を得たが、自分たちだけで継続して実施していくには、外国人向けに情報を発信したり、旅行者が利用しやすい予約の仕組みを作ったりすることが必要で、負担も重い。そこで、懐華樓では活性化ファンド助成金を活用。ホームページやチラシ制作などでは外国人向け無料英語情報誌「eye on(アイオン)Kanazawa」を発行するデザイン会社、アーテックス(金沢市)と連携することにした。情報発信の体制を整えた後、本格的にスタートさせるために、平成27年秋からイベント名も改めた。
本格スタートに当たっては、平成26年秋のイベントに参加した外国人などの声を参考に運営を見直したほか、回を重ねるごとに改善を続け、満足度向上につなげている。
例えば、当初は畳に座布団を並べただけだったが、「座りにくい」との声に考慮し、座イスや背もたれ付きのイスを用意。料金についてはステージに近い席も遠い席も一律に設定していたが、見やすさに応じて4段階にランク分けした。この春からは、最も見やすい席のサービスを見直し、行列に並ばなくても優先的に入場でき、呈茶サービスを受けられるようにする。
また、馬場さんは当初、マイクを使わず解説していたが、後方の席でも聞き取りやすいように、マイクやスピーカーといった音響設備をそろえた。
さらに、当初は金沢に到着してから予約する、あるいは予約せずに訪れる旅行者を想定していたが、「来日前に予約しておきたい」との要望が多かったことから、ホームページを完備し、ウェブ上で予約を可能にした。昨年の秋からは予約時にクレジットカードで決済できるようにし、その際、500円を割り引くサービスも始めた。その結果、約30%の旅行者がウェブ予約を利用した。
集客に向けては8,000枚のチラシを制作し、JR金沢駅や県内のホテル・旅館のほか、外国人に人気の飲食店や観光施設などに置いた。外国人旅行者は広域観光を楽しむケースが多いことから、東京や長野および高山の駅やホテル・旅館などでもチラシを入手できるようにした。通訳案内士から勧められて参加する旅行者も多い。
また、回を重ねるにつれて有力な情報拡散ツールとなっているのが、インスタグラム(写真共有アプリ)などのSNSである。イベントに参加した旅行者が芸妓と一緒に撮影した写真や体験した内容、感想をSNSで発信。それが友人・知人に広まり、さらにその友人・知人といった具合にどんどん広まっていくことで認知度がアップするのだ。その影響は大きく、例えば、イスラエルで人気の有名人がイベントに参加し、その様子をフェイスブックに投稿したところ、イスラエルからの参加者がどっと増えたという。
懐華樓では平成21年に発刊されたミシュラン観光版で一つ星を獲得して以降、外国人客が急増。北陸新幹線開業後はさらにその傾向に拍車がかかり、昨年は1 日の入館者500人のうち日本人が十数人しかいない日もあったほどだ。
「開演を待つ外国人旅行者の目は期待でキラキラと輝いています。その期待にしっかりと応え、日本旅行のハイライトとして笑顔でお帰りいただけるようにしたいと思っています」。馬場さんはそう話し、懐華樓ならではのイベントを定着、浸透させていくため、「そのクオリティーをさらに高めていきたい」と意欲を燃やしている。
企業名 | 株式会社 見城亭 |
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創業・設立 | 設立 昭和33年12月 |
事業内容 | 料理店、茶屋の経営 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.92より抜粋 |
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掲載号 | vol.92 |