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川北町産の大麦や白山の伏流水で地ビールを製造するわくわく手づくりファーム川北。ビール造りにはあまり使われない六条大麦やコシヒカリを取り入れた独自の商品開発に力を入れ、JR金沢駅構内の売店や北陸新幹線の車内で販売されるなど、右肩上がりで売り上げを伸ばしてきた。一方で国内のビール市場が縮小傾向にあることから、将来を見据えて東南アジアや北米にも販路を広げようと取り組みを本格化させている。
わくわく手づくりファーム川北が海外進出に向けてアクセルを踏み始めたのは平成26年のことだ。この年、ISICOの活性化ファンドの助成金を活用してシンガポールにある日本の商品を専門に扱うアンテナショップでの試飲会や展示会にビールを出品するとともに、今年1月には同国の超高級会員制クラブ「タングリンクラブ」において県産食材を使った料理を食べてもらう「石川フェア」にもビールを提供し、どちらも好感触を得た。平成27年には卸・小売店のバイヤーや商社を招いて県が開いたマッチング事業を通じて、香港の高級スーパーへの輸出をスタートしたほか、独自の営業活動によって台湾企業との取引も成約した。
売り先はアジアにとどまらない。今年7月にはアメリカ・ロサンゼルスの卸会社と輸入代理店契約を締結。来年早々には現地の日本料理店や中国料理店でお披露目会を開き、その後、販売を本格化させる計画だ。
こうした動きに先立って同社では瓶ビールのラベルを高級感あふれるデザインにリニューアルしたほか、海外との取引をスムーズに進めるため、5カ国語に堪能な社員を採用した。また、現在常温で8カ月間の賞味期限を、殺菌方法を工夫して1年間に延ばせるよう取り組んでいる。ドローンを飛ばして麦畑などを撮影したPR動画も制作中だ。
同社のビールはここ5年で10倍以上と爆発的に売り上げを伸ばしているが、国内では人口減少や若者のビール離れが進んでいることから、入口博志社長は「次世代の経営を見据え、今のうちに海外展開の布石を打っておきたい」と話し、今後は販路開拓と合わせて海外販売用の新商品開発にも取り組む考えだ。
同社が現在、海外で販売しているのは「金沢百万石ビール」と「グランアグリ・小麦のビール」だ。
金沢百万石ビールは活性化ファンドの助成金を受けて開発した商品で、フルーティーな味わいの「ペールエール」、黒ビールの「ダークエール」、川北産コシヒカリを副原料にした「コシヒカリエール」の3種類がある。いずれも川北産の六条大麦を使った点が特徴で、アミノ酸の一種で血圧降下作用や抗酸化作用、リラックス作用のあるギャバを多く含んでいる。
六条大麦はビールの原料として一般的な二条大麦に比べ、ギャバの含有量は多いが、渋みがある上、粘り気があって濾過(ろか)しにくいためにあまり用いられない。そこで同社では石川県立大学や県農業総合研究センター、県工業試験場と連携して、ギャバの成分を増やし、おいしいビールに仕上げる生産技術を確立した。
グランアグリ・小麦のビールは小松産の小麦と地元産の六条大麦を主原料としたビールだ。軽い飲み口とバナナのような甘い香り、クリーミーな泡が特徴で、シンガポールでもおいしいと高く評価された。
入口社長は「原料からメード・イン・ジャパンにこだわっているビールは珍しい」と話し、今後の海外での拡販に自信を見せている。
ところで、国内では金沢百万石ビールが年間40万缶、グランアグリ・小麦のビールが年間20万缶を売り上げる人気商品となっている。その背景にあるのは入口社長の開発戦略だ。
「最初に造ったビールは味には自信があったのですが、思ったように売れませんでした。そこで、最初から売り先を想定し、そこで売れるような商品を開発することにしました」(入口社長)。
例えば、金沢百万石ビールについては、北陸新幹線開業で増加が見込まれる観光客をターゲットとし、金沢駅構内にある売店で取り扱ってもらうことを目指した。そのため、商品名やパッケージデザインも駅で売ることを前提に金沢らしさを意識して開発し、JR西日本の関連会社に直接売り込んだ。入口社長は「慣れない営業にはプレッシャーを感じましたが、経営が苦しかったので、とにかく必死でした」と振り返る。また、わくわく手づくりファーム川北ではそれまで、瓶ビール用の設備しかなかったが、瓶では重く、割れやすいため、缶ビール用の充てん機を中古で導入した。
グランアグリ・小麦のビールについては、北陸新幹線の車内で売ってもらえるように企画した商品だ。北陸新幹線の車両をイメージした色合いのパッケージを採用し、車内販売を手がけるJR東日本の関連会社に営業をかけた。「車内販売への採用が決まったのは開業1週間前のことでした。その知らせを聞いたときは本当にうれしくて、鳥肌が立ちました」と入口社長は当時を振り返る。
今年3月にはJR東京駅にある日本一駅弁が売れるとされる「駅弁屋 祭(まつり)」でも石川県の形や雪づりをモチーフにデザインしたオリジナルパッケージのビールを販売している。
販路の拡大に伴って急激に売り上げが伸びたため、昨年9月には新たに4基の醸造用タンクを増設し、これによって従来の約1.4倍となる年間240キロリットルの生産が可能となった。
それでも設備はフル稼働の状態が続いており、現在チャレンジしている海外展開がうまくいけば、さらに生産能力を引き上げるための増設を検討する。
入口社長が今後、新たな商機と見据えているのが、4年後に迎える東京オリンピックだ。このとき日本を訪れる外国人客に飲んでもらおうと、現在は地元産の六条大麦とハトムギを原料に使ったビールの開発に力を注ぐ。「焙煎したハトムギを使うと香ばしい風味が付き、ルビーロマンのような色合いになるんです」(入口社長)。
個性に磨きをかけ、独自色の強いビール造りを続けるとともに、国内だけでなく海外にも販路を広げる同社の一層の飛躍に期待したい。
企業名 | 有限会社 わくわく手作りファーム川北 |
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創業・設立 | 設立 平成10年3月 |
事業内容 | ビールの製造・販売、農畜産物の生産・加工・販売など |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.89より抜粋 |
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掲載号 | vol.89 |