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野々市市にある約30ヘクタールの田畑で米や野菜を栽培し、平成13年に全国で初めて農業生産法人を株式会社化したことで知られるぶった農産。北陸新幹線開業をビジネスチャンスととらえ、観光客向けの土産として「甘えびせんべい」を開発した。材料を吟味し、本物を追い求めた味わいと、かわいいパッケージが観光客の心をつかみ、金沢の定番土産の一角に食い込むほどの人気を博している。
甘えびせんべいは、自社で特別栽培したコシヒカリに甘えびの粉末を加え、焼きおにぎりのような香ばしさと米の粒が感じられるせんべいで、パリッとした食感が特徴だ。
平成26年11月に販売を開始し、現在では同社本店、自社のオンラインショップだけではなく、金沢駅構内にある金沢百番街「あんと」のテナントや、東京・銀座にある石川県のアンテナショップ「いしかわ百万石物語・江戸本店」のほか、金沢市内の百貨店などで商品を扱っている。また、昨年からはISICOが香林坊大和地下1階で常設する「石川のこだわりショップ かがやき屋本店」でも販売をスタートし、約500アイテムある商品の中で常に上位に食い込む人気ぶりだ。
北陸新幹線開業の追い風を受けながら、金沢百番街「Rinto」で開かれた縁起物市など、ISICOから紹介された県内外のイベントに参加して知名度アップを図ってきた。
こうした取り組みのかいあって、売り上げは好調で、甘えびせんべいは同社の総売上の10%を占めるまでに成長した。
開発のきっかけは、同社の「あんと」へのテナント出店だった。主力商品である米は重いため、お土産には適さない。また、地元客に人気のこんか漬けや漬け物などは常温で扱えない。そこで、「乾き物」「常温保存可能」「軽い」をキーワードに、観光客をターゲットにした新商品の開発に着手した。開発・製造は、取引先の一つで食品の仕入れや加工、卸を手がける株式会社松本(金沢市)の協力を得た。
ぶった農産は、手間暇かけて生産する米はもちろん、加工品も原料や調味料、加工方法などにこだわり、真摯にものづくりに取り組むスタンスが消費者の心をつかんでいる。そのため、今回も「納得できるものづくり」にとことんこだわった。
せんべいは通常、選別の際に出るくず米が使われることも少なくない。しかし、甘えびせんべいでは、市販される最高クラスのコシヒカリをあえて使用した。「せんべいに使う米の品質としては高すぎるのかもしれませんが、お客様に『おいしい』と言っていただきたいと思って採用した」。販売事業部を統轄する佛田和弥さんはそう話し、本物の味でなければお客様にリピートされるほどのインパクトは与えられないと強調する。
同社の主要な購買層は40~50代で、今後の業績の拡大を図るには、20~30代の若い世代を取り込むことが不可欠である。味には自信があるだけに「甘えびせんべいはぶった農産のファンになってもらうための入り口となる商品」と期待しており、いかに手に取ってもらえるかを考え、パッケージのデザインを工夫した。
意識したのは、女性と若者だ。試行錯誤の上、石川県観光PRマスコットキャラクター「ひゃくまんさん」をあしらったほか、金沢駅の鼓門や加賀藩祖・前田利家、甘えびなどのイラストをデフォルメして配置し、観光客らに手に取ってもらえるよう、目立つデザインに仕上げた。特に12枚入りの箱には、金沢の方言の解説を入れたほか、同社の米などの商品を紹介する中敷きを入れてオンラインショップに誘導する仕掛けにした。
若者層を取り込むという面では、平成26年7月から「NoKA」というブランドを新たに立ち上げた。自家栽培米の糠(ぬか)や麹(こうじ)で漬け込んだこんか漬けなどを食べやすくスライスし、1食分ずつ真空パックしたもので、「こんか漬 さば」のほか、「梅干し」「辛子きゅうり」など9種類がある。
パッケージは農産物の加工品というイメージを払拭するシンプルなデザインを採用。また、切ったり、皿に盛ったりする手間がいらず、パックを開ければすぐに食べられる点が好評で、贈答用としても人気が高い。そのコンセプトが注目され、全国で販売されている雑誌で紹介された。2年目の売り上げは2倍以上に伸びるなど順調に推移している。
自社商品の販路として今後、期待をかけているのがオンラインショップだ。甘えびせんべいなどの新商品を気に入った観光客が、自宅で同社のホームページを訪れて米や加工品を購入し、リピーターになっていくという青写真を描く。
オンラインショップを強化するため、昨年春からISICOの専門家派遣制度を利用して、検索エンジン対策に力を入れている。効果的なキーワードをリストアップして登録するとともに、検索数が少ないキーワードは削除するなどの指導を受けた。その結果、例えば「こんか漬」とインターネットで検索すると、ぶった農産のページがトップに表示されるようになるなど、効果は着実に上がっている。
佛田さんは「オンラインショップはまだまだ伸びる余地があると考えている。10年後には4倍に売り上げをアップさせたい」と意気込む。
素材の品質には自信があるだけに、いかに話題性のある新商品を生み出すかに心を砕いている。甘えびせんべいに続き、米を使ってより幅広い消費者に訴求する商品として今春には、加賀棒茶と自社栽培のもち米を使った玄米茶の販売を計画しているほか、さらなる新商品の開発に意欲を燃やしている。
企業名 | 株式会社 ぶった農産 |
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創業・設立 | 設立 昭和63年3月 |
事業内容 | 水稲・野菜等の栽培、水稲の農作業請負、農産物の加工・販売 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.87より抜粋 |
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掲載号 | vol.87 |