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「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(活性化ファンド)」の採択企業、各種展示会の出展企業の商品等にスポットを当てます。
穴水町にある3.4ヘクタールの農園で、主に白ワインの醸造に使われるシャルドネという品種のブドウを栽培しているOkuruSky(オクルスカイ)。このブドウを生かしてイタリアの伝統的な菓子「フィグログ」を商品化したところ、ワインに合うと好調な売れ行きを見せている。右肩上がりのニーズに応えていくため、今夏には加工場を新設する計画だ。
フィグログは乾燥させたイチジクをベースにドライフルーツやナッツを練り込み、棒状に固めた菓子である。日本ではまだなじみが薄いが、イタリアではコーヒーや紅茶に合わせたり、ワインと相性のよいおつまみとして食されている。
オクルスカイが作るフィグログの主役は、ワイン醸造用に栽培したブドウを丸ごと乾燥させたレーズンだ。これに細かく砕いた乾燥イチジクやプルーン、クルミ、能登産赤ワインで煮込んだ能登栗、石川県産のカラスザンショウのハチミツなどを混ぜ合わせ、一つ一つ手作業で型に入れ、成形する。
食べる際は、厚さ5ミリ程度の輪切りにする。食感はねっちりとしていて、かみしめるとドライフルーツの自然な甘さが凝縮した濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。「ワインの最高の伴侶」。同社の村山智一社長はそう言って胸を張る。
平成24年秋から物産展などで販売をスタート。徐々にそのおいしさが認められ、昨年、ISICOが香林坊大和(金沢市)やKITTE(キッテ)(J R東京駅前)で開催した「石川のこだわり商品フェア」に出展した際には、用意していたすべての商品が売り切れる好評ぶりだった。
こうした物産展を通して飲食店関係者や百貨店のバイヤーらの目に留まり、今では、ワインバーなどの飲食店、百貨店、雑貨店などに販路が広がっている。
今でこそ、人気商品に育ったが、まったく知られていない商品だけに、当初は販売にも苦労した。そこで同社では、そのまま食べるだけでなく、チーズや生ハムを組み合わせるとワインによく合うこと、ハチミツをかけるとコーヒーや紅茶のお供にぴったりなことを写真で分かりやすく紹介する説明書を配布するなど、PRに努めた。また、商品について熱心に語ってくれそうな店主がいる店とは積極的に商談を進めた。
作り始めたのは、村山社長が平成24年に人気グルメ漫画「美味しんぼ」で、フィグログについて知ったことがきっかけだった。
「ブドウ畑とワイングラスの間に置きたくなるものを作りたい」。常々そう考えていた村山社長はまず、漫画などに載っていたレシピを参考に試作を開始。食品製造に関するノウハウがなかったため、その後は料理研究家や割烹の板長などからもアドバイスを得ながら改良を加えた。試作や販路開拓、パッケージ開発にはISICOの活性化ファンド助成事業を活用した。
調べてみると、フィグログを生産する会社は国内にいくつかあったが、どこも海外産の原料を使っていた。そこで村山社長は、ブドウはもちろん、他の材料についても能登産、石川県産、国産にこだわった。
今後は、イチジクやプルーンの代わりに能登産のころ柿を使ったフィグログを開発する予定だ。
フィグログの開発と時を同じくして、オクルスカイでは、自社の農園で採れたブドウや野菜のほか、地元産の農産物を活用してワインと相性のよい食品づくりに取り組んでいる。
例えば、クラッカーもそのひとつだ。珠洲の揚浜塩田の塩が使われているほか、無添加レーズンやニンジンなど県産野菜を使ったものもある。
また、ピクルスはキュウリやニンジン、ダイコン、セロリといった能登産の野菜を自家製ワインビネガーといしるなどで味付けした漬け汁に浸している。ほかにも、能登栗の渋皮煮、自社農園産のイチゴで作ったジャム、県産野菜の旨みを生かしたステーキソースなどを商品化している。
フィグログをはじめ、これらの商品は「HITOTSU(ひとつ)」のブランド名で展開しており、今では自社の売り上げの1割を占めるまでに成長した。
フィグログの売り上げは順調に伸びており、例えば、ワインバーで同社のフィグログを食べた人が、その後、穴水まで買いに来ることもある。同社のネットショップでは、個人で10本まとめて購入する人もいる。
現在、月に約500本のフィグログを出荷しているが、最近では生産が追いつかなくなり、欠品することもあるという。
こうした現状を考慮し、同社では今夏、穴水町内でフィグログなど「HITOTSU」ブランドの商品を製造する加工所を新設する。加工所には「いしかわ次世代産業創造ファンド」の補助事業を活用し、乾燥機やオーブンを導入する。こうした設備によって、作業のスピードアップを図ることが可能になり、村山社長は「生産量を3~5倍に引き上げられる」と見込んでいる。
加工場にはカフェとログハウスを併設する。カフェは通常、サンドイッチなどの軽食とワインを楽しめる店として営業し、村山社長は「料理人を招いた食のイベントなども企画したい」と意気込む。ログハウスは3~4棟を建設する計画で、カフェと合わせ、ブドウ畑や能登ワインの醸造所を見学するツアーの拠点としても活用したい考えだ。
同社では現在、生産するブドウの2~3%をフィグログに活用しているが、今年は作付面積を1.5ヘクタール増やすほか、カベルネ、ヤマソーヴィニヨンといった赤ワイン用のブドウやブドウ以外の野菜、果物も栽培して、「HITOTSU」ブランドのラインアップ拡充に生かす予定だ。
「お酒を飲まない人に向けた商品も充実させたい」。村山社長はそう話し、シャルドネをジュースやサイダーにしたり、ブドウやイチジクをそのままドライフルーツにしたりと、新たな商品開発の構想を今日も練り続けている。
企業名 | 株式会社 OkuruSky |
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創業・設立 | 設立 平成2年2月 |
事業内容 | ワイン醸造用ブドウ販売、農産物加工品の製造・販売、体験型観光の企画・運営 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.80より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.80 |