現代はモノ余りの時代と言われる。そんな中で激しい競争を勝ち抜いていくためには、価格はもちろん、独自性や希少性、機能性といった部分で差別化を図ることが重要だ。同時に販売促進に向けては、的確に情報を発信するインターネット戦略も重要性を増す。そこで今回の特集では、県内でもとりわけ過疎化が進んでいる奥能登地区で奮闘し、成果を挙げている経営者やその後継者の商品開発やネット活用術にスポットを当てる。
能登の里山里海で働く人々が使う道具を100年以上にわたって作り続けるふくべ鍛冶。その4代目である干場健太朗さんが活性化ファンドを活用し、地元の鮮魚店と協力して開発したのが「サザエ開け」だ。
これは貝殻の中に針を差し込んで貝柱を切り、サザエの身を取り出すための専用の道具である。ステンレス製の針は貝殻の形状に合わせて絶妙な角度で曲げられており、コツをつかめば、誰でもわずか5秒で肝の部分まできれいに取り出すことができる。従来は市販のスプーンの柄を曲げたものを使って力尽くで引っ張りだしたり、金づちで殻を割ったりすることが多く、どちらのやり方も一つ取り出すのに早くても20秒ほどを要していた。
サザエ開けは平成28年10月に発売し、鮮魚店や料理店、水産加工会社、漁業関係者などに年間100本ほどを販売。平成29年にISICOのネット活用セミナーを受講後、素早く簡単にサザエを取り出す様子を紹介する動画を同社サイトのランディングページ※に組み込んでからは、インターネットを通じた注文が急増している。
※サイト訪問者をダイレクトに注文や問い合わせなどのアクションに結びつけることに特化したページ
大学卒業後、能登町役場に務めていた干場さんは3年前、母親が病に倒れたのを機に道具を通じた地域づくりをしていこうと家業に入った。その後、来店が難しい高齢者のために始めたのが修理の受け付けも兼ねた移動販売だ。3月下旬から11月まで毎週木曜、金曜には町内各地を巡行し、多い時には50件以上の依頼が寄せられる。
サザエ開けのアイデアは移動販売を通じて身を取り出すのを得意にしている鮮魚店と出会ったことがきっかけで、同店と連携し、特殊な形状の道具をさらに改良し、商品化したのだ。干場さんは「これからも能登の知恵を活用して商品開発すると同時に、これを県外に販売することで地元の雇用を増やしていきたい」と話す。 また、地元以外からもニーズを取り込もうと今年4月からはオンライン上で包丁修理の受け付けをスタートする。注文があれば専用の梱包箱を送付し、これに包丁を入れて送りかえしてもらい修理する仕組みで、3本以上の注文があれば1本1,000円(送料込み)で対応する予定だ。まずは包丁から始め、仕組みが確立すれば、対象を他の道具にも広げていく。
こうして干場さんが修理に力を入れるのは「長く大事に道具を使うお客様とつながるための間口を広げ、ふくべ鍛冶のファンを増やしたい」と考えているからだ。モノがあふれる時代にあって、昔ながらの鍛冶店が存在感を発揮するため、4代目の挑戦が続いている。
企業名 | ふくべ鍛冶 |
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創業・設立 | 創業 明治41年 |
事業内容 | 金物製造販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.99 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.99より抜粋 |
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掲載号 | vol.99 |