本文
現代はモノ余りの時代と言われる。そんな中で激しい競争を勝ち抜いていくためには、価格はもちろん、独自性や希少性、機能性といった部分で差別化を図ることが重要だ。同時に販売促進に向けては、的確に情報を発信するインターネット戦略も重要性を増す。そこで今回の特集では、県内でもとりわけ過疎化が進んでいる奥能登地区で奮闘し、成果を挙げている経営者やその後継者の商品開発やネット活用術にスポットを当てる。
県内唯一の焼酎専門メーカー、日本醗酵化成が平成27年に発売した「能登のムし」は能登産有機大麦を100%使用した焼酎だ。活性化ファンドの助成金を活用して導入した「常圧蒸留器」で仕上げており、麦の香りと濃厚なうまみを楽しめるのが特徴だ。商品名は「能登」「麦」「焼酎」の頭文字に由来する。
有機麦焼酎は全国的にも極めて珍しい商品だが、焼酎と言えば九州が本場だ。清酒どころ石川の焼酎をどうやって売り込むかは同社が新商品を開発するたびに直面する課題である。その点、「能登のムし」の販路開拓に際して大きな後押しとなったが平成28年度の「プレミアム石川ブランド製品」に認定されたことだった。
藤野裕之社長の長女で夫の浩史専務とともに経営に携わる裕子さんは「ブランド認定で箔が付いて酒店などに営業する際、話を聞いてもらえるようになりました。このおかげで他の銘柄も知っていただけるきっかけになっていると思います」と笑顔を見せる。すっきりとした飲み口が主流の麦焼酎の中で「能登のムし」は異端とも言える味わいだが、裕子さんは「リピーターも多く、この味にはまる人がいる」と手応えを感じており、今期の売り上げも前期比130%増と好調を維持している。
創業者で裕子さんの祖父にあたる公平さんは大阪帝大や広島大で醸造学を学んだ研究者だ。戦後、特産品を作って地元の観光振興に一役買いたいと帰郷し、焼酎造りを始めた。醸造学の専門家とはいえ、焼酎造りは初めてで能登杜氏の力も借りながら試行錯誤で醸造法を確立していった。そのため、同社の仕込みには本場九州とは違う部分がいくつもある。例えば、もろみをすぐに蒸留せず、半年間寝かせるのもその一つだ。温暖な九州で同様のことをすれば腐敗してしまうが、寒冷な気候の能登では熟成が進み、それが九州産とは違う独特の味わいを醸し出すのだ。
また、焼酎造りの工程にはもろみを搾るという作業はないが、同社では熟成したもろみを清酒造りのようにひと手間かけて搾っている。
さらに、公平さんは「売らんでいいから、寝かせとけ」が口癖で、蒸留した原酒の長期熟成にもこだわった。確かに同社のラインアップの中には30年も熟成させたものがあるのだが、その背景には次のようなエピソードも隠されている。
公平さんは事業の一方、地域振興のため政治活動にも熱心で、県議を務めた後、参院選にも出馬したが落選により多額の借金を抱えることになった。この際、原酒の入ったタンク数百本も差し押さえられ、事業再開までの約30年間、やむを得ず眠らせておくことになった。これが貴重な財産となったのだ。
ISICOのネット活用セミナーを受講した裕子さんは、こうした製法や歴史を自ら発信、更新できるサイトを新たに構築中。石川発の焼酎のPRに役立てており、能登産大麦の使用を他の商品に広げるなど、独自性にこだわった焼酎造りに励んでいく考えだ。
企業名 | 日本醗酵化成(株) |
---|---|
創業・設立 | 設立 昭和22年9月 |
事業内容 | 本格焼酎(焼酎乙類)製造・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.99 |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.99より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.99 |