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茶葉を煎茶やほうじ茶などに加工する油谷製茶は昨年3月、ISICOの次世代ファンドの助成金を活用して新型の焙煎機を導入した。これは大手飲料メーカーにペットボトル飲料用として提供するほうじ茶葉の増産要望に応えるためで、従来機より高温で茶葉を焙(ほう)じられるようになった結果、お茶の香りが高まり、生産能力も向上した。
油谷製茶が導入したのは、棒ほうじ茶を焙煎するための遠赤外線ドラム焙煎機だ。新型機の特徴は何と言っても従来機を大きく上回る高温で焙煎できる点にある。
ほうじ茶は、全国的には煎茶や番茶などを焙煎したものが一般的で、日本茶の中でも特に独特の香ばしさがある。一方、石川県では茶葉を摘んだ後の茎の部分だけを使った棒ほうじ茶が広く普及し、その香り成分の含有量は葉ほうじ茶に比べ1.5倍にも上る。
この棒ほうじ茶の特徴である香ばしい香りをさらに引き上げるために導入したのが新型機だ。旧型機が一つの熱源で焙煎していたのに対し、熱源を二つ備える新型機では、これまで200℃程度だった焙煎温度を300℃にまで高めることが可能になり、香りがより際立つ棒ほうじ茶を製造できるようになった。
焙煎温度を高めたことで副次的な効果もあった。旧型機では一度の焙煎に18分を要したが、新型機では8分に短縮し、生産能力が旧型機に比べ50%もアップしたのだ。
旧型機では茶葉の温度を焙煎中の茶葉の色や香り、肌で感じる熱から予測するため、焙煎中は油谷祐仙社長がつきっきりで焙煎機の温度を調整し続ける必要があったが、こうした焙煎作業の負担も大きく軽減した。
新型機は焙煎中の茶葉の温度を計測する温度センサーを搭載しており、油谷社長は「エアコンのようにボタンを押すだけで思い通りの温度にでき、常時そばにいる必要もなくなった」と話す。
とはいえ、焙煎温度を高くすることには懸念もあった。それは、焙煎温度が高いほどほうじ茶の香りは強くなるが、その分だけお茶のうま味が薄くなってしまうことだ。
この問題を、旧型機で焙煎した茶葉と新型機で焙煎した茶葉をブレンドすることで解決した。旧型機で焙煎した茶葉は香りこそ新型機に及ばないもののうま味は十二分にあり、互いの長所を生かして品質を高めたわけだ。
風味を客観的に評価してもらおうと、県工業試験場に分析を依頼し、うま味の低下を最小限に抑えつつ、香りが大きく向上したという結果を得ている。
こうして生み出されたほうじ茶葉は、大手飲料メーカーのポッカサッポロフード&ビバレッジ(以下ポッカ)にペットボトル飲料用として納められている。そもそも、両社が取引を始めたきっかけは2014年11月、ペットボトルのほうじ茶を企画していたポッカから、香りの強い棒ほうじ茶の茶葉を供給してほしいと担当者が訪ねてきたことだった。
油谷社長は当初、棒ほうじ茶の香ばしさをペットボトルで再現できるか疑問を持っていた。しかし、茶葉のサンプルを提供したところ、しばらくして届いた試作品の出来は十分なクオリティーを実現していたことから、すぐに商品化が決まった。2015年8月末に「加賀 棒ほうじ茶」として、JR東日本の路線にある駅構内の自動販売機で販売を開始すると、北陸新幹線金沢開業という石川・金沢に注目が集まるタイミングだったことも手伝って、3週間で欠品するほどの売れ行きだったという。
2016年夏にはセブンイレブンやローソンなど大手コンビニもこの商品を取り扱うようになり、当初はスポットで6トンの予定だったが、茶葉の出荷量はすぐに3倍以上に切り替わり、発注量はその後、急カーブで増えていった。そんな折、増産とともにポッカから求められたのが、ほうじ茶の香りをさらに高めることだったわけだ。
近年のほうじ茶ブームと相まって、ポッカからの注文量は依然として増え続けており、このままでは遠くないうちにさらに新しい焙煎機を導入しなければならない状況だ。
しかし、現在のように茶葉をブレンドしてほうじ茶の香りと味を維持するには、焙煎機を2台同時に導入しなければならず、資金面でも物理的な設置スペースにもそこまでの余裕はない。そこで、油谷社長は、1台の焙煎機で香りと味を両立させる手法を開発中で、おおむね実現のめども立ちつつある。
また、ポッカとは異なる食品メーカーから、ラテやスイーツに混ぜてほうじ茶のフレーバーを楽しむほうじ茶パウダーの注文も急増しており、油谷製茶では茶葉をパウダー化する粉末加工機の新調、増設も検討している。増え続ける茶葉の注文に応えながらも、油谷社長の視線はしっかりと先を見つめている。
企業名 | (有)油谷製茶 |
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創業・設立 | 創業 1918年 |
事業内容 | 茶葉の加工、販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.102 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.102より抜粋 |
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掲載号 | vol.102 |