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石川県とISICOは10月7日、いしかわ次世代産業創造ファンド助成事業に採択された企業の取り組み発表会を、金沢市の県地場産業振興センターで開き、5社が新事業計画を、1社が成功事例を発表した。
初開催となった発表会には、企業や大学、金融機関などの関係者約80人が参加し、石川から世界を目指す最先端の取り組みに耳を傾けた。冒頭、馳浩知事が「発表会で各企業の取り組みが知られることで、ファンドが“生きた投資”につながっていく」とあいさつし、田中新太郎ISICO理事長が全国最大規模となる総額300億円のファンドの運用益を活用した助成事業などについて説明した。
ここでは、成功事例として過去に採択された企業1社の発表内容と今年度の採択企業19社の中から5社の取り組みを紹介する。
サンコロナ小田は、従来の炭素繊維複合材料では不可能だった複雑な形状への加工と高強度を同時に実現し、量産化に成功した「フレックスカーボン(プレス成形用シート)」を紹介した。
2012年から開発を始めたこの製品は、炭素繊維を20層もの積層構造にすることで作られている。従来品とは違い、素材が金型内で流動的に密着するため、形状の自由度が高く、全方位からかかる力に強い。シート状の素材なのでプレス加工でき、大量生産が可能になった。大手スポーツメーカーが陸上競技用シューズのソール(靴底)として採用。金属製のスパイクピンの代わりにフレックスカーボンでハニカム構造のソールを成形し、100m走では0.048秒のタイムを短縮できるという。現在、短中長距離用のシューズを量産しており、東京五輪でもアスリートが使用した。
また、医療従事者用に作られたアシストスーツをフレックスカーボンで製作し、耐久性の向上と軽量化を図ることで、工場作業の負担を軽減するスーツとして改良した。すねとももに体重を分散することで体幹が安定し、足・腰・膝の負担を軽減する。
今後は、構造解析で特性を明らかにし、顧客が求める性能に近づけ、より安定したものづくりを推進する。さらに、移動体、EVなどパーソナルモビリティの素材としてマーケットを広げていく考えだ。
取締役 小田 宗一郎
炭素繊維の研究に10年前から取り組んでいるカジレーネは、腐食・老朽化したマンホールの内側に炭素繊維グリッド(網状の補強材)を設置することで、新設のマンホールと同等の性能を取り戻す「ジッグボード工法」の確立に挑戦している。
従来の炭素繊維グリッドは硬く、施工時に折れ曲がる可能性があったが、引っ張り強度や弾性率、柔軟性、施工性を兼ね備えた「炭素サイジング糸(炭素をコーティングした糸)」によって欠点を解消する。
対象となるマンホールは全国で15,000基以上あり、2028年度に約1億円の売り上げを目標に掲げている。
イノベーション事業戦略室室長
遠藤 隆平
創業390年を超える老舗酒造メーカーの福光屋では、植物性ヨーグルトの市場拡大を受け、米などの穀物原料を乳酸菌で発酵させた「ヘルスケア穀物ヨーグルト」の開発に取り組んでいる。
穀物を使うメリットとしては、アレルゲンが少ないことや食物繊維、ビタミンが豊富であることが挙げられる。また、例えば高アミロース米には血糖値の上昇を抑える効果、六条大麦には血中コレステロールを低下させる作用がある。発酵を促す微生物は、石川県立大学から提供を受けた。2029年度に売上高1億6,000万円、40万本の販売を目標とする。
取締役 相談役
松井 圭三
カーボンニュートラルの実現に向けて、白山では、利用率の低かった少量の排熱を有効利用する技術の確立に向け、同社の高性能環境調和型「熱電変換モジュール」を用い、「IoT向け独立電源システム」を構築する。
具体的には、工場の排熱を電気に変換し、IoTセンサーの電源に利用する。このセンサーから得られるデータによって、工場のエネルギー使用効率を可視化し、業務改善につなげていく。
将来的には、排熱を用いた熱電発電ユニットを製造し、高効率電圧変換と蓄電システムの実証実験を協力企業の工場で重ねていく。
R&D本部長
内田 健太郎
2050年には約40億人が水不足によって生活に支障を来すと考えられている。その解決のためにAQUONIAは、センサーやポンプ、フィルターといったハードウェアと、データベースや制御系のソフトウェアを組み合わせた水処理システムを開発する。
具体例の一つは、洗濯機の水循環装置で、これにより使用水量が90%も減り、マイクロプラスチックや洗剤使用量も削減できる。硬水や軟水といった国によって異なる飲み水の成分調整などにも応用できる。
この水処理システムは、AIによる自動化と部材の標準化、モジュール化によって、簡単に安価でカスタマイズできるようにする。
マネージャー
吉村 大希
金箔を活用した工芸品や食品、化粧品などの事業を展開する箔一産業。今回、東京大学先端科学技術研究センターと共同で、金箔と光の新しい表現の開拓に取り組む。
金箔と光について研究開発するきっかけは、今年、同社が製作に携わった高野山の宿坊アート「月輪」の評判が良かったことだ。
研究では、金箔の青白い透過光を自由な色に変えられるようにし、光に動きを持たせ、アート作品へと昇華させていく。そのために、配合や厚み、貼り方など金箔の製造工程も見直し、金箔に肉眼では見えないほどのメッシュ加工を施した上で、光をコントロールする。
技術開発部部長
吉田 昭二
企業名 | 公益財団法人 石川県産業創出支援機構 |
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創業・設立 | 設立 1999年4月1日 |
事業内容 | 新産業創出のための総合的支援、産学・産業間のコーディネート機関 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.125 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.125より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.125 |