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菓子製造販売の明月堂では、石川県とISICOが主催する新商品開発支援事業「Session石川」への参加をきっかけに、今年9月、県産米粉を使ったバームクーヘンを商品化した。3月には小松市内の自社工場前にショップ兼カフェをリニューアルオープン。従来の卸売りに加え、小売りを新たな柱に育てようと奮闘を続けている。
明月堂が新たに開発したのは、小麦粉の代わりに県産米粉を使ったバームクーヘンだ。現在、シロップに漬け込んだリンゴが入った「まるごとりんごのバームクーヘン」と、外側をサクッと香ばしく、内側をしっとりと焼き上げた「しっかりバーム」の2種類をラインアップしている。
今年9月には、松坂屋名古屋店で開催された「バウムクーヘン博覧会」に初参加した。この博覧会は全国から165ブランド280種類以上のご当地バームクーヘンを集めた販売イベントだ。同社は「まるごとりんごのバームクーヘン」を出品し、予定数量を完売。博覧会を運営し、バームクーヘンの老舗であるユーハイム(神戸市)の担当者からは「リンゴを使った米粉のバームクーヘンはほとんどなく、差別化につながった」と高評価を得た。
10月に東武百貨店池袋店で開かれる博覧会にも出店オファーを受け、倍の数量を持ち込むほか、11月に京王百貨店新宿店で開催される博覧会では単独のブランドブースが設けられる予定だ。竹田隼人社長と妻の由香さんは「認知度を高める絶好の機会」と腕まくりする。
およそ半年前にリニューアルオープンした店舗「baum shop & cafe ツキトワ」も、地元局のテレビ番組に取り上げられるなど話題を呼んでいる。SNSのフォロワー数は3倍近くに伸び、店舗での売り上げは、前年同期に比べて4.3倍に増加した。リピーターも着実に増えている。
前向きなチャレンジが続く明月堂だが、実は少し前までは廃業の危機に直面していた。
そもそも同社の売り上げのほとんどは、バームクーヘンやカステラなど、結婚式や法事の際に用いられる引き菓子の卸販売によるものだった。しかし、少子化に伴う結婚式の減少、あるいは規模の縮小によって、売り上げは右肩下がりになっていた。さらにコロナ禍が追い打ちを掛け、2020年4月中旬からしばらくは注文がぱったりとやみ、人員整理も余儀なくされた。経営陣の中には廃業やむなしの声も挙がったが、国や県からさまざまな支援策が打ち出されたこともあり、もうしばらく頑張ってみようという話になった。
再起に向けた課題の一つが、卸売りに依存した経営体質からの脱却である。その足がかりになればと2020年秋に竹田夫妻が参加したのが、県とISICOが主催する新商品開発支援事業「Session石川」だった。Session石川は、下請け企業とタッグを組み斬新なヒット商品を連発するセメントプロデュースデザイン(大阪市)の金谷勉社長を講師に招き、新商品のアイデアを練り上げていく全7回の講座だ。
「毎回たくさんの課題に取り組み大変だったが、他社の商品を分析し、自社の強みを見つめ直すいい機会になった。学んだ内容はその後の開発に役立っている」と竹田夫妻は声をそろえる。
竹田夫妻がSession石川を通じて打ち出した企画は、地元食材を活用する「じわもんシリーズ」だ。40年以上にわたって作り続け、味に自信のあるバームクーヘンに、付加価値と独自性をプラスし、地域の魅力とともにアピールするのが狙いだ。
その第一弾として商品化したのが、県産米粉を使ったバームクーヘンである。さっぱりとした味わいで、日本の農業を守り、食料自給率アップにも貢献する。今後も県産高級ブドウ「ルビーロマン」、能登町のブルーベリー、金沢市や能美市のユズなどを活用しながら、商品ラインアップを拡充していく予定だ。
また、店舗では贈り物として購入する客が多いことから、オリジナルの九谷焼マグカップの中に、明月堂の菓子やコーヒーのドリップバッグを詰め合わせたギフト商品も企画中である。
視野を広げ、自社にある技術や商材だけでなく、九谷焼の窯元など異業種の事業者と連携して商品を企画する手法もSession石川で得た学びの一つだ。
現在、小売り部門の売り上げは全体の20%を占めるまでになった。将来的にはECサイトによる販売も強化し、小売りの比率を30~40%にまで引き上げたい考えだ。新たな柱ができたおかげで、受注減を怖れずに卸価格の値上げに踏み切れたことも収穫だった。
試作品を並べ、消費者の反応をすぐに見られる点も自社店舗を持つメリットだ。「お見舞いでいただいた菓子がおいしかったので、快気祝いは必ずこちらの店で買いたくて」など、うれしい言葉を掛けられ、モチベーションが上がることも多い。
店名であり、ブランド名である「ツキトワ」には「明月堂の菓子を中心に人の輪を広げたい」との思いが込められている。「そのために、例えば店でイベントを開催するなどして、もっと多くの地域住民が集まる店にしていきたい」と話す竹田社長。新たなステージでの飛躍に期待したい。
企業名 | 株式会社 明月堂 |
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創業・設立 | 創業 1979年 |
事業内容 | 菓子の製造販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.125 |
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備考 | 情報誌「ISICO」vol.125より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.125 |