本文
少子高齢化によって労働力人口が減少する中、人手不足や離職率の高さに頭を悩ませている中小企業は少なくない。企業の成長や新たな事業展開を支える人材の確保は、重要な経営課題の一つと言えるだろう。そこで今回の特集では、人材難を解消するために積極的な取り組みを進め、採用力の強化や定着率アップにつなげた2社の事例を紹介する。
金沢市のにし茶屋街に店を構える甘納豆かわむらも採用がうまくいっている企業の一つだ。コロナ禍が明け、経済活動が正常化した2023年には8人の採用枠に全国から応募が殺到し、店長経験者など求めている人材を採用できた。
小売業では長時間労働や休日の取りづらさが人手不足の深刻化に拍車をかけていると言われるが、同社が求職者から選ばれるのはこうした課題の解決に積極的に取り組んできたからだ。
例えば、残業削減に向けて心がけているのが年間の業務量の平準化だ。特定の季節だけに売れるような菓子は作らず、繁忙期にはECサイトや電話からの発注分の納期を長く設定する。その結果、残業は月10時間までに抑えられている。
連続勤務日数は基本的に4日まで。有給休暇の申請はスマートフォンの勤怠管理アプリを使って気軽に申請できるようになっている。家族とゆっくり過ごせるようにと毎年12月31日から1月3日は休みとしている。百貨店などへの卸売りをしないのも、取引先の都合よりも自社の健全な労働環境を優先したいと考えているからだ。「しっかり休みを取れなければ家庭も成り立たない。スタッフは喜んでくれていて離職も減った」と河村洋一社長は話す。
河村社長が働きやすい職場づくりを追及する原点は、かつて働いていた親族の会社での経験だ。その会社では経営陣と社員の対立が激しく、互いに相手の非を責め合うような状況だった。
「今の時代、労使ともに求めているのは心の豊かさ。楽しく仕事ができて皆が幸せになり、お客様にしっかりと喜んでもらえるような会社でなければ、経営する意味がない。自分がやるならば、そんな経営にチャレンジしたいと思った」と河村社長は振り返る。
また、採用が思うようにいかなかった時代に、自社よりも時給の低い大手コーヒーチェーン店に多くの人材が集まっているのを見て、悔しさを感じたことも改善への原動力となった。
河村社長は人が集まらないのは会社に魅力がないからだと考え、社員が感じている困りごとを日々のコミュニケーションから一つ一つ丁寧にすくい上げ、先に述べたような制度を作り上げていった。「労務に関することは辛抱させないようにしたかった」と河村社長は話す。
もちろん、休みを増やせば、その分の商機は失われる。そのため、会社をブランド化して付加価値を上げる、あるいは卸売りをせずに自社販売に徹するなど、利益率を高める努力も怠らない。
たとえ人材が不足していないとしても、年に3回か4回、自社サイトや民間の転職サイトを通じて断続的に求人募集する点もポイントと言えるだろう。「不足してから慌てて募集をしても、こちらが求めている人材が応募してきてくれるとは限らない。不本意な採用をしなくても済むよう、困る前に募集をかけて、いい人材がいれば採用するようにしている」と話す河村社長。実際、ブライダル業界の接客コンテストで日本一になった経験を持つ女性など、思いがけない分野からの人材の獲得につながっている。
獲得した人材を起点に新たな事業展開にも取り組んでいる。現在、同社では金沢市泉2丁目にある登録有形文化財で江戸時代に建てられた「北中家住宅」を改修しており、1年後をめどに、カフェと豆を使った焼き菓子作りを体験できるスペースをオープンさせる計画だ。インバウンドを含めた観光客の集客が狙いで、有名洋菓子店での実務経験を持つ社員の能力を生かす場を作ろうとの考えが、事業化のきっかけとなった。
採用を見据えた職場環境づくりに向けたアドバイスを聞くと、「社会保険労務士の進言はすべて受け入れることが大事。また、利益を出そうという考えを前提から外し、柔軟に労務を考えることが重要」と話してくれた河村社長。採用力強化と定着率アップに向け、同社の取り組みがいいヒントになりそうだ。
企業名 | 株式会社甘納豆かわむら |
---|---|
創業・設立 | 設立 2001年3月 |
事業内容 | 甘納豆やようかんなどの製造・販売 |
関連URL | 情報誌ISICO vol.136 |
---|---|
備考 | 情報誌「ISICO」vol.136より抜粋 |
添付ファイル | |
掲載号 | vol.136 |