本文
少子高齢化などにより人材の獲得・定着が年々難しさを増す中、従来型の新卒採用やトップダウンの管理手法では、企業の持続的な成長は望めない。変化の激しい時代を生き抜くには、高度な専門性を持ったキャリア人材の活用や、社員一人一人と向き合い働きやすさを高める対話型の組織づくりが重要だ。今回の巻頭特集では、その具体的な取り組みを2つの事例から紹介する。
小松電業所は、建設機械・鉱山機械の外装部品の製造を主力とする。最大の強みは、鉄板の切断から曲げ、溶接、塗装、そして最終的な組み立てまでをすべて自社で完結させる一貫生産体制だ。特に設備投資と技能が必要な塗装ラインまで自社で保有している点が強みとなっており、顧客である大手建機メーカーにとって、非常に重宝される存在となっている。
同社は景気変動の波にさらされやすい建機業界において、持続的な成長を遂げてきたが、決して順風満帆だったわけではない。大きな転換点は2010年、塚林幸作社長が父から経営のバトンを受け継いだ時に訪れた。当時、就任とともに社内を見渡した塚林社長は、ある危機感を抱く。それは、社長を支える右腕の不在だった。
「1990年代は売上高30億円前後を行き来する安定飛行を続けていた。2006年に栃木県で小山工場を新設後、売上高は倍増したものの、社内の文化や意思決定プロセスは以前のままで、さらなる成長軌道を描くためには、新たな手法を取り入れて組織をアップデートすることが不可欠だった」(塚林社長)。
当時の役員や管理職は先代時代からのメンバーばかりで高齢化が進んでおり、事業をさらに拡大し、顧客に対して強いプレゼンスを示すためには、組織の若返りが不可欠だった。そこで塚林社長が力を入れたのが、大手企業で経験を積んだキャリア人材の活用だった。
同社では塚林社長の人脈を通じて、あるいはILAC(いしかわ就職・定住総合サポートセンター)の支援を受け、外資系グローバル企業、大手私鉄企業グループ、大手非鉄金属メーカー、工作機械メーカーなどから、高度な専門スキルを持つ人材を次々と獲得していった。
外部から招かれたキャリア人材は、その後、さまざまな面で力を発揮している。
例えば、グローバル企業から入社し、現在業務部長を務める人材は、年功序列的な風土を排し、個人の貢献度を明確に報酬へつなげる公正さを重視した人事評価制度を構築。社員のやる気を高めると同時に、後に続くキャリア人材にとっても、安心して活躍できる土壌を整えた。
また、大手私鉄企業グループ出身の人材は、中国法人との連結決算の精度向上や、生産計画に連動した予実管理の仕組みを構築。これにより、経営判断のスピードと正確性が向上した。
さらに、大手非鉄金属メーカー出身の人材は、現場の日常業務の質を底上げする「クオリティー委員会」のリーダーとして、5S活動を徹底させた。工作機械メーカー出身の人材は、社内のデジタル化を推進し、製造現場の見える化を加速させている。
このように、社内にない機能を補完する専門家としてキャリア人材を配置したことが、現在、売上高150億円を突破する企業へと押し上げる一つの原動力となった。
とはいえ、中小企業に大手の精鋭が加われば、摩擦は避けられない。同社でも、「大手のやり方はうちには合わない」という現場からの反発や、考え方のギャップによりぎくしゃくした関係が生じることがあった。
こうした摩擦を解消し、キャリア人材を融合させるために導入したのが、グローバル企業でも採用されている対話手法「アシミレーション」である。
具体的には以下のようなプロセスで進める。例えば、新たにマネジャーを任せる際、あえて本人を席から外し、ファシリテーターとメンバーだけでマネジャーに対する期待や要望、疑問、気を付けてほしい点などを率直に出してもらう。その後、ファシリテーターからその内容を伝えられたマネジャーが、それらの意見に誠実に答え、今後の方針をすり合わせる。これにより、初期の不要な摩擦を抑え、信頼関係を早期に構築するというわけだ。
また、キャリア人材の配置においても、適材適所の徹底に細心の注意を払っている。例えば、高度な専門スキルを持つ人材に対しては、一律に管理業務を求めるのではなく、その知見を組織全体へ還元できる専門職や特定のプロジェクトを牽引する役割など、個人の強みを最大限に生かせるポジションを用意している。
同社は今、2029年に売上250億円を達成するという中期経営計画を掲げている。それは、単なる規模の拡大ではない。自動化や省人化を進めて1人当たりの生産性を極限まで高め、グローバルな市場環境に左右されない強固な企業体へと進化するプロセスだ。
その道のりにおいて、外部の知見と創業から根付く粘り強いものづくり精神を掛け合わせる人材戦略は、今後さらに重要性を増していく。大手に比べて経営資源が限られる中小企業が、キャリア人材という触媒を得て、どこまで高く飛べるのか。小松電業所の挑戦は、地方の企業の未来を照らす一つのモデルケースとなるだろう。
| 企業名 | 株式会社小松電業所 |
|---|---|
| 創業・設立 | 創業 1948年1月 |
| 事業内容 | 建設機械・鉱山機械の部品製造 |
| 関連URL | 情報誌ISICO vol.148 |
|---|---|
| 備考 | 情報誌「ISICO」vol.148より抜粋 |
| 添付ファイル | |
| 掲載号 | vol.148 |