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金沢市寺町一丁目の交差点を金沢泉野図書館方向へ右折し、100mほど行った右手にあるイタリアンレストランに隣接した白を基調とした瀟洒な建物が、平成29年7月に新築されたカルチャースクール石心。スクールのオーナーは、全国女流アマチュア囲碁選手権大会で優勝経験を有する佃優子さん。持ち前の明るさと笑顔で老若男女から慕われ、今では地域の人たちが集まる交流拠点として、なくてはならない存在に。子供からお年寄りまで、多くのファンを育んでいる佃ワールドの魅力とは・・・。
佃さんが囲碁と出会ったのは、大阪で暮らしていた子供の頃、小学校帰りに学童保育代わりに預けられていた叔母の家の前がたまたま碁会所で、タバコの煙まみれの中で近所のおじさんたちが囲碁を楽しんでいた。そんなおじさんたちに「嬢ちゃんもやりいや」と誘われたのが囲碁の道を進むきっかけに。最初は誘われたから仕方なくやっていたが、覚えるに連れて楽しくなり、中学になると友だちは買い物に行ったり、おしゃれに興味を持ち始めたりしていたが、「私は囲碁をしているなんて恥ずかしくて言えず、こっそりと囲碁教室に通い続けていました」と述懐する。アマチュアとして腕を磨く道を目指し始めた頃から、囲碁に対する『暗い』『マイナー』『地味』といった悪いイメージを覆すような、明るくて、楽しくて、若い人も女性も来るような囲碁教室を将来やりたいと思い始めていたそうだ。その後、高校1年の時に全国高校囲碁選手権大会で個人戦3位、高校3年の時には同大会で優勝を果たす。
囲碁の合宿で金沢に何度か来ていたこともあって金沢が好きになり、その延長線上で金沢大学を受験するため金沢で浪人生活を送っていた。その時、生活費を稼ぐため小学生6人を集め、6畳間を借りて囲碁教室のアルバイトを始める。翌年には生徒が15人に増え、その中の一人が県大会で優勝。そうした実績が評判となり、生徒数も30人あまりに膨れあがる。あれよあれよと稼げるようになり始めた頃、「教室は普通のアルバイトと異なり、子供や親御さんの気持ちや時間を預かっていることに気付き、途中で止めることができなくなってしまった」と振り返る。その結果、大学受験を止め、囲碁教室で食べていくことを決意する。それから2年あまり経った頃、たまたま囲碁教室だった場所が空いているからやってみないかとの誘いの声がかかり、二つ返事で引き受け、気が付いたら現在に。その間、自らも囲碁を極め、平成6年には国際アマチュアペア碁選手権大会3位、平成8年に石川県本因坊、全国女流アマチュア囲碁選手権大会優勝と、アマチュア界の頂点に上り詰める。
デジタル全盛の時代にあって、囲碁教室だけでは人を集めるにも限界を感じ始めていた数年前、佃さんは石川県産業創出支援機構(ISICO)の経営相談に出向き、これからの方向性を相談した中から、囲碁だけでなく、いろんな教室をスタートさせ、ホームページも充実させるなど、前向きな取り組みの必要性をアドバイスされる。それに基づき、まっしぐらに邁進してきた結果、気が付いたら自前の新教室を建てるまでに。今は、将棋・英会話・書道・中国語・金沢まるごと講座・ベトナム文化講座・絵本with英語・ストレッチwith英語・囲碁(大人・子供)とバラエティーに富んだカルチャー教室として人気を集めている。様々な教室の講師陣は、これまでの佃さんの歩みの中で構築してきた人脈が大いに役立っている。「囲碁だけを前面に出していると、囲碁をしていない人には関係のない場所になってしまうため、囲碁を普及させるためには、将棋もやってますよ、英会話もやってますよとアピールし、囲碁を楽しそうにやっている子供たちを見て、そんなに難しいものではないという雰囲気を知ってもらいたい」と力説する。何でもありのよろずや文化センターが佃さんの目指すところのよう。
佃さんは大変明るく、楽しい人柄で、いつも笑い声が絶えないこともあって、教室に来る人たちも明るくて楽しい人たちばかり。囲碁の対局はシーンと静まりかえった空間の中で、碁石の音だけが響いているイメージだが、それはそれとして、佃さんはまず楽しんでもらうこと、人に集まってもらうことを第一に考えている。わいわいがやがや皆が楽しみながら、元気に笑いながら好きな趣味に取り組める空間と時間を提供できることを何よりの喜びと感じている。楽しい時間が過ごせる場所には、自然と人が集まるわけで、そんな好循環で人の輪が広がり、それに伴って商いの輪も広がり、文字通り「笑門来福」を日々実践し、お客さんに楽しい笑いの一時を提供し続けてきた結果、自前の教室という福が舞い降りてきた格好だ。
近年では、外国人旅行者がふらっと囲碁をするために遊びに来ることもあるようで、「語学も堪能でないと駄目なんですよ」と佃さんは苦笑する。インターネットの普及で、外国人が日本の伝統文化に触れてみたい、やってみたいという傾向が強くなってきているようで、金沢を旅行するにあたり、ネットでいろいろ検索し、石心の門を叩く外国人が増えているとのこと。また、囲碁の意外な活用法として、物事を順を追って考える、構想力を磨く、コミュニケーションを図る、相手に一目置く、勝ち負けを学ぶといった囲碁の要素に着目し、囲碁を社員研修に使ってもらうことを推奨している佃さんは、自ら企業に出向いて指導する取り組みにも力を注いでいる。
佃さんが囲碁教室を始めた二十数年前は、金沢市内の名だたる企業のトップの方たちが囲碁を嗜んでおり、そうした人たちとの人脈が自ずと形成され、いろんな場面で応援してくれる人の輪が何よりの財産になっている。いろんな場面で、多くの人たちからの支援を受けながら今日の自分ならびに石心があることへの感謝を忘れない。と同時に、公的機関なかでもISICOに足繁く通い、自分がこれから取り組むことに関してサポートしてもらえる補助金制度はないか、あるいは、どういうやり方で進めるのがベストかといったことを自ら学びに行く前向きな姿勢が、いつの間にか周囲を巻き込み、気が付いたら周りが応援団になってくれていたというのが、佃さんの今日を拓いた大きな要因のように思う。囲碁だけにこだわって自ら間口を狭めていくのではなく、カルチャースクールという観点から事業を見直し、英会話や将棋、書道、中国語等々いろんな教室がある中の一つに囲碁があるぐらいの位置づけで逆転の発想で取り組んだことが奏功している。一つの趣味だけでなく、人生を豊かにし、人間の幅を広げるためにもいろんなことをすると楽しいし、これもしたい、あれもしたいと自ら求めていくこと、そんな楽しい空気が充満しているのが石心の教室である。さらに、近隣の人たちに幅広く知ってもらうため、生徒募集のチラシを作成し、新聞に折り込んで宣伝するなど、いろんな世代の人たち、いろんな趣味を持つ人たちを幅広く獲得すべく、ウエルカム精神を発揮し、おもてなし力でファンを増やしていく佃ワールドのこれからが楽しみである。
店名 |
カルチャースクール石心 |
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住所 |
金沢市泉野町1丁目4-6 |
TEL | 076-243-1088 |
URL | https://www.igo-sekishin.jp/ |