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商いを通じ人生を深く豊かにする 「真」「善」「美」の精神を伝播  弓具工房 皆中堂

印刷用ページを表示する更新日:2021年1月19日更新

弓具工房 皆中堂

弓具工房 皆中堂

日本には古来より、剣道、柔道、合気道、空手道といった「道」がつくスポーツがいくつかある。そんな中でも中学、高校の体育の授業で習うことがなく、一般的にあまり馴染みのないのが弓道ではないだろうか。縁がない人は一生弓矢に触れることもないものの、正月の風物詩の一つである京都・三十三間堂の通し矢のニュース映像が頭に浮かぶのでは。その弓道の道具を商う北陸で唯一の専門店が金沢市小坂町にある『皆中堂(かいちゅうどう)』である。店主の田野中修氏を訪ねお話を伺った。

 

何気なく入門した弓道が生涯の商いに

県内に弓道部のある中学や高校がいくつかあるものの、弓道部のない学校の方が圧倒的に多いため、なかなか弓矢に触れる機会も、目にする機会もない人の方が多いのが現実である。そんな中で、田野中さんが生まれ育った大聖寺には、高校に弓道部があり、「部活動をやるにあたって、球技は不得手だったが、かと言って文化系の部もなぁと思っていたところ、弓道部が目に止まり、何となく弓道部に入った。」と当時を振り返る。
先輩後輩の上下関係、礼儀作法を学びながら、居残り練習を重ね、努力すれば報われることを身を以て体得した高校3年間だったよう。「何気なく入った弓道部だったが、弓道馬鹿と言えるほど弓道に取り憑かれ、寝ても覚めても弓のことばかり考え、休みの日も一人で弓道場へ行って練習するほどはまった。」と述懐する。
高校を卒業したら、弓道に関わる仕事がしたいと思うようになり、そんな折り、弓道部に行商に来ていた滋賀県の弓道具店がたまたま社員を募集していることを耳にする。ここに就職すれば、弓道をやりながら弓道に関わる仕事ができ、まさに一石二鳥との思いで弟子入りを決意。そこで、矢の作り方や弓道具の修繕の仕方などを習いながら3年余りが経過する。​


皆中堂 皆中堂  

 

22歳で独立し、『皆中堂』を創業

当時の田野中さんは、写真撮影が趣味で、休日はカメラを持って京都市内のあちこちを撮影していたのだが、ある写真雑誌に投稿したところ、運良く掲載されたことから、カメラマンで食べて行こうと弓道具店を退職する。

大聖寺に戻り、近所の写真店で、現像の仕事などをしながらカメラマンの仕事をやってみるも、自分の撮りたい写真と、依頼される写真とのギャップに違和感を覚えるようになる。そんなとき周囲の人は、田野中さんが弓道具店に修業に行っていたことも知っていたことから、『自分の店を持ったらどうだ』と言われるようになる。やがて、自分が食べていく分ぐらいは稼げるだろうと決意。

地元で弓道店を開業するにあたり、弓の主産地である都城をはじめ、道具の産地へ卸してもらえるよう依頼して回った。実家の玄関先を改装して自らの店「皆中堂」の看板を掲げたのが22歳の時。店名の「皆中堂」は、弓道の大会で1人が4本の矢を的に当てることを競うが、その4本が全て的中したことを「皆中」と言うことに由来する。​

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中学・高校の弓道部がお得意先

弓道具店を始めたことを知ってもらうため、金沢市内の弓道部がある学校に挨拶して回った。当時、市内に弓道具店はあったが、修理ができない販売店のみだったため、行く先々で重宝がられ、新規購入だけでなく、既存の道具類の修繕依頼もコンスタントにもらえるようになった。
週に2~3回は武道館や学校に通い続けると、商いは順調に伸び、金沢市内の顧客が予想以上に増えてきたことから25歳の時に現在の県立武道館の近くに「皆中堂」を移転する。
部活動の場合は、個人に販売するのとは異なり、まとめて10人~20人の部員がいる。そんな学校を何校かお得意さんに持つことで、コンスタントに商品の注文やメンテナンスの仕事がもらえ、安定した商いの基盤を築くことができた。

春先から秋頃にかけて部活動や大会の多いオンシーズン及び、秋から翌春にかけては、次の年に販売する商品の仕込み時期は職人として、オリジナルの矢に代表される皆中堂にしかないモノづくりに専念する時期となる。「仕入れた商品をただ右から左に販売するだけの商売をやっていたら価格競争の波に淘汰され、生き残っていなかったと思うが、若い時に職人として修業したことで、オリジナルの商品を自分で作れること、矢の修理などもできることで、今日までやってくることができた。」としみじみと語る。

     

皆中堂

コロナで商いにも影響が

令和2年は、春先から新型コロナウイルス感染症が拡大したことで、通常開催される弓道大会が軒並み中止となり、同店の商いにも影響が出始め、年間でみると前年に比べて売上が減少した。とりわけ学校の休校期間はほとんど修繕等の依頼もなくなり、学校が再開されたことで、新入部員が入り、少しずつ戻ってきたとのこと。

今回の新型コロナウイルスは特別な事情であるが、大雪のような自然災害も商いに大きく影響するそうで、交通機関に影響が出るような時は、大会の中止や、得意先の学校回りができなくなり、お客さんも店まで来ることができないことで、売上が一時的に減少することもある。

 

 

オーダーメイドの矢で差別化を図る

学生が使うグラスファイバー弓は4~5万円前後、この弓は学生が日々練習してもそう簡単に壊れることがないため、この弓が世に出てからはほぼ大部分の学校がグラスファイバー弓を使うようになっている。一方、昔からの竹弓は10万円ぐらいからあるが、使用頻度が高まると竹が劣化し、割れることもあるため、どちらかと言うと有段者クラスの人が主に使っているそうで、作者の落款が入るような高級品は20万円以上するという。

弓道で最も傷むのは矢であり、この修繕ができることは同店の大きな強みでもある。また、大会で目立つ個性的なオーダーメイドの矢は、他の人たちと差別化できる一品でもあり、有段者には魅力的な商品に違いない。

矢は1本当たりジュラルミン製で2千円~3千円、カーボン製で3千円~5千円、竹製で1万円~と高価なものに。竹は材料から吟味し、決められた規格がないことから、重さもばらつきがあり、使う人の力量や調子を田野中さんが勘案しながらオーダーメイドで仕上げている。そのため、自分にぴったりとフィットする矢を作ってもらうことができるという点で、仕入れて販売しているだけの店との大きな差別化にもつながっている。矢の仕様については、サイズ等に規則があるため、どんなものを付けてもというわけにはいかない。昔であれば、天然記念物級のオオワシやオジロワシの羽根は、とても発色が美しく好まれ、それこそ江戸時代の殿様のコレクション級の逸品で大変高価なモノだが、現在は販売することも使用することも禁止されているため、輸入できる羽根の範囲内で制作されている。

皆中堂 皆中堂 
 
 

歳月を経ても再びできる弓道の魅力

弓道は弓を引いて矢を的に当てるということだけでなく、その背景にある精神修養の奥深い部分に魅力があるように思われる。そうした点について伺うと、「中学1年で入部したばかりの頃は、まだ小学生の延長のような面がありますが、2年生、3年生と成長するに連れ、礼儀作法が自然に身に付き、しっかりとし、姿勢も良くなり、袴姿が様になってきます。」と目を細める。
中学、高校と弓道を続けてきた人が、卒業後も続けられるかとなると、そこからはなかなか難しいのが現実。しかし近年は学生時代に弓道をやっていた人が、社会人になると一時は機会がなくなるが、定年を迎えて時間にゆとりができると、改めてまた弓を引くようになるという人もいるとのこと。「先般も40代の女性が、子育ても一段落したので、また弓を引いてみようかと店を尋ねてきて、25年ほど前に使っていた矢はまだ使えますかと言われ、見てみると私が昔作った矢だったのには驚くと同時に、とても嬉しかった。」と顔をほころばせる。
 

皆中堂   

 

安心と信頼の商いに邁進

弓道を嗜む人たちにとって、金沢の武道館のすぐ傍にある「皆中堂」は、練習の後に寄ってメンテナンスを頼んで帰ることができる、なくてはならない存在になっている。とはいえ、学校の弓道部の場合は、弓道をやったこともなく、全くこれまでの繋がりを知らない先生が顧問になると、例えばネット上の価格だけで判断され、それまで同店に来ていたメンテナンスや注文が、少しでも安い店に変更されてしまう事例もあるそうだ。そんな時は、価格競争をやりだすと消耗戦に陥るだけと割り切り、あくまでも商売は適正価格で安売りしないことを心掛ける。その分、困った時に頼りになる存在であり続けること、そうした店側の思いを理解してくれるお客さんを増やす「安心と信頼」の商いに邁進する田野中さんである。

今後の課題を伺うと、「かなり前からホームページを開設し、県外からの電話注文がぽつぽつと入るようになってきているものの、近年は同業他社もホームページに力を入れ始めたことで、価格競争の面が否めず、オーダーメイドに対応する自社のオリジナルの矢やモノづくりに対する熱い思いを盛り込んだ、新たなホームページづくりを検討中。」と、リニューアルの必要性を痛感している。10年あまり前から長男が店を手伝っており、文字通り親子鷹で北陸の弓道人をサポートする地道な商いに邁進する覚悟である。​

店舗情報

皆中堂

皆中堂

 

社名弓具工房 皆中堂
代表田野中 修
住所金沢市小坂町西25-3
TEL076-251-6664
URL

http://www.kaityudo.jp/