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持続可能な地域を目指し炭やきビレッジ構想の実現に挑む!  大野製炭工場

印刷用ページを表示する更新日:2020年10月23日更新

大野製炭工場

大野製炭工場

昭和の中頃まで、日常生活において台所の竃、風呂の湯沸かし、暖を取るための火鉢やあんかなどに重宝された薪や炭も、今では、焼き鳥店の備長炭、薪ストーブ愛好家が使う薪、お茶の世界で使われるお茶炭など、限られたところでしか目にしない希少なものになってきている。そんな時代にあって、石川県内で唯一専業の炭やきを営む珠洲市にある大野製炭工場の大野長一郎さんを訪ね、お話を伺った。

 

炭やきを継ぐ宿命

先代が1971年にこの地で炭やきを始め、子どもの頃は、木を運ぶことや炭やき作業の手伝いをさせられ、「後を継いでたまるものかと思うぐらい嫌だった。」と述懐する大野さん。高校を卒業すると地元企業に就職。入社して3年経った頃、先代が体調を崩し、集落の人たちから「後を継がないのか・・」との声をかけられるように。

その頃は、環境問題への関心が高まっていて、自治体の焼却炉でゴミを燃やすとダイオキシンが発生することから、焼却から山に廃棄して埋め立てるという手法に変わり始めた。その時に、親が生計を立てるために働いている山というフィールドに、場所は違うものの、ゴミが捨てられることに、何とも言葉にできない複雑な思いを抱き始め、考えが一変する。

自分のやるべきことは、体力が衰えてきていた先代を手伝い、炭やきをすることと決意し会社を辞める。それから3年あまり経って先代が癌になり、手術して一旦復帰できるまでに回復するも、しばらくして再発し1年後に他界する。

大野製炭工場 大野製炭工場

 

先代の精神を受け継ぎ、自社商品のブランド化を推進

当時、周囲の炭やきは農協の箱で炭を卸していたが、先代は自社名入りの箱で販売して、早くからブランド化に取り組んでいた。自らの炭やき技術の研鑽にも努め、商品としての評価を高めていた。先代の姿を見て、生き残るためには自分で価格を上げられるモノづくりが重要だと痛感する。

大野さんが代表を継いでから、炭やきとして生き残るために、黒炭の中でも高価格な茶道用の木炭の生産に取り組むことに。しかし、ただ高くするのではなく、なぜ高いのか、なぜこの地で炭やきをしているのか、お客様に商品の背景にあるストーリーも伝えることを考える。そこで、いしかわ里山創成ファンドを活用し、輪島のデザイナーに商品パッケージ等のデザインとプロデュースをしてもらい、柞(ははそ)と名付けた。柞は、繰り返し恵みをもたらす森のことを指す。​
大野製炭工場  大野製炭工場  大野製炭工場

 

お茶炭に適すクヌギの植林に取り組む

高価格なお茶炭を生産するためには、クヌギの木が不可欠だ。しかし、珠洲の山中にはまとまったクヌギ林がなかったことから、自分で植えることを決意する。工場周辺の耕作放棄地を借り受け、炭やきの仕事の合間に、母と2人でクヌギの苗を植え始めた。近所の人の手も借り、少しずつ植林作業を進め、何とか1000本を植え終える。クヌギは植えてから伐採できるまで8年を要し、1年間に1000本を炭にする計画だったことから、循環する山を作るためには、1000本の植林を8年連続で毎年やる必要があった。しかし、1000本植林しただけでその大変さは並大抵ではなく、多くの人に手伝ってもらうためにイベント化することを考え始める。   

 

人とのつながりで植林の輪が広がる

そんなことを思っていた2005年、知人の紹介で宮城県気仙沼の『森は海の恋人運動』を推進する『NPO法人森は海の恋人』の代表・畠山重篤氏に出会う。牡蠣養殖をしており、牡蠣の成育が思わしくないのは地元の山の姿が変わったのが原因と考え、毎年1000人規模の植林活動をしている。畠山さんから、植林は自然界全体で考えると様々な公益性があることを教わり、植林の意義を再確認する。

2008年に自主企画で最初の植林イベントを開催。その際に珠洲で活動する『NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海』が参加してくれたことが縁で、翌年からはこのNPOが主催する形で、『おらっちゃの森づくり運動』として植林がスタートする。また、東京で植林活動を行っている『NPO法人グリーンウェーブ』からも資金面で支援してもらえることになり、3年間継続できる基盤が整う。最初は50人程度で始めた植林も、3年後には100人を越え、2012年には180人にまで増えた。 

里山保全と炭やきの産地化を目指したこの活動は、『おらっちゃの森づくり運動』として2018年の第10回まで続き、現在は『NPO法人奥能登日置らい』が主催となり、『菊炭の山里づくり運動』として継続している。これまでに約6400本を植え終え、市内外の学生やボランティア団体など参加者数は延べ1000人を超える。

植林後は、大学と連携して植物種や昆虫種を継続調査し、耕作放棄地であったときよりも多様性が向上しているとの結果も出た。また、植育林と製炭におけるCО2の排出量と固定量を10年以上記録し続け、炭やきは大気中の炭素濃度を下げ、地球温暖化防止に貢献していることも確認できた。

 大野製炭工場 大野製炭工場 
 大野製炭工場

 

炭やきビレッジ構想 

大野さんの住む珠洲市東山中町は少子高齢化・過疎化が進み、このまま何もせずにいると、なくなってしまう地域だと言う。この地域を残すためにどうすればいいかと考えた大野さんは『炭やきビレッジ構想』に辿りつく。

炭やきビレッジ構想とは、里山を再び人の利用できる資源として蘇らせ、炭やきを生業として確立させること、そして地域産業にすること、住民を増やし里山を守る人を増やし、豊かな自然や文化を守りつなぎ、持続可能な循環型地域社会を実現することだそうだ。そのために、この東山中町に大野さん以外で6世帯の炭やきを増やすことが目標だ。課題は、植林する土地の確保、炭やき希望者が生活する家の確保、既存住民の理解、それらを推進していく組織の強化、そして炭やき仲間の募集と育成。なかなか炭やきを生業にしたいという若者は見つけられない。どのように炭やきという仕事の魅力を伝え、能登で炭やきをしたいという人を探して育てるかが重要だ。

 SDGsや地方創生、働き方改革、新型コロナウイルスなど人々の価値観が変わるような出来事が起こる中で、地方で生きること、インターネットで得られる情報でなく実際の体験で得られること、一次産業の手仕事で生み出されるもの、それが見直されているように感じる。社会全体を俯瞰してもこの取り組みの意義を強く感じ、この夢を実現したいという想いが日に日に強くなっていく。課題は多く、簡単には実現できないが、地元住民やNPО団体、茶道関係者など地域内外の方々と協同して、夢の実現に向けて邁進している。

大野製炭工場 大野製炭工場 大野製炭工場
 

火を通してつなぐ想い、特異性のある村づくり

大野さんは、この地域をお茶炭の産地とするだけでなく、木炭からもたらされる“火”をテーマにした村づくりを考えている。

「ある日、窯に入れる“火”について考えていたところ、集落にある白山神社の宮司さんから、自分で清い火を熾すことを教わり、2013年12月、火熾し神事を行いました。」白山神社には『菊理姫命(ククリヒメノミコト)』という神様が祀られている。この菊理姫命は、イザナギとイザナミの最後の実子となった火の神『加具土命(カグツチ)』の誕生によって黄泉の国へ行ってしまったイザナミを呼び戻そうとあきらめきれなかったイザナギを説得し、この騒動を仲裁した巫女神ともいわれている。そこで宮司さんに「火の神の力を治めてください、良い炭が焼けるように見守って下さい」という内容の祝詞を作ってもらったという。火打石で火を熾して炭窯に火入れをし、熾した火は、工場の神棚の下に置いた火鉢で消さないよう守っている。しかし、何度か消して熾してを繰り返しているそうで、「消さないよう繋いでいくことも修行だ。」と言う。

「いずれは村の神事として毎年行い、それまで繋いできた火に足しつなげていきたい。」と語る。新たな炭やき職人が独立する時には、自分の想いと共につないだ火を受け継いでもらいたい。さらに、能登の祭りに欠かせないキリコの提灯にも、炭やきがつないできた火を一つに集めて灯し、この地域ならではの祭りを創りたいそうだ。

「祭りは、その地の自然の恵みに感謝を示し、祈りを捧げるためのもの。自然の恵みに生かされる僕たちだからこそ、責任をもって伝えていける。祭りという文化をも生み出し、その特異性を住民が地域の誇りと思うことが、また持続可能な地域の実現につながる。」と大野さんは言う。​

広がる想い

炭やきビレッジ構想の実現を目指してから、周りからの見方も変わってきたそうだ。2017年に植林地の造成費を集めることを目的にクラウドファンディングを行った。「『炭やきビレッジ構想』で、過疎に苦しむ珠洲市に生業をつくる!」というプロジェクト名で、炭やきビレッジ構想が実現することでどんな課題が解決されるか、どんな地域づくりを目指すか、想いを語った。目標金額は200万円。締切りの数日前まで目標額に届かず心配したが、最終的には146人の支援者から250万円を超える支援が集まった。

さらに、炭やきビレッジ構想や植林活動を発信し続けたことで、2019年には公益財団法人日本自然保護協会の紹介で、イギリスの化粧品メーカー「LUSH」が里山保全の活動に共感し、これまで商品になっていなかった炭の微粉末を洗顔料の原材料として使ってもらえることに。

自分の夢を明らかにして行動することで、多くの人に知ってもらい、共感や応援、支援を受けてきた。それがまた大野さんの前に進む力になっている。

その熱き夢の実現に向け、今日も炭やきに精を出す大野さんである。

大野製炭工場 大野製炭工場

店舗情報

 

社名大野製炭工場
代表大野長一郎
住所珠洲市東山中町ホ部2
TEL

0768-86-2010

URLhttps://www.suzu.co.jp/oonoseitan/