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金沢市出雲町の戸板小学校の隣接地に、グリーンの外観の長屋風の建物に複数業種の店が集まった商業スペース「ビジネスセンター308タウン」が、2019年11月にオープン。その中の一つに自家焙煎珈琲豆の店「BEANS SHACK」があります。30年働いた会社勤めを辞め、大好きな珈琲の商いで、第二の人生をスタートさせたオーナーの若狭浩将氏にお話を伺いました。
ソフトウエアを開発するSEとして30年あまり働いていた若狭氏は、時代の急激な変化の中で、10年あまり前から自らの居場所がいつまでも会社の中にあるとは限らないとの危機感を抱くようになりました。何か自分の好きなことを仕事にして第二の人生をスタートさせたいと考え、若い頃から好きな珈琲豆を自家焙煎で販売する店を持つことを目標に据えます。以来、珈琲に関わる専門書を読みあさり、珈琲の焙煎や淹れ方の講習会に参加し、コーヒーインストラクター2級を取得。さらに知人の営む珈琲ショップへ行って教えを請うなど、仕事と並行して珈琲豆についての知識を深めると同時に、開店に向けてお金を貯めることに励みます。想定していた開店資金が貯まり、珈琲豆の知識も身に付いたことから、満を持して2020年4月、独立オープンにこぎつけました。
自分の店をどこに持つか、あちこち物件を探して廻るものの、なかなか良い出会いがありません。珈琲を焙煎するマシンを設置することから、壁に穴を開けて煙突を外に出す必要があり、隣接する建物や民家があると、焙煎時にニオイが発生して公害問題に発展する懸念があったためです。ようやく、毎月の家賃が想定していた範囲内に押さえられ、焙煎マシンを何とか置くスペースがあり、煙突を外に出しても隣接地が駐車場で、家が建っていない理想的な現店舗が見つかり、この場所に決めました。店名をどうするか、若狭氏なりに3つほど候補を考えていましたが、いずれもネットで検索すると、既に店舗名として使用されていました。もちろん、使えないわけではないものの、他店と同じ名前は面白くないため、小屋のような小さな珈琲豆を販売する店との思いを込め「BEANS SHACK」としました。
完成したばかりの新しい施設で、何店舗かの店が集っていることから、それなりに集客効果があるだろうという期待がありました。ところが、いざ営業を始めてみると、路面店と異なり、道路から20メートルあまり奥まったところに若狭氏の店があるため、奥まで来てくれるお客さんが少ない上に、この店があることを知っているお客さんしか来店しないという店舗の場所の難しさを実感させられます。現在、集合店舗の入口の電柱に店の案内看板を設置するなど試行錯誤をしていますが、店の前に駐車スペースはあるものの、雨が降り出すと途端に客足が途切れ、土砂降りレベルの雨が続くと、1日店を開けていて来店客が一人か二人という厳しい日もありました。自分の店の存在を知ってもらうべく、近所の事業所にチラシを撒いたり、珈琲豆のサンプルを付けてチラシを届けてみたりと、努力はしているものの、思ったほどの成果が出ずに苦労する日々を送っています。
自家焙煎という言葉はよく耳にしますが、焙煎のやり方は専門書を読めばそこそこできるものの、微妙な火加減やその豆に合わせた焙煎時間の調整など、やはり経験を積むことが重要です。珈琲豆に火が点いてダメになってしまうこともあります。珈琲豆の種類、産地によって、焙煎の仕方、お湯の温度、淹れ方等々異なってくるため、そうしたことを全て理解した上でお客さんの好みに合わせて提供するのは至難の業と思い、その点をお伺いすると、「そんな天才的な方もいるでしょうが、私の場合は全て身につけてのスタートではなく、日々勉強と試行錯誤を重ね、お客様に教えていただきながら、ゆっくりと成長していければと思っています。」と自らに言い聞かせるように語る若狭氏でした。
珈琲豆を扱う何軒かの問屋のホームページで、扱っている珈琲豆の産地や種類を見て、その中から自分がこれならと思う珈琲豆をいくつか選んでいます。最初は焙煎機の扱いがまだまだのため、珈琲豆をムダにすることを覚悟の上で焙煎を繰り返します。その中から、自信を持ってお客さんに薦められる豆を選び、現在は12種類あまりに絞り込み、そこからさらに、お薦めの豆をブレンドし、ハウスブレンドとして販売しています。専門店として、お客さんに選んでもらうことを考えると、最低でも10種類前後の品揃えは必要との思いですが、とはいえ、どんな風味の珈琲なのか試飲しないと分からないことから、その日の珈琲豆を決め、何杯でも無料で試飲サービスしています。その上で、もっと酸味のあるもの、苦味のあるのが欲しいといった要望があれば、お客さんが納得するまで試飲してもらっています。「納得して購入してもらえた方は、リピーターになって下さる確率が高いと思います。」と笑顔に。常連の方は、「まずは今日の珈琲を1杯お願いします。」から始まるそうです。
店頭だけではなかなか売上が伸びないことから、毎週木曜日を配達の日と決め、金沢市内とその近郊であれば、珈琲豆を配達することも検討中。注文は電話またはメールでの受付で、同店のホームページから注文票をダウンロードでき、注文もキャンセルも配達日の3日前まで。返品は不可。それとは別に、オフィスへのデリバリーや喫茶店への卸しもやっていきたいとのことで、今後ホームページを充実させ、そうしたニーズも拾い上げられるよう取り組む予定です。さらに、手土産やギフトに使える2,000円~3,000円程度の珈琲豆と関連商品の詰め合わせも、より充実させていく考えです。昨今の急激な円安、原油高、原材料費の高騰、輸送コストの高騰は、輸入品である珈琲豆にとっては強い逆風下にあります。その点について「今ある在庫分の豆については現状価格を維持しますが、これから仕入れる珈琲豆は値上がりしてくるため、商品価格に転嫁せざるを得ないかなぁ・・。」と顔をしかめます。
世界各地にあるこだわりの珈琲農園の珈琲豆に限定して仕入れるとなれば、スーパー等に並ぶ一般的な珈琲豆とは原価が全く異なり、2倍近くの高値。そのため、風味、香り、苦味、酸味、コクといったそれぞれの珈琲豆が持つ個性や魅力を、いかにお客さんに理解してもらい、なおかつリピーターになってもらえるか、これからが正念場です。コロナ禍が一段落し、人の動きも活発になってきていることから、より多くの人に「BEANS SHACK」の存在とこだわりの珈琲豆を発信し、まずは店に足を運んでもらえるかどうかが鍵を握ります。同時並行して、アマゾンでの商品販売も模索しつつ、店頭での美味しい珈琲の淹れ方教室の開催や、店舗周辺地域へのチラシ配布など、誘客につながる地道な努力を続けながら、本物の珈琲の魅力を発信し、ファン客を増やしていく考え。飲食店登録も有することから、喫茶店経営も視野に入れつつ、308タウンの賑わい創出を担ってもらいたいですね。
若狭 浩将氏
店名 | BEANS SHACK |
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代表 | 若狭 浩将 |
住所 | 金沢市出雲町イ230-2-108 |
電話 | 076-254-6435 |